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二十八話、夜会へ潜入!


 城内がひっそりとしていたお陰で、獣族臭をつけていても我が物顔で廊下の真ん中を歩くことが出来た。

 皆夜会に行ったらしく、お風呂も広々と快適に使用したあたしは、さっぱりして機嫌良く鼻唄を歌いながら花姫の部屋でまったりとしていた。

 ハーブの石鹸を泡立てたへちまで、全身ごしごし擦ったから獣族臭対策は完璧だ。


 しかし、へちま……なかなかの使い心地だった。

 帰ったらへちまを育てよう。


 へちまを称賛しながら、遂には国歌を口ずさみ始めたところで、あたしのお腹がぐるりと鳴った。


 夜会って、招待状がないと行けないのかな?飛び入り参加は不可?

 召喚された使い魔には、こっそり夜会に潜入してしれっと食事して帰って来る技とかが備わってれば良かったのに。

 かなり限定的な能力だけど、今のあたしにはそれが一番欲しい。

 何で不思議な力とか、発現しないんだろう?


 あたしは手のひらを見つめて、見つめて、見つめ続けたけど、当然何も起きはしなかった。


 無駄なことを考えてないで、自分の力で行動するしかないかぁ……。


 あたしは重たい腰を上げて、花姫の寝室へと向い、さっきしまったドレスの中から一番地味なのを手に取った。

 淡い黄緑色で、花姫が着ていったドレスと形は似ているけどシンプルだ。

 他のドレスはレースやら金の釦やらリボンやらと装飾が過多で、あたしにはかなりハードルが高い。


 このドレスなら、たぶん目立たないと思う。

 他のお嬢さん方のドレス次第だけどね。

 

 どうせ花姫はドレス一つ消えていても気付かないだろうし、あたしは事後承諾でいいかと、早速袖を通してみた。

 しかし相手は花姫用のドレス。どこかの糸が、ピシッと切れる音がした。


 くぅ……、正直きついんだけど、捩じ込めばいけないことも……。


 ドレスとの一進一退の攻防の末、あたしは意地で着衣に成功した。

 しかし上半身が締め付けられて、長時間は持ちそうにない。

 花姫の靴はさすがに入らないので、どうせ裾から見えないのだからと、いつもの靴で行くことにした。


 後、ヘアメイクはどうするべきか……。

 多少しておかないと、悪目立ちしても困る。


 あたしは素早く花姫の化粧道具を拝借し、ドレスに合わせて控え目に整えると、ドレッサーに放置されていた髪飾りを付けて、最終確認のために全身を鏡へと映した。


 小さい子のピアノ発表会っぽくなってないかな?

 あたしみたいな一般人が夜会に参加する機会なんてないし、普通の基準を満たしているのか曖昧だけど……いい、かな?


 貴金属はさすがに紛失すると恐いから、なしの方向で。

 

 支度を終えたあたしは、裾を引き摺らないように両側で摘まみ上げて、夜会の会場探しへと出掛けることにした。



 一階に降りてから外へと出て、夜空の下を歩いていると、着飾った男女が趣のある庭園で語らう姿がちらほらと見受けられた。

 彼らを点として線で繋いでいけば、会場への道標になりそうだ。

 あたしは不躾な視線を投げて因縁をつけられないよう、気を遣いながら足早に先へと進む。

 声が聞こえる距離を通る時は耳を塞ぎつつ、前だけを見据えた。

 彼らに対する意見は、ドレスでやや苦しいこの胸に秘めておくことにしよう。


 濃密な空気を何とか躱したあたしは、会場の玄関口ではなく、テラス側へと出てしまった。

 むしろ入口からだと入場規制されたかもしれないから、僥倖といえる。

 俯き気味にそそくさと会場入りし、あたしは真っ直ぐ立食スペースを目指した。


 会場内を見渡す限り、あたしは上手く溶け込めているようだった。

 すらりとしたマーメイドラインのドレスをさらり着こなすご令嬢もいれば、重たげなマリーアントワネットドレスをゆったりと纏う淑女もいる。


 あのロリータ風な女の子も可愛いなぁ……って、リリアちゃんだ!リリアちゃんがいる!


