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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第一章

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第11話 女剣士をあきらめない(第一章完)

交換日記(筋肉神)


筋肉なき女剣士が助けに来たぞ。

正直これは邪魔なだけだろう。 (´゜ω゜)、ペ!

 アデリナは背中のグレートソード、ドラゴンスレイヤーの柄に手を伸ばしました。

 彼女があまりに自信満々の様子だったからでしょうか。サイクロプスたちが気圧されたように、じりじりと後退しています。


 けれど、振り回せるの? あんな大きさの特大剣が、ふつうの女の子に。

 一度緊張の糸が切れたためか、わたしの身体はもう思うように動きません。森林の大海亭の壁に背中をあてて、ただ座って見ていることしか。


「……む? ンぐ?」


 アデリナが柄を持つ手を引こうとして、がちん、とドラスレが鳴りました。


「ぬ? く! ぐぬ、ぬぬ……抜けんか~……」


 抜けん!? ちょっとっ、抜くことさえできないのっ!?


 わたしは白目を剥きました。

 言わんこっちゃない。仮に抜けたとしてもですよ? どう見ても女の子に扱える剣ではありません。わたしのような怪力娘以外には。


 ――ギャガギィッ!

「ぬへぁっふぅ!?」


 岩石の棍棒が横薙ぎに振るわれ、アデリナが掘り出された薩摩芋のような格好で、かろうじてそれを躱しました。

 巻き起こされた暴風がわたしの全身を叩きます。


「ひぇ、あっぶな~……。――おい貴様、あたしを殺す気か!」


 あ~……見るからにだめだ~……。

 もう膝が震えてます。顔色だってほら、あんなに青ざめて。

 何しに来たの……。


 メガネーサンはアデリナを凄腕だと買っていましたが、わたしにはどう見てもそうは思えません。ですが、いい人なのは間違いありません。命の恩人でもあります。

 助けなきゃ。そうは思うけれど、身体はまだ動いてくれません。

 さすがにちょっと殴られすぎてしまいました。


 アデリナはドラスレを抜くことを早々にあきらめて、懐から小さなナイフを取り出しました。

 ですがそれは、果物の皮を剥くときに使うような小ささです。あんなのでは、たとえ垂直に刺さったとしても内臓には届きません。皮下脂肪で止まっちゃいます。


「ふ、貴様たちごとき、これで十分ということだ」


 なのにアデリナときたら、膝をかくかくさせながらも、その小さな切っ先をサイクロプスたちに向けたりして。

 けれどもサイクロプスたちは、アデリナを脅威ではないと判断したのか、真ん中の一体が岩石の棍棒を持ち上げました。

 いけない――!


「逃……げ――」


 叫んだつもりでしたが、思うように声は出ません。

 アデリナは無謀にも、ナイフで岩石の棍棒を防ごうとして――次の瞬間、わたしは目を見張りました。


「……っ」


 ナイフの刃と岩石の棍棒が接触した瞬間、硬い石の塊、岩石の棍棒が大量の砂へと変質したのです。

 砂は当然のようにアデリナに降り注ぎ、彼女は長く青い髪を振りながら、のそのそとその場から退避しました。


「ぷわっ、ぺ、ぺ! 口ン中入った! だが、どうだ! あたしの剣技を以てすれば岩石ごとき、一瞬で砂になるまで斬り刻むことも可能なのだ!」

 ――ギ……ギギ?


 いや、無理でしょ。

 そんなこと宮本武蔵や沖田総司にだってできませんよ。ミキサーじゃないんですから。

 どう見ても魔法です。土属性魔法。

 だとするなら、あのナイフが魔法のステッキの代わりなの?


「――! アデリナ、危ない!」

「ん?」


 左右のサイクロプスが、今度は同時にアデリナを左右から挟み込むように、岩石の棍棒を振るいました。ナイフは一本。けれども岩石の棍棒は容赦なく彼女を圧し潰そうと、左右から迫ります。


「のわーっ!?」


 テンパったアデリナがナイフを取り落とし、目をぎゅっと固く閉じて両手を広げます。両方の掌で、超重量の岩石の棍棒を受け止めるような形で。

 誰もが思うでしょう。一秒後には挽肉サンドにされる、と。


 ところが。

 どぱん、と奇っ怪な音が響いた直後、岩石の棍棒はやはり渇いた砂へと変質し、アデリナの頭だけを出したまま全身を砂山の中に埋めていました。


「ぷぁっ、オエッ! だぁ、もう! 埋まっちまったじゃないか! ぺっ、ぺっ! くそ、耳ん中まで! ……帰って風呂に入り直しだよ、もう……」

 ――ギッ!?

 ――ガギャ、ガギャギ……?

