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五十七話、使い魔の公開処刑!



「何だ、これは……」


 牢からあたしを処刑場まで移送するために訪れた騎士たちは、その異様な光景に唖然として言葉を失ってしまった。


 いや、気持ちはわかる。


 あたしは、自分の全身に張り付いた蜜蜂たちを眺めて苦笑した。

 顔以外が、ものの見事に蜜蜂まみれだ。

 入る隙間がなくてあたしにくっつけなかった子たちも、ぶんぶん周囲にまとわりついているので、ちょっとした衝撃映像だろう。

 遠目に見れば黄色いドレスを着ているような感じで、地面に向かって裾広がりなところは蜜蜂たちのご愛嬌だ。


 小さな蜜蜂と言えど針があるので、騎士たちは迂闊にあたしに手出しできないだろう。

 一本一本は細く小さくても、数万本の針となると、想像するだけでも痛い。

 蜜蜂たちはあたしに刺してしまわないように針は外向きにしてくれている。


「使い魔たちが、何故……」


 それはもちろん、苺畑の仲間だからね!


 ねー、と蜜蜂たちが一斉に煽動し蠢く。

 一匹の軟体動物のような動きに、いくつか悲鳴が聞こえてきたが、すぐに凄まじい羽音によって消されてしまった。


 ……ごめん。蜜蜂たち。ちょっとだけ、恐い。


 うごうごしている蜜蜂を警戒しながら牢を開け放った騎士が、あたしに掛けるはずだった縄を持て余しながら、なんとか毅然とした態度で「出ろ」と命じた。

 縄で拘束出来なかったので、あたしの周囲を騎士が固めての移送に変更された。




 蜜蜂と騎士とに、何重にも守られているような仰々しい姿で処刑場へと現れたあたしを、見物客が熱烈な悲鳴を上げて迎えてくれた。

 あたしは特設ステージならぬ処刑台へと上がると、辺りを一度見渡した。

 見知った顔は、まず近くで見学する父上殿と髭宰相。

 そして少し離れて、不安げな顔のリリアちゃんと、肩から掛けたポシェットからひょっこりと顔を出した卯月。

 民衆の端にはストベルおじさんが、自慢の使い魔たちの晴れ姿に「良い良い」と頷いている。

 花姫の侍女たちも、集まってこちらを見つめている。

 ラベンデルはあたしの異形な姿にぞっとして鳥肌を立てているようだったが、ミツレはどこか上の空だった。

 失神するほど酷い目に遭ったせいで、未だ現実を直視出来ていないのだろうか。


 そして、最後に――――セリカさん。


 迷彩服は止めてくれていたので、そこにはほっとした。

 周囲に溶け込み、あたしの身を案じる瞳でこちらを窺っている。

 本当は今すぐにでも飛び出してきたいという気持ちが伝わってきたので、そっと首を振る。


 駄目だよ。獣王様にはちゃんとしたお考えがあるんだから。……たぶん、だけど。

 忘れられてたら……、うん。その時は全力疾走で逃げよう。


 そこであたしは、次に景色へと意識を向けた。

 ここは花姫の婚約で咲いた花が彩る、ほのぼのとした花畑。

 こんなところで処刑を行える神経が、あたしにはわからない。


 もう皆でピクニックとかしなよ。

 平和的解決じゃん。


「静粛に〜」


 進行役の紳士の一声でやがやしていた音が次第に薄れていき、父上殿へと視線が集中した。


「今日、皆に集まって貰ったのは他でもない。この、凶悪極まりない猛毒害虫蜂の、公開処刑を行うためだ!」


 あたしの称号がどんどん悪化の一途を辿る……。


「見ての通り、使い魔を操る特殊な能力を持っておる」


 持ってないから!説得力皆無だけど!


「この使い魔は獣族を国に招き入れ、国家の転覆を狙った。そして、我が娘であり花姫のジエラを獣に売り渡した、極悪非道な使い魔だ!この蜂をこれ以上のさばらせておく訳にはいかん!」


 そうだ!そうだ!と民衆が騒ぐ。

 その中で、ひゅんっと風の切る音がして、あたしは反射的に飛んできた何かを避けた。


「……っ!?」


 それは背後にいた騎士の誰かに直撃したのか、跳ね返って、あたしの足元までころころと転がってきた。


 ま、まつぼっくり……?


