第2話 あ〜ん?
「・・・で、なんでここにいるんだ?」
目の前で嬉しそうに箸でつまんだ玉子焼きを差し出してくる女の子がいる。
今は午前中の授業が終わって昼休み。ついさっきまで教室で友達と机を並べて購買で買ってきたパンを食べていたハズだ。
「はい、あ〜ん?」
「いや、だから・・・」
全く聞いてない。
「なんでここにいるんだと聞いてるんだ!」
「一緒にお弁当食べてるんです♪ はい、じゃ、あ〜ん♪」
「微妙に答えになってないだろ!!! ったく・・・」
クスクスクスクス・・・
「お前ら・・・」
横に目線を移してみると今にも爆笑しそうな顔、顔、顔。
こいつら他人事だと思いやがって・・・いや他人事なんだろうけど。
「あのな、朝も言ったけど、ちゃんと断っただろ?悪いけど、お前の事はなんとも思ってないんだ。分かるだろ?」
「それじゃこれから私のこと好きになってください!頑張りますから♪」
「頑張るってお前。。それはなんか違うくないか?」
「これもちゃんとしたアピールです!間違ってなんかいません!」
「クックック、少しくらい妥協したら?ほら、玉子焼きが待ってるぞ?」
「お前は黙っとけ!」
隣で机を叩きながらもう明らかに笑っている親友にマジツッコミを頭に叩き込む俺。
まさしく四面楚歌状態なんだがどうしよう。
あぁ、すっかり忘れていた。俺の名前は村上敬幸。私立星雲高校に通うごく平凡な高校2年生。(そうだと信じたい)言うまでもなく共学の高校で一応進学校でもある。本当は家から一番近い男子校に行こうとしていたのだが、仲の良い親友(そこで笑いを噛み殺しているヤツとか・・・)に「大切な青春時代になんで野郎ばっかの監獄にいかないといけないんだ!」とマジ顔で説得され、なし崩し的にこの学校に進学した。まぁ自分でもよく合格できたなぁ〜と感心するところだ。
そして目の前にいる初対面でプロポーズしやがった、このネジが1つ足りないんじゃないかという女の子が青葉香織。(数分前に始めて聞いた。順序逆じゃね?)容姿は・・・まぁおいおい分かるだろうから省略する。玉子焼きを差し出している今の状態からは想像すら出来ないがれっきとしたお嬢様で本人曰く『庶民派』らしいのだが、どこの世界に専用の運転手にベンツ(しかも真っ赤)で送り迎えしてもらっている庶民派がいよう。そもそも庶民派とかいう庶民がどこにいるか・・・
と軽く自己紹介(?)した所で今の状態は変わらない。
目の前には嬉しそうに玉子焼きを差し出している青葉香織。横にはもう完全に爆笑している悪友(親友からランクダウン?)のショウとナオト。そして青葉の横では何故か機嫌が悪い妹の沙織が黙々と弁当を食べている。
・・・・・え?
「おい、沙織。なんでお前弁当食ってんだ?」
とりあえず目の前にある玉子焼きは無視してみた。
「食べてちゃ悪い?あるから食べてるんだけど?」
質問を疑問形で返す我が妹。
「いや、なんで弁当があるんだ?」
「作ったからに決まってるじゃない!兄貴もうボケ始めたの?」
「いつの間に・・・ていうか、俺のは?」
「いるなんて聞いてないけど?ていうか、欲しいなら朝ちゃんと起きて自分で作れば?」
いや、ごもっとも・・・だがなんだが納得出来ない。
「1つ作るもの2つ作るのも同じようなもんなんだし、ついでに俺のも作ってくれたっていいじゃないか・・・」
「ふん、気が向いたらね」
そもそも俺は兄貴としてこんな扱いで大丈夫なのか?
そして俺は目の前の女の子が目を光らせた事には全く気が付かなかった・・・
「それじゃ、私たちはそろそろ教室に戻りますね」
なんだか理不尽な扱いに落ち込んでいたとこと、頭の上からそんな声がかかった。
気が付けば目の前にあった玉子焼きは消えており、弁当を片付け教室に戻る準備を整えた青葉と沙織の姿。いつの間にか二人とも昼飯を食べ終わっていたみたいだ。
「お、おぅ・・・」
気のない返事をしつつ右手を軽く上げる。
教室の時計を見ると知らないうちに予鈴も鳴っていたらしく、俺は急いで残っていたパンにかじりつこうとした・・・が、ふと手が止まった。
パンの上にちょこんと玉子焼きがお行儀良くのせてあった。
正直、旨かった。とても意外な気がした・・・
次回予告
第3話 手作り弁当
これから花見でもするのか?