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神化論  作者: ユズリ
推定楽園
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禁忌を犯す咎人 9

 こんな状況にも関わらず、横になっているだけで襲ってくる眠気に対し、わりとのんきな性格のローズは「少しだけ寝ようか」と素直に身を任せて目を閉じる事にする。


 そうしてまだ控室に残っている数名の出場者が、今から戦いに向かうというのにのんびり昼寝を始めたローズに奇妙な視線を向ける中、突然控室の扉が大きな音をたてて勢いよく開かれた。同時に、叫び声が大きく響く。


「ローズいるっ!?」


「んぁっ!?」


 扉が吹き飛ぶんじゃないかというくらい物凄い勢いで開かれた扉の音と、そして自分の名を呼ぶ大声に、眠りに入ろうとしていたローズは文字通り長椅子から跳び起きる。

 跳び起きた反動で椅子の側に立て掛けておいた彼の大剣が、派手な音をたたて床に倒れた。


「おっと……」


 倒れた剣を直しつつ、ローズは控室入口へと視線を向ける。そこには何故か息を切らし、そして血相を変えたマヤの姿があった。

 微妙に彼女の服が土に汚れていたり、腕や足が出血して怪我をしていたりするのを見ると、彼女の試合はどうやらもう終わったのだろう。


「どうした? あ、試合勝ったか?」


 マヤの姿を見て第一声、ローズはのほほんと微笑みを浮かべながらそう問い掛ける。

 しかしマヤは険しい表情のままローズへと近づいていき、そしてここまで走って来たのか荒れる呼吸を無理矢理押さえるような声で、微妙にポカンとするローズへこう告げた。


「ねぇ大変、アーリィとユーリが何処にもいないのっ!?」


「なんだって?」


 息切れ切れに口を開くマヤの言葉に、瞬時にローズの表情は真剣なものとなった。

 とりあえずマヤは息を整え、「どういうことだ?」と重ねて問うローズに真正面で向かい合う。

 そうして彼女は、ひどく動揺した様子で彼へと説明を始めた。


「えっと……アタシもまだよくわからないんだけど、アタシ試合に勝ったから二人に勝利報告でもしようと思って、さっき客席入口に行ったの。でもアタシは選手だから観客席に入れないでしょ? だからしばらくは入口で二人が出てくるのを待ってたんだけど、でも二人が出てくる気配が全然無くて……」


「あぁ、それで?」


「うん……出てこないから近くの兵士さんに頼んで、観客席に"黒髪で紅い目の女の子"と、"銀髪の青年"っぽい二人組はいないか見て来てもらったの。でも見て来た兵士さんには、『そんな二人組はいない』とか言われちゃって……はっきり言ってあの二人の容姿外見はかなり目立つから、そんな二人組がいたら見落とすわけないんだけどいないって言うのよ。それでアタシ、心配になって今街の方まで行って少し探してみたんだけど、やっぱり二人らしき人はいなかったの」


 今までの状況を一気に説明し、マヤは呼吸が苦しくなったのか、一旦口を閉じて息を整える。

 一応ローズは「本当に客席にいないのか?」と彼女へ問うと、マヤは顔を上げて軽く首を横に振った。


「あのね、もし客席にアーリィたちがいたらアタシの試合を見てたはずでしょ? アーリィってアタシに対しては結構心配性だから、客席にいたならこの怪我を心配して、試合が終わったアタシの所に飛んでくると思うの」


 そう言ってマヤは右腕をかかげ、ローズに見せる。

 彼女の腕にはおそらく自分で治療したのであろう形で包帯が巻かれており、確かにアーリィの性格ならこの傷を見た場合はマヤの言う行動を起こすだろうとローズも納得する。


「だが、アーリィたちはいつまでたっても客席からは来なかった……」


「兵士の人もそんな二人組は見ていないっていうし、やっぱり客席にはいないのよ……」


 ローズの呟くに頷きつつ、マヤはため息と共に「どこ行ったのよぅ」と言って、ローズの隣へと腰を下ろす。

 やがて彼女は何かを決意したように「うん!」と頷いて、もう一度ローズに向き直った。そうしてマヤはローズを真剣に見つめ、彼へと驚くべき決断を告げる。


「ねぇローズ、アタシこの大会辞退する! で、今からアーリィとユーリ捜してくるわ!」


「え!?」


 マヤの突然の決断に、ローズは思わず目を丸くして「本気か?」と彼女へ問いかけていた。

 するとマヤは大きく頷き、「だって心配なんだもの」と答える。


「ユーリはさておき、アーリィに何かあったらアタシイヤなのよ。だからゴメン、アタシはこの闘技大会おりて二人を捜しに行く。だからローズ、アタシのかわりに頑張ってちょうだい」


 マヤは両手を合わせて、そして「この通り!」と頭を下げる。

 彼女のいさぎよい決断に少しローズはポカンとしつつも、しかしあんなに100万ジュレ獲得に執念を燃やしていた彼女が、こんなにもあっさりと大会参加を辞退して、そしてアーリィたち捜索へ向かうと決断したことにローズは感心の念を抱く。100万ジュレよりも、彼女にとってはアーリィやユーリが大切なのだろう。その気持ちを知り、ローズは「わかった」と言って彼女に微笑んだ。


「じゃあ俺は頑張って優勝を目指す。だからお前は、アーリィとユーリ捜すの頑張れ」


「……うん!」


 ローズの優しい微笑みに励まされ、マヤも力強く頷いて応える。

 そうして彼女は早速立ち上がり、「んじゃあ捜しに行ってくる!」と言って控室を出ようとした。


「あ、待てマヤ! 腕とか足の怪我の手当てはしなくていいのか?」


 ローズが彼女の怪我を心配して呼び止めるも、マヤは「これくらい平気よ」と言って笑う。


「大きな怪我は適当に自分で手当てしたし、後はアーリィが見つかったらあの子にちゃんと治してもらうわ」


「そうか……だが無理はするなよ?」


「うん、じゃあローズも頑張ってね! 100万ジュレ楽しみにしてるわ! 絶対優勝してお金をゲットしてね!」


 ローズの言葉に頷き、そしてマヤは素早く控室を出ていく。

 慌ただしく退室する彼女を、やはり心配そうな眼差しで見つめながらローズは、何処かへ消えたというアーリィたちの無事をため息と共に祈った。


「何処へ行ったんだ、二人は……無事だといいが」


 ああ見えてユーリは一度暴走したら止まらないし、アーリィもアーリィでマヤという制御役の人物がいないとやはり止まらない性格だ。「変な事に首を突っ込んでいないといいんだが」とローズは眉をひそめ、そして壁に立て掛けておいた大剣を手にとる。直後に、再び控室の扉が静かな音をたてて開いた。


「次は第一試合のラスト・Fグループの試合だ。出場者は私についてきて」


「!?」


 兵士の呼び掛けに、Fグループに振り分けられていたローズは反応して立ち上がる。

 彼の他にも控室に残っていた者たちは立ち上がり、ぞろぞろと兵士について行くように控室入口へと集まっていった。


「よし、じゃあ行くぞ」


「……」


 何人かの出場者たちに混じり、兵士の呼び掛けにローズもまた試合出場の為に控室の扉をくぐる。

 心に一匙の不安を抱えつつ、神聖なる闘技の場に向けてローズは一歩を踏み出した。



【禁忌を犯す咎人・了】

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