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神化論  作者: ユズリ
推定楽園
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禁忌を犯す咎人 2

「……それに、もしかしたらさっきのあの女と争うことになるかもしれない」


「……」


 アーリィが低く呟いた一言に、ユーリはそっと目を臥せる。

 それはあの女の後を追ってきた時点で予想していたことだが、しかし未だユーリにはヴァイゼスと戦うということにほんの僅かな抵抗があった。

 しかしそれが、自分が彼らのかつての仲間だったからか、それともそれ以外の感情によるものなのか、それはユーリ自身にもわからなかった。


 だが、ここまできてしまったからには戦わないわけにはいかない。

 そんなユーリの内心を悟ってか、アーリィが「覚悟はいいか?」とユーリに問い掛ける。ユーリは自分を無表情に見上げるアーリィに、余計な心配をかけぬようニッと笑みを見せた。


「もっちろんオッケーですよ! 俺がばっちりアーリィちゃんを守ってあげますって」


「……勝手にほざいてろ」


 ユーリの戯言に付き合いきれないといった様子で、アーリィは呆れた表情を見せる。

 だがすぐに彼の表情は真剣なものとなった。


「じゃあ改めて行くぞ」


「……おう!」


 短い返事と共に、闇の中を二人は勢いよく駆け出した。




 ◇◆◇◆◇◆




「それでは今から第34回ティレニア帝都闘技大会・予選第一回戦Aグループの試合を執り行う。各フィールドの出場者は、それぞれの審判の合図の元試合を始める。以上!」


 大勢の歓声が取り巻く中、闘技大会会場の中央フィールドに主審の大声が響く。

 巨大な面積の中央フィールドには、それぞれ赤・青・黄・緑の4色の闘技舞台が設置されており、そのうちの一つである青の『青玉のフィールド』に、愛剣である刺突剣を無造作に構えたマヤが余裕の表情で立っていた。

 そして口元に微笑さえ刻む彼女の青い瞳が見つめる先、そこには彼女と対峙する対戦者の姿。


「ふふ、わたしの相手はお嬢さん?」


「……ええ」


 マヤと同様、細身の刺突剣を右手に構えて佇む長身細身の人物。

 先程控室で兵士から説明されたとおり、初戦の相手はやはり自分と同じような戦い方をするタイプの者と当たるらしい。

 だがそれ以上にマヤが気になったのは、ベリーショートの茶髪を時折撫で付けるようにいじる相手が、口調は女性なのにどう見ても男だということ。


「ずいぶんと華奢なお嬢さんだけど、まともに戦えるのかしら?」


 灰色の瞳を愉快げに細め、男は嘲るような口調でマヤへ告げる。

 それにもカチンときたマヤだったが、それ以上に彼女を苛立たせたのは男の口調がなんとなく、先日グロッサの山道で出会ったレイリスとかいう男を彷彿とさせたことだった。

 思わず彼女は低い声で、「なんかすっげぇいけ好かない野郎だわ。口調と態度がどっかの誰かみたいで、妙に苛々がデジャヴるというか……」と呟いた。

 しかしマヤは気を取り直すように煌めく金髪を掻き上げ、男にニッコリと微笑みを向ける。


「安心して、これでも剣の扱いは長いし得意なの。なめてかかると痛い目見るわよ、このクソ野郎さん♪」


 どこまでも可憐で愛らしい笑みを浮かべながら、マヤは宣戦布告のように吐き捨てる。

 これには男も驚きと憤りを覚え、マヤを見つめる男の瞳が睨み付けるような鋭いものとなった。


「へぇ、随分と口が達者なのねぇ。でも女の子がそんな汚い言葉を使うなんて、相当育ちが悪いのかしら」


「ウフ、ごめんなさいね育ちが悪くて。ついでに手癖も悪いから、うっかり手が滑ってその直視するにとても耐えられないアナタのアホ面に、この剣をおもいっきり突き立てちゃったらごめんなさい」


