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神化論  作者: ユズリ
推定楽園
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禁忌を犯す咎人 1

 深い紺色の瞳が無感情に見上げるのは、白藍の色を宿した晴れやかな空。

 眠気を誘うような暖かな風に乗って、遠くでゆったりとした鐘の音が響く。

 都の中心から随分と離れた場所にある寂れた教会の屋根に寝転びながら、マギは鐘の音を耳にして微かに口元を弧に歪めた。


「くだらん人間共の遊戯が始まったか……」


 皮肉げに喉の奥で笑い、マギは風に絡まる髪を掻き上げる。

 だがすぐに彼は笑うのを止め、目を細めて眩しそうに薄く雲の揺らぐ空を見つめた。


『マギ、私のためになど働かなくていい。その代わり、君には協力してほしいんだ。この計画の為に、その力を私に貸してほしい』


「……フンッ、なにが力を貸せだ。こんな雑用を押し付けやがって、ジューザスめ」


 青い空を見つめたまま、忌ま忌ましげにマギは吐き捨てる。

 やがて細められた瞳はそのままゆっくりと閉じられ、マギは目を閉じたままティレニア帝都に響く鐘の音に耳をすました。


「……なにもかもがくだらねぇ。この世界も、人も……神も」


 瞳を閉じたまま、嫌悪のかぎりを込めてマギは呟く。

 先程まで優しく吹き付けていた風が勢いを増し、少し強い風が寝転んだマギの髪と外套を激しくはためかせた。


「全てが今、この世に存在するってことも気にいらん」


 風に絡まる髪をおさえ、低く呟きながらマギは目を開ける。

 憎しみに染まった男の瞳は、先程と変わらぬ空の青を見上げていた。




 ◆◇◆◇◆◇




「……っ!」


 地上の光の一切が届かない、闇一色のマンホールの中。

 穴の中へと落下したアーリィは、淡い青に弱く発光するロッドを片手に、底の見えなかった内部へと無事着地することに成功する。

 穴の中は思ったほど深くなかったものの、それでも感覚的に三メートルは落ちたのかもしれない。柔らかい土の大地の感覚を足先で確かめながら、アーリィは自分の頭上をふと見上げた。すると……


「ん……?」


「……ぁぁぁあああああああっ!」


 不吉な予感がする絶叫を伴いながら、なにかが急速に落下してくる気配。瞬時に落下してくる"なにか"が何なのか予測したアーリィは、驚愕に目を丸くしながらも落ちてくるそれを避けようと足を動かす。しかしアーリィが避けるよりも先に、アーリィを追い掛けて穴の中へと飛び込んだユーリが、勢いのままに彼目掛けて落下するスピードのほうがはるかに速かった。


「だあぁぁっ!」


「きゃっ!」


 二人分の悲鳴と共に、嫌な激突音が虚しく辺りに響く。

 真っ暗でなにも見えない中、ユーリは大絶叫しながら見事アーリィ目掛けてダイブをかましたのだった。


「――……ッ、いってぇーっ!」


 暗闇で頭を抱えながらユーリが叫ぶ。

 するとダイブしてきた彼に押し潰されたらしいアーリィが、ユーリの下からキレ気味に抗議の声をあげた。


「っ……おいこの低脳ド変態っ! どけ、重いっ!」


「んぇ? あ、もしかしてこの妙に柔らかいものは……まさかアーリィちゃん?」


「わかってるならさっさとどけ馬鹿っ! てかお前どさくさに紛れて……っ!」


「えー?」


「あ、ちょ……この、ブチ殺すっ! coLd! wINd! sPEarFrEEzeColdLaNce!」


「え、ちょっ……ぎゃあああぁぁぁぁーっ!」




「……ごめんなさいアーリィちゃん。俺、本当に心からものすごぉ~く反省してます」


「……」


「すいませんすいません、少しだけ悪ふざけが過ぎました。お願いですアーリィ様、もういい加減許してください。本っ当にごめんなさい」


「……」


「ねーアーリィちゃーん……お願いだから口きいてよぉ~! 俺寂し~い」


「黙れ」


「……ハイ」


 ゾッとするような怒気を含むアーリィの一言で切って捨てられ、ユーリはしゅんと黙り込む。

 ついでにアーリィに半径2mは近付くなと注意されたため、アーリィの持つロッドの明かりがよく見えないユーリは、暗闇の細い一本道を何度も躓きながら歩く羽目となる。

 さらに言うと先程ブチ切れたアーリィにくらった魔法のおかげで、ユーリの髪は半分凍っていたり手足が凍傷となっていたりと、まだ穴の中に落ちただけにも関わらずすでにユーリの体はボロボロだった。

