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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある少女の物語

作者: syandora laybutte

 昔々、とある村に水色の髪の少女が住んでいた。


 彼女の名前はセリティア。

 歳は十四歳。


 村一番の美少女として、村の中ではちょっとした有名人であった。


 父親を亡くし、母親と二人で暮らしていた。

 しかしその母親も病に倒れ、看病の毎日を送っていた。


 そんなある日、セリティアは夕食の材料採取のために大きなかごを背負って森に入った。

 森には大きな木々の他に、キノコや野草などが所々に生えていた。


 セリティアが採取をはじめるとすぐに、野ウサギが飛び出してきた。

 黒くて丸っこくいウサギが、セリティアの周りをピョンピョン跳ねる。


 そして、ウサギは森の奥へと入っていった。


 セリティアは追いかけようか迷ったが、森の中で迷うと危険なので引き返すことにした。



 村に戻ると、村長がセリティアに話しかけてきた。

 どうやらセリティアの母親の様子を伺っているようだ。


 話し終えると、村長はそそくさと自宅に戻っていった。

 どちらかというと心配しているというわけではなさそうだ。


 セリティアは少しため息をつき、家へと帰った。


 道中、セリティアは村の人々から変な目線を注がれた。

 しかし、セリティアはいつものことなので気にしないことにした。


 家に帰ると、セリティアは寝たきりの母親の顔を伺う。

 相変らず、目を閉じたままだ。

 今朝、用意した食事も口にしていないようだ。

 もう頬もこけ、やせ細っていた。


 セリティアは居間に戻り、昼食の支度を始めた。

 母親が寝たきりになってから、ずっとセリティアが食事を作っていた。

 昨日、森で狩ったウサギの肉と森の中で拾った野草を使ってセリティアはちょっとしたスープを作った。


 自分の分は居間のテーブルに置き、母親の分はベッドの横にある棚の上に置いた。

 そして居間に戻り、食事を始めた。


 やや歯ごたえのあるウサギの肉はスープにうまみをにじみだしている。

 野草は風味を利かせていてウサギの肉のうまみを存分に引き出している。

 一口食べると、ウサギの肉のうまみと野草の風味が同時に訪れる。


 セリティアは思わず微笑んでしまった。


 あっという間にセリティアのスープは無くなってしまった。


 セリティアは昼食の後片付けを始める。


 皿を一枚割ってしまった。

 残りの皿は母親のスープの皿の分を含めて二枚になっていた。


 セリティアは黙々と割れた皿の片づけを始めた。

 セリティアは少し手を切ってしまった。


 皿を片付け終わったセリティアは傷ついた手を治すため、薬草を探す。


 セリティアは薬草が切れていることに気づいた。

 セリティアは薬草を求め再び森へと向かった。


 またもや村の人々から変な目線が注がれた。

 セリティアは気にせず森へ向かう。


 森へ着くと先ほど見かけた黒いウサギがまるで待っていたかのように座っていた。

 ウサギはセリティアの足元をまたピョンピョン跳ねると森の奥へと入っていった。


 セリティアが探している薬草も森の奥地に生えているので、セリティアはウサギについていくことにした。


 ウサギはどんどん奥地へ入っていく。


 ウサギが止まったかと思うとその前には小さな泉があった。


 そして泉の前で一人の女性がハープを奏でていた。

 ウサギはその女性の横に行きピョンと跳ねた。


 女性はそれに気づいたようで、ハープを奏でるのをやめた。


 女性はセリティアに気づいたようでセリティアに近づく。


 女性はセリティアに話しかけた。

 しかし、セリティアは首をかしげている。


 女性はもう一度話しかける。

 セリティアは首をかしげる。


 女性は話しかけるのをやめ、考えだした。

 そしてはっと顔を上げた。


 そして再びセリティアに話しかける。


『き、聞こえる?』



 セリティアは驚いた。



 なぜならセリティアは、話すことはおろか何も聞こえないのだ。


 セリティアはかつて、普通に話すことも聞くこともできた。


 しかしある日、魔女の手によって彼女の音が奪われた。

 彼女があまりに美しいために妬まれてしまったのだ。

 セリティアの父親は激怒し、魔女の元へ向かった。

 翌日、父親は帰らぬ人となった。

 セリティアの母親はそのことで気を病み、さらに病を患った。


 そんなセリティアに女性の声が聞こえたのである。


 セリティアは慌てて首を縦に振る。


『なるほど、何も聞こえてなかったのね』


 セリティアはきょろきょろと辺りを見回す。

 風の音や木々の声は聞こえない。


『あなたは魔女に呪われたのね?』


 セリティアは首を縦に振る。


『やっぱりそうなのね・・・』


 少しして、女性は俯いて話し始めた。


『私はメルポメネ。悲劇をつかさどる女神。』


 女性は俯いたまま話を続ける。


『貴女は悲劇のヒロイン。魔女に呪われ、音を失った。いつもならその悲劇を奏でるのだけれど、たまには助けたくなるものなのよ?』


 セリティアは首をかしげる。


『これから今日一日だけ、貴女に音を戻してあげる。それで許して?』


 セリティアは首をうんと縦に振る。


 音を感じられれば、母親と話せる。

 村の人たちの嫌な目線をやめさせられる。


 セリティアの心はその気持ちでいっぱいだった。


『わかったわ。戻してあげる。だけど、約束して?』


 セリティアは再び首をかしげる。


『今日の夜、零時になる前にもう一度ここにきて。貴女にかけられた呪いを封じるためにかけた魔法は零時になるとさらに強い呪いへと変化するの』


 セリティアは首を縦に振る。


『なら、よかった。それじゃかけるわね』


 女性がそう言うと、セリティアの身体は淡い白い光に包まれた。

 セリティアの喉と耳が少し赤くなる。


「あ、あ・・・」


 セリティアがまるで虫の息のような、か細い声を出した。


「声が、出せる・・・。聞こえる・・・・。」


 セリティアの瞳から雫がこぼれた。


「ありがとうございます。このこと母達に伝えてきます‼」

『いいのよ。それよりちゃんと零時までに戻ってきてね』

「はい‼」


 セリティアはそういうとそそくさと村へと向かった。


 女性は再びハープを奏でる。


 セリティアが村へ戻ると村人が変な視線を向けた。

 聞こえなかった音が、聞こえるようになった。


(あの子、戻ってきたわよ・・・)

