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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第一章

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第10話 魔法少女はあきらめない

交換日記(筋肉神)


魔法少女の類い希なる筋肉が、巨悪を木っ端微塵に爆砕した。

これそ我が与えし正義なる筋肉。

 そのときでした。

 わたしと、そして冒険者ギルドのお二人の影が、大きな大きな影に呑まれて消えたのは。


「――っ」


 空を覆う巨岩。浮遊する岩。ううん、遙か高所から振り下ろされた岩石の棍棒。

 考えるよりも――新たに現れた敵を認識するよりも先に、わたしの身体はすでに動いていました。

 両足をメノウの埋め込まれた道路で踏ん張り、限界まで身体をねじってキラキラ☆モーニングスターを下段にかまえます。


「っせい!」


 逆袈裟。斜め上空へと振り上げると、空を覆うほどの岩石の棍棒とキラキラ☆モーニングスターが激突しました。

 轟音と、そして飛び散る岩石の破片。しかし体勢不十分なため、跳ね返すことはできません。


「……むっ、ぐ……っ」


 衝撃がわたしの両腕から両足を伝ってメノウの道へと抜けます。

 お、重っ!!

 でも、受け止めました。これ以上この美しい都(シーレファイス)は壊させません。わたしのお財布のためにも。


「お……っ……返しですっ! ――ほいさーっ!」


 超重量の岩石の棍棒を力任せに上空へと弾き返した瞬間、足もとの道路が捲れ上がって爆散し、わたしの全身はわずかに沈みました。

 あああああぁぁぁぁっ! 踏ん張っただけなのにメノウの道があああ……あっ!


 ――ガギゴギガギギィ!


 そうだ。あいつが壊したことにしたらいいじゃないですか。

 助かりました。と胸を撫で下ろした瞬間――わたしはその光景に眉をひそめました。


 新手!?

 頭部と足首から先を失って息絶えたサイクロプスの開けた防壁の隙間から、別のサイクロプスが入り込んできています。

 それも三体!


「油断するな! サイクロプスは群れで行動する! 次々来るぞ!」


 ゼグルさんかアシドルさんかはわかりませんが、黒髪ポニテのおにーさんがわたしに教えてくださいました。

 たしかに、防壁の隙間からは四体目の腕が差し込まれています。その向こう側には、また別の個体が見えていました。


 まずい、まずい、まずいですよ、これは!

 時間をかければ倒すのはそう難しくはありませんが、シーレファイスに出る被害予想ができません。ここらへん一帯が廃墟になってしまうかも。


「くそ! アデリナはまだかっ!?」

「あいつさえいれば……!」


 再びわたしたちの姿が影に呑まれました。

 わたしは、すぐさま振り下ろされた岩石の棍棒を受け止め、弾きます。またしてもメノウの道が捲れ上がり、周囲の建物ごと地盤沈下を引き起こします。

 砕けたマーブル模様の宝石が、大量に宙を舞いました。

 ですが、もはや地面に対する被害がどうこう言っていられる状況ではありません。


「散ってください! 集まらないで!」


 わたしの言葉をきっかけに、ゼグルさんとアシドルさんがそれぞれ走り出します。わたしは何度も何度も振り下ろされる棍棒を受け止め、弾き――。


「こ……の……っ!」


 焦ります。防壁の隙間から入り込んだサイクロプスの数は全部で五体。わたしがこいつの攻撃を防いでいる間に、他の四体はシーレファイスの建物を破壊して、人間を捜しているようです。


 まさか、サイクロプスは人喰いの魔物なの!?

 ゼグルさんとアシドルさんも善戦してはいますが、決め手に欠けるようです。わたしたち人間とは、体躯があまりに違いすぎて。

 あの方々はわたしのように力尽くで岩石の棍棒を返せるわけでも、こいつらを一撃で屠れるわけでもないので、処理に時間がかかってしまいます。二人がかりで一体を相手するのが精一杯といったところでしょう。


 わたしがなんとかしないと! 魔法が使えないのだから、せめて肉弾戦だけでも!

 横薙ぎに払われた岩石の棍棒に片手でつかまり、わたしはわざと持ち上げられます。

 ふいに地面から消えたわたしに驚いたのでしょうか。あたりをきょろきょろと見回すサイクロプスの一本角へと向かって、わたしは空中で岩石の棍棒を蹴って。


「……っこなくそー!」


 キラキラ☆モーニングスターを直上から打ち込みました。


 ――ギグンッ!? カァァ……。


 まるで飛び出ていた杭を打つようにサイクロプスの一本角が脳天に食い込み、サイクロプスは全身をぶるりと震わせて両脚を折ります。

 そのまま単眼を真っ赤に染めて、うつ伏せに倒れて。


「次――っ!」


 右手方向の一体はゼグルさんとアシドルさんが足止めしているから放っておきます。

 他の三体は……!


 おそらくは食欲に駆られてのことなのでしょう。

 一軒の建物へと、まるで吸い寄せられるように歩いていました。とても良い匂いのする、焼きたてパンの香りの漂う建物へと。

 森林の大海亭――!