 ……自業自得だが。


「……にしてもホントに真っ暗でなにも見えないなぁ」


 暗闇を淡く照らす唯一の明かりを持っているのは、自身の前方を歩くアーリィだ。

 アーリィの手に握られたロッドから発生する弱い青の光は、ぼんやりとだが細いマンホール内部の通路を照らし出す。

 足裏の感触や壁の手触り、そして明かりに照らされた通路の様子から、どうやらこのマンホールの中はそれほど高さが無く、延々と通路が続いているようだった。

 さらにその通路は人が一人通るのがやっとくらいの細さで、明かりを持つアーリィは勿論のこと彼の後ろを歩くユーリも転ばぬよう足元などに細心の注意をはらって進まなくてはならない。

 そのため二人の足どりはひどくゆっくりなもので、しばらく歩くと段々じれったくなってきたらしいユーリが、ついに我慢できなくなり口を開いた。


「ねーアーリィちゃん、この道って一体どこまで続いてんのかなぁ~?」


「知るか」


「うぅ……一言で返された」


 悲しそうにユーリが涙声でぽつりと呟く。

 今だに自分へ殺気と警戒100%なアーリィに、ユーリは本気でヘコみながら「もうホントに許して、お願いだから口聞いてよぉ~寂しくて死ぬぅ~」と涙ながらに訴えた。

 するとアーリィは大きなため息を一つ吐き出し、一旦足を止めて振り返る。


「……チッ。ごちゃごちゃとうるさいな。わかったからその欝陶しい情けない声を出すのを止めろ。その声だけで殺意が倍湧いてくる」


 目を細めて呆れた表情を浮かべるアーリィに、ユーリは「はーい!」と大袈裟までに威勢の良い返事を返した。


「ったく……本当にうざいし手がかかるしムカつく」


「ん? な~んか言った、アーリィちゃん」


「別に」


 早速近づいてくるユーリに素っ気なく返し、アーリィは照明代わりのロッドをほんの少しだけ高く掲げる。

 そうして辺りを見渡し、このどこまで続くのかまるでわからない謎の洞窟の先を窺った。


「……しかし、本当にこれはどこに続いているんだ?」


 眉をひそめ、思わずアーリィも呟く。

 先程街で見かけた黒ずくめの女がこの洞窟の中へと入った可能性は高くなったが、しかしこうも延々と暗闇の中を歩かされると色々な面で不安にもなってくる。


「変なトコに繋がってなきゃいいけどなぁ」


 ボソッとユーリが呟くと、珍しくそれに同感らしいアーリィが苦い顔をした。


「……だが、行くしかない」


「ま、そうだね。それに戻っても、どっちみちあの穴をはい上がる方法見つけなきゃ地上には出れないしな」


「地上……あ、そうか」


 ユーリの一言に、そういえば地上に出る方法がないということにアーリィは今気がつく。

 やはり先に進むしかないということを再認識し、アーリィは掲げたロッドにほんの少し強く魔力を込めて発光を強めた。


 そうしてユーリと共にしばらく洞窟内を前進すること少し、今まで自分たちの足音と会話の声くらいしか聞こえなかった洞窟内部に僅かな変化が起きた。

 それに気付いたアーリィは一旦足を止め、そっと周囲に耳をすます。


「……どしたの?」


「しっ、静かにしろ」


 声をかけてくるユーリを静止させ、アーリィは鋭い瞳で前方を見遣る。

 アーリィのその様子にユーリもなにかを察したらしく、おとなしく口をつぐんで辺りの気配に意識を集中させた。

 やがて、ユーリはハッと目を見開く。


「……なんか人の声がするな。それも複数」


 ユーリの言葉に、アーリィも静かに頷く。そうして先程から微かに聞こえ始めた人々の騒ぎ立てるような声に、彼は全神経を集中させた。


「物音もする。……なにか騒いでいるようだな」


「なんだ、一体」


 耳をすましながら首を傾げるユーリに、アーリィは「さぁな」と言っておもむろに歩みを再開させる。


「アーリィちゃん?」


「よくわからないが、先に進むしかないだろう。それに人の声がするってことは、なにかあるってことだ」


 再び前進しながら、そう言ってアーリィはロッドを握る手に力を込めた。

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