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神化論  作者: ユズリ
推定楽園
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楽園の使者 8

 そんな彼が、背に自身の身長と同じくらいの全長がある巨大な大剣を背負っていることは少し奇妙らしい。

 さらにローズの容姿の特長である黒髪黒眼は、ヒュンメイ大陸独自の人種であるイシュ人の純血を示している。

 イシュ人の純血はヒュンメイ大陸ではそこそこ見かけるか、しかしボーダ大陸で瞳まで黒い純血を見かけることはわりと珍しい。それにイシュ人はその人種的特長として他のもっとも一般的な白人種のレイアンや、アサド大陸でよくみかける褐色肌のリース人などよりも骨格が細く筋肉が付きにくい体質だ。その分俊敏さを持つ人種なのだが、そんなイシュ人の彼がおもいっきり怪力勝負の大剣を背負っていることは、どうやら同じ闘い行く者としては色々と興味があるようだ。色んな意味でローズもまた目立っているらしく、そういうのがひどく苦手な彼はややうんざりした表情でそっとため息をついた。

 

「あらんローズ、なぁにため息なんてついてんの? やだ辛気臭~い、今から一世一代の大勝負に出るってのに」


「一世一代……そこまでの大勝負なのかこれは」


 目立つことなどまるで気にしないマヤの言葉に、ローズは苦笑いしながら応える。「まぁどーでもいいじゃないの細かいことは」と笑うマヤに、ローズまあまり深く考えずに彼女のように自然体でいたほうが気が楽かもしれないと思い、「そうだな」と小さく笑った。


「にしても……皆なかなか強そうな者ばかりだな」


「ん? あー……まぁそうねぇ」


 なにか会話をしていたほうが色々気が紛れると思い、ローズは他の出場者たちに視線を向けながらマヤに話し掛ける。

 するとマヤは顔を上げ、頷きつつも「でも……」と言って横目で室内をざっと見渡した。


「ま、確かにどいつもこいつも筋肉隆々だったり、あからさまに『オレ強いんだぜ!』みたいな雰囲気だったり、かっこいいんだかなんだかしらないけど大きな古傷見せびらかせていたり……うん、普通には強そうね。でもはっきり言って、アタシの敵になるようなヤツは一人もいないわね」


「……」


 いっそ清々しいほど、キッパリとそう言い切るマヤ。その強気は一体どこからくるのだろうかと、ローズはそう本気で彼女に問い掛けたくなった。


「……え~とだなぁ」


「だ~いたいどいつもこいつも明らかに筋肉馬鹿っぽかったり『オレは強いぜ火傷するぜ!』なナルシスト野郎っぽかったり、な~んか過剰な強いぜアピールばっかりしてるけど中身はどうなのか怪しいわ。もしかしたらマジでアタシの一人勝ちで、100万ジュレなんて簡単に手に入れちゃうかもね~」


 ペラペラと思ったままのことを口にするマヤは、そう言って極めつけに「簡単に手に入れちゃったらちょっとつまんないわよね~」とまで言う。

 マヤという少女は常々他の同年代の少女とは違い、かなり性格的に強気というか暴走気味だったり、たまに王者の風格すら漂わす時がある異質な少女だ。しかしここまで、これだけの屈強な戦士たちを前にして「楽勝」と言い切るマヤに、ローズは感心の念すら抱いてしまった。


「……ホントに逞しいな、マヤは」


「あら? でもローズだってこんな奴らの相手楽勝なんじゃなぁい? あなただって強いんだから」


 ローズが思わずと呟くと、マヤはニヤリと口元を歪めて笑う。その言葉にローズは苦笑し、「どうだろうな」と控え目な返答を返した。


「やだな~、ローズってば相変わらず謙虚な態度でぇ~! 少しはユーリくらい図々しい態度とってもいいと思うよ、ローズはさ」


「う~ん、そうか?」


「うん。あ、でもユーリは少しウザいから、そうねー……アタシくらいバランスよく謙虚で控え目だといいんじゃないかな?」


 そう言ってマヤはニッコリと微笑む。

 彼女のその可憐な笑みに、マヤは本気かつ本心からこの台詞を言っているということを悟り、ローズはどう反応すべきか迷いに迷ったあげく引き攣った笑みを浮かべて頷いておいた。


