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四十三話、使い魔の協力者。


 雁来姉さんにお姫様だっこされたまま訪れたのは、何とも雅やかな大門の下だった。

 柱に精緻な彫刻が施されている。

 よくよく目を凝らしてみると、色んな動物たちが生き生きとして彫られていた。


「荷物は、預かって貰っていいですか……?」


「鞄のことなら心配はありません。献上品の方は、滞りなく王へと渡りましたので」


 献上品ってまさか、……あの絵と置物!?

 獣王様、さすがに引かなかったかな……?


「大変お喜びになられました」


 雁来姉さんの言葉に、あたしは度肝を抜かれた。


 う、嘘でしょ!?

 これはつまり、あたしに見る目がないってこと!?


 はたまた獣王様のセンスが微妙なのか、それとも恋は盲目で、花姫が想いを重く詰め込んで作った物だから、贔屓目に見ているのか。

 あたし的には、後者な気もするけど、どうなんだろう。


 腕組みまでして思考に耽っていたあたしは、雁来姉さんに抱かれたままだったことをすっかりと忘れていて、慌てて下ろして貰った。


 何て図々しいことをしているんだ、あたしは。

 絶対に重たかったはずなのに、申し訳ないです……。


 恐縮するあたしへと、雁来姉さんは気にしなくて良いというように、静かに首を横に振った。


「不本意ながら、日々発情うさぎの回収をしているので」


 雁来姉さんの話では、あちこちで美しっぽを追い掛け回す卯月の回収係という過酷な荷を負わされているらしい。

 ここで引き合いに出すのだから、獣時じゃない卯月のことだろう。

 雁来姉さんに首根っこを掴まれ引き摺られる卯月の姿が目に浮かんでくる。

 嫌嫌ともがく卯月と、黙々と任務に従事する雁来姉さん。

 まるでしっかり者の姉と駄目な弟のようだ。

 ちょっと生で見てみたくはある。


「こちらが森へと繋がる獣族の門となります」


「この扉は、どうやって開けるんですか?」


 この重厚な扉を一人で押し開けるのは、とても無理そう。


「手動ではなく、自動で開閉します」


 あ、自動ドアだったんだ!

 世界文化遺産みたいな造形だったから、油断していた。

 ここはあたしの常識なんて、通じない世界だった。


「現在はかわたれの森ですが、いかがなされますか?」


 雁来姉さんが気にしているのは、今あたしが森に行けば騎士たちに捕らわれるのではないか、ということだ。

 あたしを玩具にして遊ぶ悪趣味な髭宰相の命令で、死体を回収すべく捜索しているかもしれない。


 加護さえ上手く使いこなせたらよかったのに。

 せめて森に紛れる迷彩服とか、どこかに売ってないかなぁ……。


 そんな無謀なことを考えていると、「待って!」と誰かに声を掛けられて振り向いた。

 小さな子供たちを連れた、若い女性があたしたちに向かって手を振っている。

 彼女は浴衣を着て、不安定な下駄を履いているのに、子供を抱えて小走りで駆けてきた。


「花姫様の使い魔って、あなた?」


 問い掛けてきたのは、あたしと同じくらいの年頃の快活そうな女性だった。

 腕にいるのは三歳くらいのぷくぷくした頰の可愛い男の子。

 人見知りをするのか、あたしとは目も合わさずに、彼女にぎゅっとしがみついている。

 目鼻立ちがそっくりなので、親子かもしれない。

 随分若いお母さんだと思ったが、花姫があの年で結婚を迫られているくらいなので、この世界では普通のことだったと思い直した。

 まずは彼女の質問に答えなくては。


「青蜂の使い魔です。えぇと……?」


 用件を聞こうとしたのだが、あたしの不審顔のせいなのか子供が急にぐずりだした。

 なので雁来姉さんが代わりに解説役を買って出てくれた。


「彼女は、元は花族の方です」


 あ、例の駆け落ちの!?


