第5話 私の初恋
またやってしまった・・・
入学式当日、思い切って先輩に会いに行った。
あんな事言うつもりはなかった。
でも、かなり緊張していた。
『好きです。お付き合いしてください』
そう告白するつもりだった。
なのに、口から出たのは違う言葉だった。
『好きです!結婚して下さい!』
頭の中が真っ白になっていたとはいえ、自分でもどうかと思う。
いきなりプロポーズするなんて・・・
それからというもの、私はかなり焦っていた。
失態を挽回しないといけなかったし、私の事をちゃんと見て欲しかった。
たった今、意味も分からずサオちゃんから受け取った携帯電話を耳に当てた途端、先輩の声がした。そして再び私の頭は一気に大混乱。無意識に通話を切ってしまった。
あの日、食堂に行こうとする先輩を止めようと腕を取った時、一瞬にして恐ろしさを感じ金縛りにあったかのように身体が固まってしまった。あの何も信じられないといった冷めた目も怖かったが、やはり本気で先輩に嫌われてしまうといった恐怖の方が勝った。
それからというもの、私は完全に塞ぎ込んでいた。今もサオちゃんが心配そうな顔を浮かべているし、ずっと落ち込む私についていてくれている。先輩に会いに行こうと手を引かれていった時もあるけど、これ以上に嫌われてしまったらと思うと先輩のいる校舎の入り口から先に入る勇気が出なかった。
先輩は入学式の日に会ったのが初めてだと思っているだろう。でもそれは違う。
見たことがある程度だが幼稚園の頃から私は知っている。そもそもサオちゃんと私は幼馴染だという事にすら気付いていない気がする。私は『お友達のサオちゃんを公園まで迎えに来ているお兄ちゃん』を何度か見ているのだ。
一人っ子の私にとって、お兄ちゃんに向かって嬉しそうに駆けているサオちゃんがかなり羨ましかったし、サオちゃんを迎える優しそうなお兄ちゃんの顔が目に焼きついた。私にもこんなお兄ちゃんがほしいなぁ〜と何度も思っていた。
そう最初はただの憧れだったかもしれない。
中学二年の冬、いつもなら絶対に乗らない満員電車に乗り合わせたとき、隅の方ですし詰め状態で押しつぶされそうになっていた私を偶然乗り合わせていた先輩が壁に腕を踏ん張って空間を作ってくれた事があった。もちろん私はサオちゃんのお兄さんだと気付いたが先輩は私の事を知らないわけだし、気付く事はなかった。目的地でなんとか電車から降り、私がお礼を言ったのを後ろ手を上げて去っていっただけ。悔しかった。私の事を知ってもらいたいって本気で思った。
これまでにも家が比較的近かったせいか時々先輩を見かけることがあったし、そんな時、知らず知らずのうちに決まって私は先輩の事を目で追っていた。友達と思われる人と一緒に歩いてる時もあればサオちゃんと一緒に歩いてる時も。サオちゃんと一緒の時に話しかけてみればいいと思う人もいるかもしれないが緊張して足が前に動かなかった。
今まで何でこんな気持ちになるのか分からなかった。
でもこの時、はっきりと気付いた。私、サオちゃんのお兄さんの事が・・・
そう、これが私の初恋。
次回予告
第6話 さよなら
・・・お前の気持ちは嬉しかったが、俺は今恋愛は出来そうにないんだ。