 すると突如控室の入口ドアがやや乱暴にノックされ、ざわついていた室内は一瞬にして静まり返る。

 室内にいる出場者たちの視線が部屋の入口に集中し、皆が見守る中部屋のドアが勢いよく開いた。

 そうして二人の兵士が室内へと入ってくる。


「それじゃあ今から大会のルール説明と、第一試合のグループ分けを発表する。グループ分けについては後にルールと共に説明するとして、ルールはしっかりと理解しておけ」


 ティレニア帝国の鎧を纏った兵士の二人はそう出場者たちに言葉を向け、そして兵士の一人は懐から一枚の紙を取り出した。

 その場の全員の視線が、紙を取り出した兵士の青年へと集まる。


「まず大会のルールを軽く説明する。大会は会場にある4つのステージで、一回の試合でそれぞれ2人4組を1グループとして進めていく。グループはA・B・C・D・E・Fのグループに別れ、制限時間15分の間に相手を気絶させるか相手に負けを認めさせた方が勝ちで次の勝負に進める。制限時間内に勝負がつかなかった場合は、それぞれの審判員に公平な審査のもと、判定で勝負を決めるから理解しておくこと。なお対戦相手を死なせた場合は即失格、相手を瀕死に追い込んだ場合は審判が止めに入るのでそのように」


 紙面に書かれたルール文を一息に読み上げ、一旦男は顔を上げる。

 そして「以上、ここまででなにか質問はあるか?」と言って、兵士は控室内を見渡した。

 ほんの少しざわつく室内。マヤも小声でローズへと「制限時間があるのね」と呟く。

 どうやら最低でも40人ほどは出場するようで、さくさく大会を進めるために制限時間を設けたのだろうとローズは納得した。


「……にしても、結構参加者がいるんだな」


「えー、質問はないようなので次に進ませてもらう。次に武器の使用等の説明だが、これは本人が扱える武器なら基本的になんでも可だ。しかし例外として銃器の使用は、他の対戦フィールドへ流れ弾などが入って試合を妨害する可能性があるので不可とする。これはエントリー時に受付が確認したはずだから、銃をメインに戦う奴はいないと思うが一応再確認させてもらった。大丈夫だな?」


 兵士の問い掛けに、再び室内が僅かにざわつく。


 銃器は旧世界時代に多く使用された遠距離武器だが、その製造方法や技術、あるいは武器そのものの多くがやはり"審判の日"に焼き失われてしまった。そのため今では銃とは非常に高価な武器となり、今はあまり一般には普及していない。

 ローズも実際使ってるのを見たのは、先日の一件でのエルミラという男が初めてだ。

 どうやらそんな事情もあり、室内に銃を所持する者はいないようで、誰もが理解済みといった面持ちをしていた。


「……よし、大丈夫なようだな。なお、銃を隠し持っていて試合途中に使用した場合も失格となるので覚えておくように」


 兵士の男が事務的な口調でそう言い、手にしていた紙をしまい込む。

 すると今度は隣に立っていたもう一人の兵士が、同じように白い紙を取り出してそこに視線を落とした。


「えー、次にこちらで振り分けた第一試合のグループ分けの発表を行う。と、その前に対戦相手の決め方を説明しておこう。まず第一試合で1グループにそれぞれ4人の勝者を決め、そこからこちらで用意したトーナメント表を基に第二試合、第三試合と対戦相手が決まる。第一試合では大体互角で戦えるだろうと思われる同士を組ませてある。それは性別や種族、扱う武器などを見てこちらで決めた。よって第一試合は似た者同士が戦うことになるだろうが、第二試合からは勝ち進んだ者がひたすらぶつかっていくことになる」