「だ、だめ!」


 わたしは転がるように走ってサイクロプスたちを追い抜き、森林の大海亭の前に立ちはだかりました。


「させません! ここはアリッサさんがようやく手にした大切な場所なんだからっ!」


 三つの単眼がわたしへと向けられます。

 中央に立つサイクロプスが、岩石の棍棒を振り上げました。


 ――ガギャギグゴギィ!


 避けられません。避けたら、森林の大海亭が粉々になってしまうから。


「待――っ」


 防がなきゃ――!

 わたしは右手に持ったキラキラ☆モーニングスターで、反射的に振り下ろしを受け止めます。


 衝撃の伝播。メノウの道がわたしの足もとで捲れ上がり、森林の大海亭が、みしりと軋みました。

 岩石の棍棒を跳ね返すよりも早く、左手側に立っていたサイクロプスが膝を曲げ、わたしへと薙ぎ払うように棍棒を繰り出してきました。


「――く!」


 無謀と知りつつ、わたしは左手でそれを受け止めます。

 素手で受け止めるそれは、凄まじい衝撃でした。掌から骨を伝い、全身の筋肉を震わせ、血管が体内で数カ所破れたのがわかりました。

 踏ん張りが利かず、右手方向へと吹っ飛ばされたわたしへと、右手側に立っていたサイクロプスが棍棒を振り上げます。


「この!」


 両足を地面で滑らせながら、わたしはその一撃をキラキラ☆モーニングスターで受け流しました。体勢が崩れた状態で受け流したためか、脳を揺らされて、わたしは後方によろめきます。

 あ……。


 ――ゴギャアアァァァッ!!

 ――ギッガグギィィッ!!


 わたしの眼前には、凄まじい勢いで襲い来る三体の怪物。

 そこから先、しばらくの間の記憶は定かではありません。


 気づけば雨のように降り注ぐ三体分の棍棒を躱し、打ち返し、受け流し、打ちのめされ、転がり、けれども立ち上がって――何かを叫んだような気もしますし、無言で息を整えながら戦っていたような気もします。


 痛い、痛い、まるで身体中がひび割れていくように、痛いです。


 反撃の糸口すらつかめませんでした。ただただ、背負った森林の大海亭を守るだけで精一杯で。それどころか意識を保つことさえ、すでに困難で。

 けれども、絶望はしていません。

 だって、わたしは待っていましたから。来るはずもないものを待っていたのです。それはたぶん、脳を揺らされて意識が混濁していたからだと思います。


「はっ……はっ……!」


 仲間を。日本でともに戦ってきた魔法少女たちを。

 こんなときはいつも、最高のタイミングで現れてくれるんです。そうして、すごい魔法で。風で吹き飛ばし、土で圧し潰し、氷で斬り裂き、炎で灼き払って。

 だから彼女たちがピンチに陥ったときには、わたしも彼女たちを助けにいったものです。

 けれど、おかしいですね。今日に限って来てはくれません。


「大丈……夫……」


 巨大な岩石を弾いて、わたしは背中を何かにあてました。建物のようです。そうだ。わたしはこれを守っていたのでした。

 あるいはこれがなければ、わたしはもっと簡単にサイクロプスたちを処理できていたでしょう。守らずに動き回り、一体ずつ倒せたはずです。


 ですが、ですが。森林の大海亭――。


 わたしが棍棒を一度でも躱せば、このお店はひとたまりもないでしょう。

 誰にも壊させない。わたしは殺しに来たのではありません。守りに来たのです。大切な人たちの、大切な場所を。


「……きっと……来てくれる……」


 前に歩き、なぜか真っ赤に染まっている視界で咆吼を上げる怪物へと、血塗れの両手に持ったキラキラ☆モーニングスターを薙ぎます。

 あたりません。近づいてから振ったのに、全然距離が足りていなくて。このときのわたしは、両目に血が入って遠近感が狂ってしまっていることにさえ気づけませんでした。

 すぐさま棍棒が返されて、わたしはそれを防いで――踏ん張ることができず、血で汚しながら砕かれた道路を無様に転がりました。


「……あ……れ……?」


 おかしいな。どうして魔法少女たちは助けに来てくれないのでしょうか。

 立ち上がらなきゃ。

 膝を立て、揺らいだ身体を――ぬくもりが支えてくれて。


「待たせたな、蓮華。一人でよく耐えた」


 力強い、声。待ちに待った、声。瞬間、全身から力が抜けて。

 遅いよ、も~……。……死んじゃうかと……思った……じゃないですか……。


「はっは、そう言うな。これでも急いで来たんだ」


 見せて。いつものように。とても綺麗なあなたたちの四色の魔法を。わたしにはどれ一つとして扱うことのできなかった、ステキな魔法を。


 そうして、彼女は立ち上がります。わたしをその場にそっと置いて。

 背中。グレートソードを背負った、背中。

 ……グレソ? あれ? だれ?


「ふ、サイクロプス風情。我が必殺剣の錆びにしてくれる」


 わたしは眉間に皺を寄せ、瞳を細めて凝視します。

 わたしの知る魔法少女たちではありませんでした。鮮やかな青い髪が背中で揺れています。体力ゼロのだめだめ剣士アデリナ・リオカルトです。


 なんてこったい……。



交換日記(七宝蓮華)


筋肉神の筋肉も自然に爆発したらいいのに……。

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