 リリアちゃんはツインテールを緩く巻き、ピンクのジャンパースカートに白いブラウスとふわふわのパニエを合わせた格好で、一人つまらなさそうに壁の花になっていた。


 あたしが全身を舐めるように見たせいか、リリアちゃんが急に身震いをして周囲をきょろきょろとし始めた。


 しかしあたしは、恰幅の良いおじ様の背後に隠れている。つまりリリアちゃんから死角となり、あたしを目視することが出来ないのだ。

 この悪寒は!?って顔で、リリアちゃんは必死に熱視線の発生源を探している。


 可愛、可哀想なので、あたしはおじ様の後ろから飛び出てリリアの前へとこの身を晒した。


 しかし、それがいけなかった……。

 驚いたリリアちゃんは、一目散に逃げ去ってしまった。

 あちこち誰かにぶつかって撥ね飛ばされ、遂にはその愛らしい姿が見えなくなってしまった。


 残念だけど、この会場内にいるならまたどこかで逢えるはず。


 あたしは早速皿とフォークを手に取り、並んだ豪勢な料理を、なるべく少量ずつ色んな種類をよそうと壁際に移動した。


 宝石とも称せる野菜のテリーヌは、フォークを入れるのがもったいないほど綺麗だ。寒天で固められていて、あっさりとした味わいの中にも野菜の深い甘味が絡み合い……。

 そこまでで思考は途切れ、あたしは無心で空腹を満たした。




 取り皿を返却し、当初の目的を果たしたあたしは帰ろうかな、どうしようかな、とうろうろしながらリリアちゃんを捜していた。

 だが不思議なことに、そんな挙動不審なあたしの後ろを、数人の貴公子然とした青年たちがついてくる。

 磁石にくっつく砂鉄のように、動くたびに増えていくのでいい迷惑だ。


 目立つと父上殿に処分されるかもしれないのに……。

 あ!もしかして……怪しまれてる?

 闖入者に対して警戒している、とか……?


 だったらもう、さくっと逃げるべきじゃん!

 呑気にリリアちゃんをつけ狙っている場合じゃない!


 早々に会場を脱したあたしは、ちらっと後ろを窺った。

 相変わらず彼らはそこにいて、互いを牽制し合うように肩をぶつけ合っている。

 我先にあたしを捕獲して、名を上げようとしているのかもしれない。

 焦りまくるあたしは、道を間違え庭園内へと足を踏み入れてしまった。


 ああもう、ドレスのせいでちまちましか進めない。

 だけど裾を踏んづけて花姫みたいに転ぶのは嫌だ。それだけ勘弁して欲しい。

 でもどうしよう……。捕まって、処分?

 不法侵入罪?それとも、無銭飲食罪?


 小道の角を折れたとき、前なんて確認する余裕がなかったあたしは、誰かと出合い頭に正面衝突した。

 バランスを崩して倒れかけたあたしの腰を、ぐっと自分の方へと引き寄せたのは、丸一日疎遠だった、セリカさんだった。

 彼は目を丸くし、あたしを抱き寄せ見入っている。


 あぁぁ……、セリカさんにも見付かってしまった。叱られる……。


「何故ここに……」


 茫然と呟いたセリカさんだったが、あたしの背後にいる青年たちに気が付くと、そちらへと視線を移した。

 

「花姫様の守り役殿、そちらのご令嬢とはお知り合いで?」


 ……れ、令嬢?あたしが?聞き間違い?


 花姫のドレス効果なのか、彼らはあたしをどこかのお嬢様だと完全な誤解をしている。


 使い魔って一言教えたら、引くだろうなぁ……。


「彼女は、」


 セリカさんが何かを言い掛けて、きゅっと眉を寄せた。

 あたしの説明に困っているのかもしれない。

 花族の貴族が集う夜会に使い魔が紛れているとは、事実だとしても言えないよね。

 上手く誤魔化さないと。例えばセリカさんの妹とか。

 セリカさんは小さく息を吐き出すと、彼らを見据えてきっぱりと言い切った。


「彼女は私の、妻です」


 なっ、……ちょっ、待っ、いつの間に!?

 純情が妄想に飲み込まれた!?


「……妻?いつ結婚を?」


「……まだ、正式には……」


 そうだよね。あたし、何も聞いてないし、言わせてないし。


 セリカさんはこれ以上質問されてぼろを出さないようにか、あたしの手を引いて彼らから遠ざかることにしたらしい。

 道中無言だったセリカさんは、誰も追って来ないとわかると足を止めて、そっと手をほどいた。

 それから振り向き、何かを言い掛け口を開いたところで、何故かぴたりと停止した。

 あたしを頭の天辺から爪先まで目線を一周させて、かぁっと真っ赤になり顔を背けた。


「何故その様な格好を……!」


「お、お腹がすきまして……」


 恥ずかしいけどそう告白すると、セリカさんはあたしの腹部を睨むように凝視した。

 

「……子うさぎが……」


 いないから!さっさと変な妄想を終了させないと!


「子うさぎなんて宿ってません」


 身の潔白を堂々と宣言したあたしに、セリカさんはほっとしたのか肩の力を抜いて息をついた。


「では、獣族の者に求愛を受けたというのも、姫様の戯れ言ですか?」


 あれって、求愛……か?

 生殖行動を強要されたというか……いや、直接的な表現過ぎる。もっとマイルドに……。


「盛られた」


 し、しまった!つい口に出しちゃった!

 セ、セリカさん!?セリカさんが衝撃で硬直した!!


 相手が動物だったから、どうしても他が思い浮かばなかった。

 何もなかったと言うべきだったのに、セリカさんの気持ちを浮上させた瞬間叩き落としてしまった。

 あたしの正直な口からこぼれた残酷な真実を受けて、セリカさんははらはらと涙を流し、そして――――逃げた。


「え、えっ……?」


 走り去るセリカさんを眺めて、あたしは茫然と立ち尽くした。



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