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第120話 旅へ(最終話)

交換日記[筋肉神]


          /⌒丶         /⌒\

         /´    ヽ       /、   ヽ

         | /    |     /  /    |

     .    |     .|     | ,/ .    |

         |      |∧_∧ / ノ    ,|

     .    |     |(´・ω・`)      丿

         ノヽ`   ノヽ   /  `   /

        /   ,/ソ         \ /

       (       ,/    `´   |  

        \   イ  ´         | 

         \  ヽ \    八  ノ 

           ヽ    ` ー ´人` / 

            \     / ´,、ヽノ  

           ノ⌒    /      |


我が加護を受けたい娘募集だっ!

ふぉぉぉ…………ふんっ!

 灰色の空に陽光が射します。

 空を埋め尽くしていた毒竜たちが、突如として意志に目覚めたがごとく、一斉に四方八方へと散り始めました。数千、ううん、もしかしたら万を超える数の毒竜たちが。


 ペガサスに騎乗したレーゼ様と、火竜イグニスベルに騎乗したラドさんが、逃げ惑う毒竜たちの後方から追撃を開始しましたが、あの数では相当数の毒竜がレアルガルドに放たれてしまったことでしょう。

 それでも、一体でも多く駆除をしなければならないのだから。聖女は神の雷を、騎竜王は双斧を懸命に振るって。


「毒竜、死なないんだ……」


 わたしとアデリナを呑み込むように、影が落ちました。

 毒竜ではありません。甚五郎さんです。


「そのようだ。これからレアルガルドは荒れることになる。まだまだ我々の力が必要だな」


 空を見上げて憂いを込めて。


「だが、さほどの問題もあるまい。レアルガルドが種族や国境を超えて一つになったのだからな。黑竜ならばともかく、毒竜程度では揺るぎもしないだろう」


 わたしたちの頭上にも、眩いばかりの陽光が降り注ぎます。甚五郎さんのおかげで、余計に眩しいです。目が痛くて鬱陶しい。


 北の方角から、鞘に収めた愛刀を杖代わりにして、両足を引きずりながら魔王が近づいてきます。もう力が入らないのでしょう、汗も出尽くしたといった状態で、肩で荒い息をしていました。

 肌が乾いてしまっているからか、少し老いたようにも見えます。


「……こっから先ぁ、それぞれの国が動きゃあいい……。……おれやラド、レーゼに女装坊主の出番だ……」


 甚五郎さんが巨大な大胸筋の前で野太い腕を組んだまま、魔王に声をかけます。


「大丈夫か? ずいぶんと顔色が悪いぞ、魔王よ」


 魔王がげんなりした顔つきで、甚五郎さんとわたしを見ました。


「……おまえさんたちみてえな体力莫迦と一緒にすんじゃあないよ……。……旦那や蓮華嬢を見てると、人間をやめるのやめねえのと(のたま)ってたおれが、まだ一番人間やってんだなァって思えるぜ……」


 どういう意味ですかコラ。


「えっこらせっと……」


 魔王がわたしの隣に腰を落とします。そうして、長く息を吐いて。それに合わせるように甚五郎さんもまた腰を下ろし、胡座を掻きました。

 みんなが、わたしの両腕に抱かれて瞳を閉じているアデリナに視線を向けます。


「大した嬢ちゃんだ。おれの斬撃疾ばし陸連でも墜ちねえ完全体の黑竜を、たった一人で墜としやがった」

「ああ、驚いた。蓮華くんの激しい動きに合わせての魔法も見事だった。砂漠の大地を鉄板に変えてくれたことで私も黑竜核と互角に戦えた。間違いなく勝利の立役者だ」


 顔色は青白く、呼吸は短く荒いです。


「……すまない。治癒魔法で救っておいてもらいながら、私がもう少し早く復活できていたならば、こんなことには……」


 甚五郎さんが苦渋の表情で頭を下げます。


 あは、あはは。嫌だな、それ。

 それじゃ、まるで……もう……。……だめみたいじゃない……。


 おそらくは幕末に死を見続けてきた侍は、静かに目を伏せました。

 アデリナの両腕に巻きつけた装束の包帯からも、じわじわと血液が滲み出ています。


「どうにか、どうにかなりませんか! お仲間に治癒魔法を使える方はいないの!?」

「すまねえ。うちで火遊び以上の魔法を使えるのはライラくらいのもんだが、あいつは精霊魔法専門だ。せいぜい傷口を灼くくらいしかできねえ」


 だめ……それじゃ……剣士になれない……。


「リリィのエリクシルも、効能の復活を考慮すりゃあ、最短でも丸一晩はかかる。ましてや限界まで戦って失神し(のび)ちまってる状態じゃあな……。……正直なとこ一晩でもあやしい」