(毎日毎日、森へ行って何をしているのだろうか)

(きっと魔女に会っているのよ)

(魔女に⁉)

(シッ‼声が大きいわよ)

(大丈夫だよ、彼女には聞こえてないはずだから)

(魔女に治してもらっていたらどうするの?)

(そんなこと・・・)

(最近、彼女の家からものすごい匂いがしているのは知ってる?)

(あぁ・・・)

(実は彼女が自分の母親の魂を生贄に捧げたっていう話よ)

(えぇ⁉)

(だから母親の亡骸が腐ってるのよ・・・)

(なんと恐ろしい・・・)


 夫婦の会話だった。


 セリティアは青ざめていた。

 セリティアも最近になって家から異臭がすると感じていたが、それは自分が家を掃除してないせいだと思っていた。


「そ、そんな・・・まさか・・・」


 セリティアは家へと急ぐ。


 その間も村人からの軽蔑の視線は注がれる。


(親殺し・・・)

(気持ち悪い・・・)


 セリティアの瞳から、また雫がこぼれた。

 しかし、今度は大粒の悲しみの雫が。


 セリティアは家につくと急いで母親の寝室へと向かう。

 相変らず母親はベッドの上に横たわっている。

 昼食には全く手が付けられていない。


「か、母さん・・・。私、しゃべれるようになったよ?母さん、起きて・・・」


 母親は全く反応しない。


 セリティアは母親の身体を揺さぶる。

 反応がない。


 それどころか、セリティアは見てしまった、感じてしまった。


 布団に隠れている部分からちらりと覗く、ドロドロした何か。

 布団の上からでもわかる、ズニュリという感覚。


「い、いや・・・・」


 母親の身体は腐敗していた。

 もう死んでいたのだ。


 セリティアはその母親の看病をしていたのだ。

 セリティアは腰を抜かし、ゆらりと床に座り込む。


「うそだ、ウソだ・・・」


 セリティアは居間へと戻った。

 気付くと外に村長が立っていた。

 セリティアは家の外に出た。


「でてきたか、まぁこうやって話しても無駄だと思うが。村から出ていってくれ。村の皆が魔女に会っていると噂をしている。普通ならすぐに処刑するべきなのだが、見逃してやるから出ていってくれ」


 村長は踵を返し自宅へ戻ろうとする。


 セリティアが口を開いた。


「あの・・・」


 村長は足を止めた。

 そしてしばらく立ち止まり、こう言った。


「今頃、話すようになったか・・・。それが魔女との契約なのかどうかは知らんが、もう遅い。早く出ていってくれ」


 そう言って村長は自宅へと戻った。


 鳥のさえずりが聞こえる。

 木々の葉がこすれる音が聞こえる。


 空は橙色から黒色になろうとしていた。


 村にはもう、セリティアの居場所はなかった。


 セリティアは森へと向かった。


 本日、三度目の森。

 しかし、今までよりも不気味な雰囲気を醸し出していた。


 森の入り口には黒いウサギが待っていた。


「そっか、行かなきゃだもんね」


 セリティアは泉に向け歩き出した。


 セリティアは零時には泉に戻らなければいけない。

 戻らないとさらに強い呪いがかけられる。


 しかし、セリティアは悩んでいた。


「でも戻っても、また音がなくなるなら・・・」


 セリティアはそこで立ち止まった。


 まだ泉にはついていない。

 ウサギも見失ってしまった。

 森のざわめきが広がる。


「もう、いいや。もう何もかも・・・」


 セリティアはその場に座り込み、ふさぎ込んだ。


「もう嫌、こんなのもう嫌・・・」


 セリティアは独りになっていた。

 誰にも助けを求めることができなくなっていた。

 途端、セリティアは孤独感に包まれた。


 空には満月が輝いていたが、セリティアが見ることは無かった。



 それからしばらく経ち、セリティアは空腹感に襲われた。


 「そういえば、晩ご飯食べてなかったな・・・」


 彼女は顔を上げ、辺りを見回す。


 月明りが辺りを照らしていた。

 キノコや野草が生えている中、黒いウサギが座っていた。


 セリティアが立ち止まっているのにウサギは気づいていた。

 セリティアはまだ独りではないのだと知った。


「あっ・・・」


 セリティアがウサギを追いかけると、再びウサギは前へ進む。

 セリティアは何度もウサギを見失いかけるが、追いかける。


 セリティアは孤独に苛まれていた。


 泉が見えてきた。

 ウサギは先に泉に着き、女性の隣に座る。


 セリティアも女性の元に近づく。



 しかしその時、零時になってしまった。


 再び、彼女から音が失われた。

 さらに、光も失われてしまった。


 何も見えない、聞こえない。


 一歩遅かったのだ。


 そんな暗闇の中にセリティアは入り込んでしまった。

 完全に孤独になってしまった。


 頭の中に声が響く。


『・・・ごめんね。もう私にはあなたをどうすることもできないわ』


 女性の声はそう言うともう二度と聞こえなくなってしまった。



 女性は今宵もハープを奏でる。


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