「これでわかっただろう、魔物ども。剣士の握力を以てすれば、岩石の棍棒ごとき握りつぶすなど造作もない」


 ……ねえ、何言ってんの? 寝言なの?


 けれども、サイクロプスたちの動揺と言ったら!

 アデリナは薄緑の風で全身を埋めた砂を吹き飛ばし、何事もなかったかのように出てきました。


 今、さり気なく風属性魔法を使っていませんでしたか? 自称剣士のアデリナさん。

 魔法のステッキ代わりと思っていたナイフさえ、もう手には持っていないのに。


 やっぱりあの人、魔法少女だ。

 しかも七宝家の魔法少女と同じく、四属性すべてを扱える特殊な――あ、わたしは七宝でも出来損ないでしたけどね。くぅ~、この格差よ。

 ふいにアデリナがふぅと息を吐き、ぼそりと小さな声で呟きました。


「……しんど……もう動けんぞ……」


 体力なさすぎっ! 疲れるの早すぎ!

 ですがアデリナは豊かな胸を張って、朗々とハッタリを叫びます。


「ふ、どうだ。剣士として剣を極めれば、無手の体術でも貴様らごときには負けん」


 う、う~ん。もしかして本人、自分が魔法を使っていることに気づいていないのかしら。


「だが貴様らはシーレファイスの防壁を破りこそしたが、まだ誰も殺していない。今ならば見逃してやらんこともないが。どうする、人喰いの化け物どもよ?」


 通じるの? 言葉。


「……ていうかもう無理だ……帰ってくれ……」


 本音が駄々漏れになってますよ。肩ですごく荒い息をしていますし、汗ぐっしょりですし、膝はあいかわらずかくかくしてますし。

 サイクロプスたちは突然現れた闖入者の奇っ怪に戸惑っているようです。


 ――ガ、ギァ……?

 ――グギ……。

 ――ゴギガギィ……?

「ちっ、めんどくさいやつらだな」


 アデリナが拳を形作り、全身から炎を立ち上らせました。

 言っておきますが、熱血(バーニングハート)とかいった類の比喩ではありません。実際に燃えているんです。もちろん彼女が出した魔法の炎なので、彼女自身を灼くことはないのでしょうけれども。


 もはや人間大炎柱状態。天をも焦がす紅蓮の炎というやつです。

 シーレファイスが陽炎に歪んでいました。

 熱い……。いっそもう、はた迷惑なくらい熱いです……。


「ガギゴギ言ってないで、あたしの剣が火を噴く前に消えろっ!!」


 あなた、剣なんて一度も抜いてませんから。あと、全身からすでに火を噴いてますし。このわずか一分ほどの間に、わたしはいったいどれだけ突っ込めばいいの?


 ですがその一喝だか恫喝だかが効いたらしく、三体のサイクロプスはじりじりと後退を始め、ある程度の距離を取ったあと、背中を向けて走り去ってゆきました。


 そういえばメガネーサンが言ってましたっけ。サイクロプスの弱点は大きな火だって。

 彼らが崩れた防壁から森へと逃げ去ってゆくのを見送って、アデリナはため息をついてその場でぺたりと膝を折りました。


「アデリナ?」

「……疲れた。寝る。王城からここまで走ってきたからな。膝ががくがくだよ、まったく」


 なんとまあ。どうやら膝を震わせていたのは怖かったからではなく、彼女なりに必死で走ってきたから膝が笑っていただけのようです。

 なんなの、この人。わたしの知っている魔法少女たちよりも、かなりデタラメなんですけど。


「起きたら肩貸すから、ちょっと待ってろ」

「こんなところで?」


 返事はもうありませんでした。代わりに寝息が聞こえています。

 ほんとに体力ないんだなぁ、この人……。

 反対にすっかり回復したわたしは立ち上がり、眠るアデリナの手を取って彼女の全身を背負いました。


「んしょっと」


 わたしよりも背はずっと高いけれど、軽いものです。

 見た目通り細く、筋肉もないものだから。グレートソードの重さも知れたもの。ほんと。魔法を使えることも含め、わたしは彼女のすべてがうらやましい。


 なんとなくですが、メガネーサンの言葉の意味がわかった気がしました。

 アデリナは優れた冒険者でありながら、誰も彼女とは組みたがらない、と。

 剣士に憧れる魔法少女のアデリナ・リオカルトと、魔法少女に憧れる剣士の七宝蓮華(わたし)は、少し似ている気がしました。



 ――これは、そんな出来損ない二人の冒険譚です。




交換日記(魔法神)


愚かなり、筋肉神。

我が愛する娘の魔法、とっっっくと拝むがいいわ。(´^ω^`)9m

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