 魔王が砂漠で倒れたままの銀竜に視線を向けて、そう呟きました。

 全身が呼吸に合わせて上下していることから生きてはいるのでしょうけれど、彼女も軽い怪我ではありません。


 胡座を掻いた甚五郎さんが、悔しげに漏らします。


「シャーリーも精霊魔法使いだ。治癒魔法らしきものを使えるデレクという男もいるのだが、やつの治癒魔法は、おそらくやつ自身にしか効果がない。そうでなければ、もっと使うべきときに使えていたはずだ」


 唇、紫色になって。

 時折苦しげに眉をしかめて、アデリナは小さく唸ります。


 呼吸がもう、さっきよりも……弱く、細く……。


 やがて、空からはレーゼ様とラドさんが、大地からはグラノスさんにアゼリア王ゲイルさんと影の魔女ルシア、リリアン様に甚五郎さんご一行や、生き残りの魔王軍、メルさんが歩み寄ってきました。


「誰かアデリナを助けてくれませんか!? 手首が取れちゃったの! 縛っても血が止まらないの! 治癒魔法を使える方はいませんか!?」


 声を張ってわたしは周囲に視線を向けますが、みな沈痛な面持ちをするだけで、誰も名乗り出てはくれません。


「ねえ! 誰か! ……お願い……お願いだから……」


 これだけいて、誰も使えないの?

 絶望感に、声、途切れて。みっともなく、ぼろぼろ泣きながら。


「……お願いだから……わたしの友だちを……助けて…………。……戦ったの……誰より戦って…………ずっとずっと……レアルガルドのために…………旅をして……」


 とりとめのない言葉だけが、次から次へと出てきてしまって。

 ああ、どうしてわたしには、魔法の素養がないの……? アデリナがこんなにも苦しんでいるのに、何もできないの……?


「お願い……誰か……」


 沈黙だけが、その場を支配します。

 みな、一様にうなだれて。

 アデリナの脈が、呼吸が、徐々に小さくなってゆきます。


 ……こんなことのために……こんな結末を迎えるために……旅をしてきたんじゃない……。


「ドラ姉に魔素を注ぐといいかも? たぶん、ドラ姉とエリクシルの復活が早まる?」


 変態王の横で控えていた幼い魔女ルシアがリリィさんを見ながらそう呟くと、魔王が大きく目を見開きました。

 ざんばら髪を掻き(むし)って、魔王が叫びます。


「それだ! かっ! なんでそれに早く気づかねえ! 糞!」

「どういうことだ、魔王? というか、あまり頭を掻き毟るんじゃあない。毟るという字は少ない毛と書――」

「ハゲはちょっと黙っててください! どういうことですか、魔王!?」


 わたしが尋ねると、魔王は以前、アラドニアの前王ラヴロフ・サイルスとの戦いの際に、リリィさんが重傷を負って長い眠りについたことを掻い摘んで話してくれました。

 銀竜は本来、生半可なことでは傷を負ったりせず、多少の傷であれば体内を流れるエリクシルによって瞬時に完治させてしまう生き物なのだそうです。そして、使用した分のエリクシル成分は、体内で魔素を自動変換することで復活させられます。


「ということは、……リリィさんが目を覚ますまで魔素を注ぎ続けて、目を覚ましてからもどんどん注げば、エリクシルはすぐに復活する……?」

「違う。怪我のせいで気絶してるリリィが目を覚ませた時点で、エリクシルはもう体内に復活してるってことだ」


 わたしたちが何かを言うまでもなく、生き残りの魔法使いたちは、気絶している銀竜のもとへと走り出しました。

 ルシアも、グラノスさんも、メルさんも、シャーリーさんも、ライラさんも、レーゼ様やリリアン様まで。


 それだけではありません。


 魔王軍も、イグニスベルやゼロムゼロムといった古竜も、この場に集った魔法を使えるあらゆる方々が、たった一つの目的のために銀竜シルバースノウリリィのもとへと走ったのです。

 金髪ロン毛の格好いい騎士様も、ちょび髭の変態王も、みんなみんな、わたしの友だちを助けるために、銀竜の身体に両手をあてて。魔素を注いで。


「嬢、アデリナ嬢を連れて来い! リリィの傷口に直接身体をくっつける! 旦那は手首を拾って来てくれ!」

「はいっ!」

「うむ」


 ただ、英雄の復活だけを願って。



                ノ

          彡 ノ

        ノ

     ノノ   ミ

   〆⌒ ヽ彡     

   (´・ω・`)。0○(無慈悲な罵倒に心の毛も抜ける……)