 服装が違うと、獣族臭のわからないあたしには何も見分けもつかない。

 花姫も、将来的にはこうなるのかとちょっと想像してみた。けど。


 ……うん。和服はあまり似合わない。

 下駄で蹴躓くだろうし、慣れない着物を着る際に、苦戦して帯が絡まり大惨事になりそう。

 服装が自由な文化だと良いんだけど……。


 あたしは切なくなってきたので想像を止めて、男の子へと目を向けた。


「じゃあ、その子は花族と獣族の……」


「ハーフになります」


 元々が端正な顔揃いの花族と、雅びな美男美女ばかりの獣族の子供は、ぐずろうが泣きじゃくろうが当然のように容姿端麗であった。


「どちらかの性質を持つのではなく、どちらともの性質を携えています。解りやすく言えば、獣の姿も取れますし、植物の姿を取ることも可能です」


 つまり両親の良いとこ取りってことかぁ。

 花姫と獣王様の間には、とんでもない子が生まれそう。

 とりあえず内面だけは獣王様に似て欲しい。


 とんとんと背中をあやしたことで子供も落ち着きを取り戻し、彼女はようやく口火を切った。


「花姫様のために、使い魔の協力をしようって思って来たの。私なら、かわたれの森でも自由に歩くことが出来るからね!」


 元であっても花族ならば、警戒されることはない。

 良いアイディアではあるけど……。


「でも、あたしの顏が知られてるから、見付かってあなたまで危険になったら……」


 小さな子供がいるのに、あまり無茶なことはさせたくない。

 しかしあたしの憂慮は、あっけらかんと笑い飛ばされてしまった。


「どうせあの騎士たち、使い魔の顔なんていちいち覚えてないって。私が、自分の使い魔ですって言っても、すぐに信じるでしょうね」


 え?あの騎士たち、そんなに単純な性格なの?

 それでもあたしの顔は結構な不審度らしいから、平凡な造りでも悪目立ちしてしまうんだけど……。


「そうね……変装も兼ねて、ちょっとだけ弄りましょう。きっと見違えるわよ。私が女王蜂にしてあげる!」


 待って待って!女王蜂とか!あたしはそんな大それた座なんて狙ってない、一介の青蜂です!


 あたしが慌てて首を横に振ると、彼女は不服そうに言った。


「女王蜂は嫌なの?あえて目立つ方が逆に疑われないと思うわよ?それとも何の対策を練らずにそのままの姿で行って、あたって砕ける気?」


「それは……」


「ベラの指示に従うべきかと思います」


 そこで雁来姉さんが彼女の肩を持った。

 この溌剌とした女性は、ベラと言う名前らしい。


「蜂の姿になれないなら、私に任せておきなさい。花族の裏をかけるのは、花族だけよ!」


 名言が出たところで、あたしは彼女の着せ替え人形にされるべく、雁来姉さんに抱き上げられた。




 連れて来られたのは、さっきまであたしが眠っていた、広々とした屋敷。

 ここは平たく言えば、獣王様の家らしい。

 花族側で言う城だ。

 屋敷は縦ではなく、横に果てしなく長い。

 その一室を我が物顔で使用するベラに、あたしの本能が逆らうべからずと告げた。

 息子を雁来姉さんに預けた彼女は今、あたしに襲い掛かっている。

 彼女の方がよほど獣族らしかった。


「服も動きやすいのがいいわよね!」


 あたしは抵抗むなしく、汚れた服をひんむかれてしまった。

 楽しげなベラが、だんだん悪代官に見えてきた。

 あたしは町娘な気分で縮こまっていると、スカート丈の短いワンピースを投げられた。

 奇しくも、さっきあたしが求めていた迷彩柄だった。

 それをいそいそと装着したが、鏡が傍にないのでどうなっているのか良くわからない。

 スカートが短過ぎることにさえ目を瞑れば、動きやすいし走りやすそうで、なかなかの着心地。


 しかしこんな服、いつ着るの?

 駆け落ち時に、着て来たとか?


 あたしがスカートの裾を摘んでいると、ベラがにじり寄ってきた。


「髪も纏めて……、やっぱり顔は女王蜂に……」


 独り言がだだもれしてます!ベラお代官様!

 迷彩柄の女王蜂とか!攻撃的過ぎますから!


 ふるふると首を左右に振るあたしが、思う存分彼女の玩具にされたのは、言うまでもない。



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