「あら! わたしこそ世間知らずで生意気な小娘に愚かさと未熟さを教えるために、手加減無しで容赦なく切り刻みたくなるかもしれないわ。だからそれはお互い様ね」


「……」


「……」


 まだ試合開始の合図が出ていないにも関わらず、マヤと男が立つ青玉のフィールドは異様に張り詰めた空気が漂う。

 青玉フィールドの審判である兵士の青年が、すでに激しい火花を散らして睨み合う2人に「まだ試合開始ではないぞ! 両者とも落ち着いて!」と困ったように声を上げた。


「えー……じゃあ青玉のフィールドの試合をそろそろ始めるぞ。フィランメル・イリルナとマヤ・ローダンセの両名はちゃんと規定の位置につけ」


 審判の言葉に、イリルナとマヤは仕切り直すように各々の武器である剣を構え直す。

 他のフィールドではすでに戦いがいくつも始まっているようで、まわりにいる観客の声援や罵声の音が一層激しくなった。


「それでは両者準備はいいな……では、始めっ!」


 審判の青年が周りの喧騒に負けぬ大声を張り上げ、2人の戦いの開始を告げた。

 マヤとイリルナ、2人の靴裏が同時に石畳のフィールドを蹴る。

 二本の白銀の刃が、風を切り煌めく直線を宙に描いた。

 そして下方から掬い上げるような形で剣を振るうマヤと、右手に剣を構えて駆ける勢いのまま横薙ぎに刺突剣を振るうイリルナ。

 二本の剣先が甲高い音をたてて交差する。刹那の睨み合いが、交わる刃との直線上で行われた。


「ッ……!」


 相手の力を探り合うような一瞬の均衡は、マヤが先に身を引くことで破られる。

 互いに同じような細身で俊敏な扱いが出来る刺突剣が武器ということから、その戦闘スタイルはパワー型というよりも素早さで数多く攻めるタイプだろう。

 しかしやはり男女差ということもあり、力は僅かにマヤの方が劣る。

 力圧しされそうだと素早く判断して身を引いた彼女は、しかし怯むことなく低い姿勢でイリルナの懐へと一歩踏み込んだ。


「……ぁぁあっ!」


 低い気合いの声を、マヤは小さく漏らす。

 イリルナへと急接近し、そして右手に構えた刃での斬撃を放つ。だがマヤの動きを読んでいたのか、イリルナは薄く笑いながら後方へと身を引き彼女の一撃を回避、素早く大地を蹴って今度はイリルナがマヤへと迫った。

 反射的に剣を構え、相手の刃を警戒するマヤ。だがそんな彼女の防御を嘲笑うように、イリルナは口元を歪めたまま石畳を蹴り付けた右足を伸ばして、マヤの腹部側面へ風を切る高速の蹴りを放つ。

 男の右足の先は、避けきれなかった彼女の胴体に深くめり込んだ。


「かはっ……!」


 小さなうめき声がマヤの唇から発せられ、口元に微かな血が滲む。

 衝撃に彼女の体がよろめくも、しかしその一撃に彼女の中の闘志がさらに刺激されたらしい。

 マヤもまた暗い笑みを浮かべ、「すげぇムカツク」と彼女は正直に呟き、よろめき倒れそうになる体を叱咤するように両足に力を込めた。

 マヤの右腕が翻り、イリルナの右上腕部を彼女の刃が狙う。

 素早く腕を引くイリルナだったが、そこでマヤの剣先が軌道変化。

 刃は垂直降下を始めて、そのままマヤは男へと接近、イリルナの胴へと突き刺す一撃を彼女は放った。

 彼女の狙いを悟ったイリルナが反射的に避けようと身を引くも、完全に回避は出来ず掠めた刃の跡に鮮血が散る。

 さらにマヤは手を休めずに薙ぎ払う一閃を放ち、イリルナは脇腹から血を滴らせながらも腕を捻って、剣の刀身でその剣撃を防御した。


 そして、弾ける金属音と共に後方へと跳んで距離をとる両者。


「なかなかやるわね、生意気なお嬢さん」


「お褒めの言葉、光栄ですわ」


 軽い口調とは裏腹に、睨み合う二人の瞳は真剣さと相手を威嚇する鋭さに染まる。

 マヤの足が動き、それに反応するようにイリルナの腕も動いた。


 今度は身を低くして、剣を大地と水平の形で構えてマヤが突進。

 刺突剣の殺傷力を最大限に引き出す形での構えに、イリルナは迫る刃の切っ先を体を捻って回避する。

 だがさらにマヤの刃は意思を持ち、男の胴を切り裂こうとその切っ先は横薙ぎに軌道変える。しかしそれを一歩先読みし、イリルナは唇を狂気の笑みへと変化させた。


「甘いわっ!」


 いつの間にか剣の柄を逆手に持ち替えていたイリルナは、自分を切り裂こうとするマヤの刃を、逆手の状態で持った剣の刀身を使い防御。そして狂気を口元に刻んだまま、イリルナはマヤへと向かって当て身をくらわした。


「きゃっ!」


 バランスを崩し、後方へと倒れ込むマヤ。

 そこに勝機を見出だしたイリルナの刃が振り上げられ、そしてマヤの右肩目掛けて銀光が振り下ろされる。

 急速に迫る不吉な銀の光を感じ、マヤは咄嗟に身を丸めて側転しながらそれを回避した。


「チッ」


 獲物を逃した猛獣のような瞳でマヤを見遣り、そして忌ま忌ましそうに舌打ちするイリルナ。

 少し息をあげながらマヤは素早く立ち上がり、さらに迫るイリルナの追撃の刃を剣で弾き返す。

 だが当て身をくらった直後のダメージで上手く反応しきれず、イリルナの放つ幾条もの刺突の刃に、マヤの腕やふとももから鮮血が跳び床を赤く染めた。


 体中の至る所を流血させ、しかしそれでもマヤの青い瞳は闘志を失わない。いや、むしろ彼女の瞳は先程以上の激烈な意思をみせる。

 それはまさしく、勝利をつかみ取ろうとする闘士の瞳だった。


(この女……)


 全く怯む様子の無いマヤに、イリルナは僅かな困惑の念を抱く。

 なぜこうもこの女は押され気味になろうとも、勝利を確信したような強気な眼差しをし続けられるのだろう。

 だが、すぐにそれは余計な思考だと彼は気付く。

 頭を切り替え、彼は再び鋭い瞳で刺突剣を構えた。

 相手がいくら闘志を失っていないとしても、しかし確実に彼女の体力は削られているし、剣撃でのダメージも少なくない。それに彼女の回避スピードも、最初よりいくらか低下を見せている。

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