 旅立ちの日――。

 わたしたちが黑竜と戦ってから、一週間が経過していました。


 あの戦いのためにアラドニアに集った七英雄は、アデリナと魔王、そしてレアルガルドに故郷を持たない甚五郎さんを除いて、それぞれの国へと帰ってゆきました。国家として、一刻も早く今後の方針を決定づけるためです。


 あの日、甚五郎さんが魔王に黑竜のとどめを譲ったことには、二つの大きな意味があったのです。


 一つはレアルガルドの平和――。

 魔王がかつてない規模での大陸の危機を救った英雄となったならば、リリフレイアも、アリアーナも、もうアラドニアと戦争を続けることはないでしょう。もともと、魔王率いるアラドニアは、前王の頃とは違って人類領域に侵攻さえしていなかったのですから。

 魔王もリリアン様もレーゼ様も、誰一人として望んでいなかったこの戦争は、これにて終戦を迎えたのです。


 もう一つは魔王が過去に犯してきた罪への贖罪――。

 結果論ではありますが、魔王がかつてレアルガルド北方から人類を追い出さなければ、今回の黑竜戦での被害は比較にならない規模となっていたでしょう。それこそ、カダスの悲劇の数倍は命が失われていたと想定されます。

 ラヴロフ・サイルスを討ったことを差し引いても、魔王の存在が、結果的にレアルガルドの人的被害を最小限に押しとどめたことに間違いはありません。


 ぎらぎらと輝く頭皮の内側で、あのハゲ勇者はそこまでのことを考えていたのです。

 わたしが思うよりもずっと、羽毛田甚五郎という筋肉ハゲは頭の切れる方だったのだと、今ならわかります。二重の意味で。


 わたしの前では、魔女キザイアさんが箒にのって浮かんでいました。

 あの日、姿を消していた魔女は、時空の狭間に身を隠していたそうです。大切な最後の役割を果たすために。


 黑竜は死んでいない。彼女はそう言いました。

 神は死なないものだ、と。肉片と化した黑竜を、球体状の魔法で包みながら。


「黑竜は責任を持って、異空に連れていく。安心して。ここまで弱れば、わたしの力でも十分。けれど、一つだけ言っておきたいことがある」


 魔女は少し溜めて、静かに続けます。


「黑竜をあまり恨まないこと。これは悪というより、世界の天敵だったに過ぎない。悪意も善意もなく、ただ食欲を満たすために魔素を喰らい続けただけ。人間が他の生物しか栄養にできないのと、あまり変わらない。そういうふうに、世界に産み出された哀れな神。だからこの戦争は、ただの生存競争」


 そっか……。善意も悪意もないということは、そういうことなんだ……。

 考えたこともありませんでした。


「もちろん、だからと言ってあなたたちが罪悪感を持つ必要はない。生存競争だから、種にとって都合が悪ければ駆除するのはあたりまえ。それは自然淘汰」


 キザイアさんは淡々とそう告げます。


「――それより、あなたは帰らなくていいの、魔法少女? 今ならわたしが送り届ける」


 深く魔女帽を被ったキザイアさんの顔は、あいかわらず見えません。若いのか老いているのかさえわからない声。けれどその話し方は、物語を読み聞かせる母親のように、とっても優しくて。


「ううん、今はまだ帰れません。レアルガルドには異邦人がまだまだいるはずだから。帰りたいと願う人を置いては行けないもの。だから、地球の父や母にはこれを渡して?」


 一週間をかけて書き溜めた、レアルガルドでの経験。出来事。一冊のノート。

 内容は。


 わたしが無事だということ。

 これからも心配はいらないということ。

 魔法少女とグリム・リーパーとの戦いは、もう二度と起こらないということ。

 黑竜と呼ばれる怪物がいたこと。

 それを退治するための旅は、と~っても楽しかったこと。

 黑竜と戦ったこと。

 レアルガルドが一つに結ばれたこと。

 何より、最高の友だちができたことっ!