 たまごとかかと思ったけど、さすがは花族。

 まつぼっくりは軽いし、投げるのにはちょうど良いかもしれない。

 たまごみたいに汚れないし、当たっても大した怪我にならなさそうだし、可愛いものだよね――――って、うわっ!?


 顔のすぐ横を、鋭い速さで何かが通り過ぎた。


 な、何だ今の危険極まりない重量感の茶色い塊は!?


 「ぎゃ!」という悲鳴と、のたうち回る気配がして、あたしは恐る恐ると振り返り、その飛んできた凶器を凝視した。


 茶色い球体を形作るのは、無数の棘。全面の、棘。棘の塊。――――いが栗。


 だ、誰だ、こんな危険物投げ付けたのは!

 当たる場所によっては大惨事だから!

 普通に流血沙汰じゃん!


 犯人を探す間もなく、それをかわきりに次々に栗が空を裂いて、あたしの方へと向かってきた。

 茶色や緑の栗が宙を飛び交い、一時大混乱に。


「静粛に!静粛に〜!」


 進行役の紳士が何度か叫び、場が鎮まった時にはすでに騎士の死屍累々。

 スポーツ国家じゃないお陰か、ノーコンな投球はあたしには掠りもしなかった。

 こればっかりは運ではなく自助努力。あたしに直撃したら、もれなく蜜蜂にも被害を被る。ただでさえ小さな蜂だ、栗の威力に命を落としかねないので、きっちりと避けさせて貰った。


 まぁ、あたしが気を遣わなくても、蜜蜂たちはそれぞれワルツでも踊ってるかのように軽やかに避けてはいたけど……。

 いや、それにしても。当たってしまう騎士は、いかがなものかと思う。

 まずはドッジボールと野球……いや、初歩的なところでキャッチボールを普及させないと。


 そこで父上殿のぎらりとした眼光が捉えたのは、うぅむと唸るあたしではなく、民衆たちだった。

 結果として騎士らが重傷を負ったことについて、物申すのだろうかと、浅はかな考えしか思い浮かばなかったあたしの予想は、大きく外れることとなる。

 父上殿は、とても尊大に仰った。


「食べ物を粗末にするでない!」


 ……うん。そうだけど。


 その至言に、はは〜、みたいな感じで皆従った。

 この散らばったいが栗たちは、後で回収されて食されるのだろうか。

 だとしたら使い魔の処刑の後に栗拾い。……さすがに混沌とし過ぎじゃないか。


 『※スタッフが後で美味しく頂きました』みたいなテロップをどこかに入れておこうかな、などと余計な事を考えていると、ぎらっとした睨みがそのままあたしへと移動した。

 まるで栗についても、あたしが悪いみたいに。


 何でもかんでもあたしのせいか!


「これより公開処刑を執り行う!」


 も、もう……?


 その高らかな宣言を合図に、栗攻撃の難を逃れた騎士たちが、サボ剣の切っ先をあたしへと向けた。


 あの、あたしの目がおかしいのかな?サボ剣の色が毒々しい紫なんですけど?

 何塗ったの?何の毒をコーティングしてきたの?猛毒?


 蜜蜂たちがぶんぶん飛び回り威嚇してくれるが、初めて見るサボ剣の禍々しさに腰が引けている。

 蜂に腰があるかは、わからないけど……。


 ちらっと髭宰相に目を遣ると、「助けを求めるなら今ですよ」と唇を動かした。


 あたしの答えはここでも「否」だ。


 父上殿がすぐ傍まで悠然と歩いてくると、あたしを見下した。

 そして近くの騎士から一本、サボ剣を奪い取る。


「ジエラの仇は、自らの手で討つ!」


 歓声が一気に沸き上がり、それから誰しもが固唾を呑んで見守った。

 父上殿は激情の全てを、この一突きに賭けて、サボ剣を構えた。

 そこで我慢の限界がきたのか、セリカさんが飛び出して来ようとするのが視界の隅っこに過る。

 同時に映った髭宰相は、どこか残念そうにこちらを見つめていた。



 そして父上殿がサボ剣を引き、あたしがぎゅっと目を瞑り――――。



「……−−待って下さーい!!」


 絶体絶命の最中、まっさらな青空から、処刑を制止する愛らしい声が降ってきた。


 あたしがそれを聞き間違えるはずがない。――――花姫だ!


 助けに来てくれたのだと、あたしの気持ちが浮上しかけた直後、



 ――――どっしーん!!!!



 凄まじい衝撃が民衆集う花畑へと落とされ、地面が激しく揺さぶられた。




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