表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/60

四十話、夜逃げでまごまご。


 獣王様曰く麗しの乙女である花姫は、絵画を背中に括りつけて、置物を小脇に抱え、ドアを開けてすぐのところであたしを待ち構えていた。

 それ以外の荷物類は皆、床に置かれている。


 これは、あたしとセリカさんが手分けして持って行けっていうこと?


「さぁ、急ぎましょう」


 婚約式の主役が来なければ、すぐに怪しまれるだろうし、急ぐのはわかるけど、だったら何でそんな目立つ格好するかなぁ……。

 夜逃げしてますよって触れ回るようなものでしょ。


 それでもあたしは何も言わずに、昨夜準備した鞄の紐を伸ばして、袈裟懸けにした。


「姫様。侍女たちには何と?」


「転倒痛でぎりぎりまで部屋で休むと伝えてあります」


 それを信じて貰えるなんて、信用されているように見えて、逆に馬鹿にされてるような気もする。

 あたしは花姫の威厳のなさ加減に呆れつつ尋ねた。


「卯月は?」


 それにはセリカさんが答えた。


「芽生さんが苺畑に行かれている間に、リリア様が嬉々として離宮へとお連れになられました」


「……大丈夫なの?」


「今のところ、騒ぎは起きていないようですが……」


 騒ぎが起きてからでは、遅いよ。

 

 あたしとセリカさんが真剣に話している横で、花姫はリリアちゃんと姉妹水入らずで日中を過ごせたからか、憂い一つなくご機嫌な表情をしていた。

 父上殿に、嘘の結婚承諾の旨を伝えたことで煩わしい説教もなくなり、彼女は今、自由を謳歌している。


「リリア様には、定期的にお手紙を送ることになりました」


 ……誰が届けるの?あたしはもうこの件が終了次第、帰りますよ?

 契約の延長は、もうしないからね。


「花族の女性を伴い森へと出掛ければ、うさぎが届けてくれるそうです」


 卯月……。ちゃっかりとしてるなぁ。

 大体しゃべらないくせに、どうやって女性たちを要求したの?


「でも、手紙なんかやり取りしなくても、リリアちゃんとは普通に森で逢えるんじゃないの?かわたれの森の時に」


「…………」


 花姫がぽかんとして、口を開けっぱなしで目を丸くした。

 もう少し待ったら鱗が落ちてきそうだ。


「芽生さんは頭の回転が早く、機転がききますね。姫様も見習って浅慮な考えはお止め下さい」


 セリカさんはあたしへと頬を染めて、惚れ直したみたいな顔をしたが、花姫に対しては厳めしい顔付きでぴしゃりと言う。

 セリカさんの差別が甚だしい。

 贔屓されているというよりかは、存在自体を別個体として区別されていると言うのだろうか。

 花姫はしゅんとしていたが、リリアちゃんに直接逢えるとわかり、さっさと気持ちを持ち直した。


「リリア様と姉妹らしく振る舞えるだなんて、夢のようです!」


 浮かれる気持ちはわかるよ。

 リリアちゃんが妹なんて、羨ましい限りだ。


「確か……異母妹、なんだよね?」


「ええ。リリア様の母上様が、父上の最初の奥方なのです」


 ああ、だから妹なのに様付けなんだ。

 突っ込んじゃいけないことかと、空気を読んで沈黙を守っていたのは正解だったらしい。


「姫様、そろそろ時間が……。出立なされませんと」


 セリカさんに急かされて、あたしたちは共犯者の笑みで頷いた。


 婚約式の行われる会場方面には、すでに大勢の貴族たちが集っているだろう。

 だけどそのお陰で、居住区画はしんと静まり返っている。

 あたしたちは意気揚々と部屋を脱したその瞬間、早くも最初の難関にぶち当たった。


「花姫様?その格好は……?」


 ずらりと並ぶ侍女たちが、疑問符を浮かべて花姫を凝視している。

 お団子少女ことラベンデルが、花姫の背負う珍妙な絵画と、不気味な陶器の置物へと交互に目を遣り、詰問してきた。


「それは……花姫様がお描きになられた絵と、お造りになられた置物ですね?」


 それって自作だったの!?才能ないな!

 

「ようやく処分に踏み切られるのでしょうか?」


 まぁ、そう思っても仕方ない駄作だけど、花姫が本気で傷付いて放心してるから、あんまり言わないであげて。

 幼稚園児みたいに、よく出来ましたって生暖かい目で見て褒めてあげてよ。


「守り役様は大荷物で、どちらかへと出掛けられるのでしょうか?」


 セリカさんが素直に、ぎくりとした。

 なにせ言い訳不可な旅行鞄の数々。

 

「使い魔は……相変わらず泥だらけね」


 ラベンデルが小馬鹿にしたように鼻で笑う。


 苺畑での労働を馬鹿にするな!

 その苺を食べてるくせに!


「それで皆さんで、どちらへ?」


 嘘の吐けない花姫とセリカさんは視線を彷徨わせ、最終的にあたしへと辿り着いた。


 ここはあたしの出番!


「ひ、宰相様のお部屋へ、お引っ越しをするところでして……」


 気合いを入れた割りに、あたしの語気は弱い。


 だって、ラベンデルが半眼で睨んでくるんだもの。

 あたしの言葉なんて、初めからまともに聞く気なんてなさそうだし。


「そういうことでしたら、お手伝いを致します」


 駄目だ!悪い方に転がってしまった!


「み、皆さんのお手を煩わせる訳には――」


「でしたら使い魔が全て持つことね」


 な、何て卑怯な!

 あたしにそう言わせるために、自分が持つなんて言ったな!


 侍女たちがしれっとしたおすまし顔で、花姫の荷をほどき、あたしの背中へと括りつける。

 置物も、問答無用で押し付けられた。

 セリカさんは困惑しつつも逆う間もなく、鞄を奪い取られている。

 それらは当然、あたしの肩や首へと掛けられた。


 じゃんけんに負けた小学生か!

 ランドセルなんて生半可な重さじゃないけども!


「ま、まぁ……お、お似合いね」


 ぺしゃんと潰れることを期待していたのか、持ちこたえるあたしの姿が予想外過ぎたのか、侍女たちは一様に引いてしまった。

 この際はっきりと言おう。ドン引きしている。


 くぅ……。苺畑での労働で鍛えられたこの体力が憎い……。

 せめて笑って!上から目線で嘲笑ってよ!

 どさくさに紛れて、花姫とセリカさんは頬を紅潮させてるし!


 あたしのバランス感覚と体力に感動しているらしいここの二名は、明確に世間ずれしている。

 

「芽生はいつも、わたくしの予想を遥かに凌駕します」


「私の芽生さんは特別ですからね」


 頬を染めて讃辞とか後にして!潰れるから!

 前進して、前進!

 ミツレの眼光が凄まじいから、早く!


 セリカさんが緩んだ口元をぴしりと引き締めて、侍女たちへと告げた。


「それでは参りましょう。侍女の皆さんはお部屋で待機をお願いします」


 丁重に礼をされた侍女たちは、あたしには決して向けることのない真面目な態度で了承した。



 序盤に訪れた難所は、どうにか切り抜けたらしい。

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