 ……そして、いつかあなたたちのもとに帰ること……。


 激しい戦いで身体を壊してしまった母に、至高薬エリクシルの小瓶を添えて。


「必ず渡すわ」

「お願いします」


 キザイアさんに手渡します。

 時間と空間を越える魔女。けれど、過去には帰れない。一度でも未来に跳べば、その未来より過去の世界には戻ってはこられなくなる。十秒先の未来に跳べても、その時点から十秒前の現在には戻れない。

 取り返しのつかない魔法よ、と彼女は言いました。少し寂しげに。


「では、もう行く。さようなら」

「はい。あ、待って!」

「?」


 魔女帽が斜めに傾きます。

 わたしは深呼吸をして、魔女服魔女帽の魔女に一か八かお願いします。


「その箒、ください!」

「だめ」

「あ――」


 手を伸ばしたときにはもう遅く、魔女キザイアの姿はすっと消滅していました。空に飛び立ったのではなく、たぶん、時空の狭間に入ったのでしょう。

 わたしはラドニス城の中庭で地団駄を踏みます。


「ああぁぁ! あれがあれば魔法少女になれたのにぃぃぃぃ!」


 ずんずん揺れる中庭に、魔王が大あわてで叫びます。


「ま、まま待て待て、やめろやめろィ! こんなとこで嬢に暴れられたら、ラドニス城が崩れちまうだろうがよ!」

「あ、すみません……」


 乙女恥ずかしい。


 赤面したわたしに、甚五郎さんとアデリナが同時に破顔しました。

 アデリナ。もちろん無事です。あの後、リリィさんが目を覚ましてからしばらく、アデリナもまた瞳を開けたのでした。

 手首にはうっすらと傷が残ってしまったけれど、ちゃんと動くそうです。


 中庭にいるのは、わたしとアデリナ、そして魔王と甚五郎さんだけ。中庭入口からは、リリィさんやライラさん、そしてシャーリーさんにアイリアさんが、こちらを見ています。

 でも、近づいてはこないの。たぶん、今この空間にいる四人の関係は、特別なものだって、彼女たちも気づいているから。


 わたしたちは暖かい日差しの中で、互いに視線を向け合います。微笑みながら。


「さて、どうするね? おれとしちゃあ、いつまで食客やってくれてもかまわねえぜ。リリィやライラも喜ぶしな。それに、今回の件でアラドニアは大国から小国、いや、もう国家としての体裁すら保てねえほどに衰退しちまった。他国への牽制って意味では、勇者や英雄の滞在は歓迎だ」


 甚五郎さんがくたびれたスーツジャケットと裸ネクタイを風に揺らして、ばちん、と薄気味悪いウィンクをします。


「それも悪くはないが、私の旅もまだ終わってはいないのだ、魔王よ」


 甚五郎さんが肩越しに、親指で中庭入口から様子を窺っている銀髪碧眼の少女、シャーリーさんを指さします。


「異国で意志ある竜人となった王のため、彼女の母親を捜している。名はエカテリーナだ」

「悪ィな、旦那。知らねえ。今のアラドニアに人間はおれしかいねえ」

「うむ。私はエカテリーナを捜すため、彼女らを連れてしばらくレアルガルドを旅しようと思う。各地に散った毒竜も気になることだしな」

「そうかい。……そいつぁ残念だ」


 魔王と勇者が固い握手を交わします。

 アデリナが静かに呟きます。


「あたしは一度シーレファイスに戻る。父に今回のことを報告したい。それに、王位継承者があまり長い間国を留守にしておくのも体裁が悪い」

「アデリナ……」


 ああ、言わなければなりません。喉に詰まった寂しい言葉を。

 わたしはいつの間にかうつむいていた顔を上げて、笑顔で告げます。


「ここでお別れですね、アデリナ」

「……ああ。楽しかった」

「うん……。楽しかった……」


 笑顔……だったのに、唇が歪んで。わたしだけじゃなくて、アデリナも。

 わたしたちはほとんど同時に、二人抱き合っていました。お互いの背中に手を回して。わたしは彼女を潰さないようにそっと柔らかく、彼女はわたしをギュッと強く。


「大好きよ、アデリナ……」

「あたしもだ……」


 お互いの涙を、見ないようにして。


「次に逢うときには剣士になってるよ」

「わたしだって負けませんよ。あきらめたわけじゃないですからね」


 鼻にかかった涙声で、そう言って。そうして、身体を離します。


「アデリナ、ナマニクさんをお願いしますね」

「ああ」


 アデリナの足の遅さを考慮したわけではありません。ナマニクさんはシーレファイスの守護竜です。もう独り立ちのときなのです。


「定期的に連絡はしてこい。王族のネットワークに異邦人の噂が入ったら、その都度おまえに報せてやる」

「ありがとう、アデリナ」


 アデリナが長い髪を風に揺らしながら、甚五郎さんに向き直ります。


「甚五郎。あんたもシーレファイスに定期連絡をしろ」

「む?」

「エカテリーナという名の女を捜しているのだろう? 父クラナス王は各国に友人がいる。手伝えることは少なくない」

「おお、それは助かる」

「……それと……カダスではすまなかった。あんたはあたしの間違いを正してくれた。感謝してる」


 しばらく頭を下げて。

 顔を上げたとき、アデリナは晴れ晴れとした表情をしていました。


「ゼロムゼロムにもよろしく伝えてくれ」

「やつならもう旅立ったぞ。私の騎竜にはなりたくないとな」


 眩しいですからね。黄金竜にのってるハゲなんて、両方輝きますから。


 アデリナが小さくうなずいて。

 そうして、艶やかな唇で。静かに、けれども旅立ちを楽しむように告げます。


「じゃあ、ここで」

「うん」

「そうだな」

「……おまえさんたち、いつでも遊びに来い」


 甚五郎さんが真っ先に背中を向けて、歩き出し――かけて、もう一度振り返りました。


「おおおおっっとぉ! ふぅ、私としたことが危ない危ない。雰囲気に流されて主目的を忘れるところであったわ」


 あ~……おぼえてたんだ……。このまま忘れるのかな~って思ってたのに……。といいますか、今主目的って言った……。


 魔王が苦笑混じりに手招きします。中庭入口で待っている、赤い懸衣を着たリリィさんをです。


「リリィ。エリクシルを旦那に」


 リリィさんがシャーリーさんとアイリアさんに目配せをすると、ぱたぱたと走ってきました。


「小瓶ならもう作ってませんよ」

「ああ~……ま、しゃあねえやな。シルじゃなくて(じる)のほうでいいんじゃねえかィ」

「ええ……いいんでしょうか……?」


 甚五郎さんがわくわくを抑えきれないといった表情で叫びます。


「なんでもいい! 早く、早くするのだ! 間に合わなくなっても知らんぞーーーっ!」


 わたしにはもう手遅れに見えました。


「はぁ~い。では、頭を下げてくださいな」


 リリィさんが甚五郎さんの前に歩み寄り、両手をぱたぱたして頭を下げるように促します。


「うむ」


 超絶巨体の甚五郎さんが、ニヤけ顔でリリィさんの前に跪きました。


「じゃ、やりますね」

「さあ、ど~~~~~~~~~~~んとやってくれ! しっかり手で塗り込むのだ!」

「はいはい。……うるさいハゲですね……」


 リリィさんのほっぺが、ぷくっと膨らみます。





 くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ――ぺっ!! ぴちゃん。





 わたしとアデリナが白目を剥きました。


 何!? 今目の前で何が起こったの!? リリィさんが甚五郎さんの頭皮に唾を吐きかけたように見えたんですけど!?


 その後、リリィさんは右手を持ち上げて、ぱぁん、とハゲ頭を平手で叩きます。


「はい、終わりです」


 頭皮防御力のない甚五郎さんが白目を剥いて崩れ落ちたのは、その直後のことです。いや、肉体への攻撃というよりも、間違いなく精神的ショックのほうが問題なのでしょうけれども。


 魔王が半笑いで呟きました。


「リリィ。おまえさん、なんで最後頭叩いたんだ……」

「え? わたし、ハゲ嫌いなので」


 シャーリーさんとアイリアさんが大あわてで駆け寄ってくる中、唯一、黑竜核と互角に戦い合った勇者を囲んで、わたしたちは大笑いをしました。


 魔王は子供のようにお腹を抱えて笑っていました。まっすぐに。

 アデリナも堪えきれないといった表情で。甚五郎さんの仲間であるはずのシャーリーさんやアイリアさんでさえ、彼を助けおこしながらも大爆笑してて。


 その後、彼に髪が生えたかって?

 それはもちろん――……。

       

交換日記[魔法神]


   *゜゜・*+。

   |   ゜*。

  。∩∧∧  *

  + (・ω・`) *+゜

  *。ヽ  つ*゜*

  ゛・+。*・゜⊃ +゜

   ☆ ∪  。*゜

   ゛・+。*・゜


私の加護を受けたい娘募集ですぞ!


冗談です。応募されても加護は受けられません。


筋肉魔法少女とポンコツ少女剣士の旅に最後までお付き合いくださり、

ありがとうございました!

これにて、『召喚ハゲ無双』『竜×侍』『魔法少女をあきらめない!』と

続きました「魔法少女ハゲ侍」シリーズ終了です。


ご感想はいつまでもお待ちしております。


追記

あとがきらしきものは本日7/5の活動報告にて。

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[良い点] ブレない面々(≧∇≦)b [気になる点] 魔王の病気は、前回の戦闘でエリクシルが強化されて治ってた?でいいんでしょうか? [一言] 楽しく、ラストは熱い感じで良かったです(ToT) これか…
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