 男の説明にローズの隣でマヤが腕を組みながら「なるほどね」と呟き、そしてなぜか不敵な笑みを浮かべた。


「ま、誰が相手だろうと簡単よ。全員まとめてひねり潰してやる」


「……」


 マヤの本気の呟きは、ばっちりローズの耳に届く。

 彼女の言う『誰が相手だろうと』には勿論自分も含まれているんだよなと思うと、ローズはなんとも言えない複雑な気分となった。

 気合い十分なマヤに対し、少し苦い表情で俯くローズ。だが彼は、「じゃあいよいよグループ分けの発表だ」という兵士の声に直ぐさま顔を上げた。


「では、まず第一試合Aグループ……」

 

 ほんの少しざわついていた室内が、完全に静まり返る。

 兵士の男が対戦表を読み上げる声だけが、さほど広いわけではない室内に響いた。


「ギル・ローウェンとルッチ・ヴェダ、紅玉のフィールドにて試合。フィランメル・イリルナとマヤ・ローダンセ、青玉のフィールドにて試合」


「え? もうアタシ?」


 いきなり名を呼ばれたことにマヤは驚きの声をあげる。

 ローズも「この後すぐに試合か」と、彼女に小声で呟いた。


「う~ん、直ぐなら直ぐで楽だからいっかな。ガンバロ~っと」


 大きく伸びをしながらマヤはそう言って笑う。

 本当に自信があるようで全く緊張の色を見せないマヤに、ローズは何故か少し笑ってしまった。


「……以上、Aグループ。次はBグループの発表に入る」


 対戦表を読み上げる兵士の声が続く。

 男が名を読み上げるたびに少し室内がざわつき、ローズも自分の名が呼ばれるのはいつだろうと腕を組んで兵士の声に耳を傾けた。


「……以上がEグループだ。じゃあ次にFグループの発表を行う。ローズ・ネリネとエッジ・リーヴェル、紅玉のフィールドにて試合」


「あ、ローズじゃん。Fグループってことは、第一試合のラストね」


 やっとローズの名が呼ばれ、半分退屈そうにしていたマヤが顔を上げる。

 彼女の言葉にローズは「あぁ」と頷き、対戦相手は一体どんな人なのだろうと辺りを軽く見渡した。

 しかしエッジと呼ばれて反応するような人物はおらず、ローズは「別の控室にいるのかも」と思い直ぐに捜索を諦める。


「にしてもアタシが初っ端でローズがラストか……なんだかなぁ」


「そうだな。……そういえば待ち時間の間は、他の出場者の試合を見ていてもいいのだろうか?」


 ふと思い付いたようにローズは呟く。

 すると、ちょうどグループ分けの全てを発表し終えた兵士の男が、紙を懐にしまいながら

「それと自分の試合までの空き時間は、原則この控室で待ってもらうことになる。自分の試合が始まるまでここで待機、出場者は他の出場者の試合は観覧出来ないルールとなっているので注意をしとけ。ただし第一試合で自分のバトルが終わった者は、第二試合が始まるまで観覧席以外の場所になら出入り自由となる。その場合は試合時間までに戻ってこないと失格になるので、しっかり覚えておくように」

 と、室内を見渡して説明した。


「……へぇ。自分が次戦うかもしれない相手の武器や戦法は、本番までわからないようにって処置ね。少しは考えてるじゃない」


「しかしこれではお前の試合を応援出来ないな」


 感心したように頷くマヤに、隣でローズが少し残念だというように呟く。するとマヤは嬉しそうに笑って、「やだローズ、アタシの応援してくれようとしてたのん」とローズを見上げた。


「ん? まあな」


「全く、ローズはホントお人よしね。アタシも一応あなたの敵だってこと忘れないでよ」


 マヤの言葉に、ローズはただただ苦笑いを返すしかない。

 しかしマヤは「ま、その気持ちは嬉しかったからありがとうと言っておくわ」と言い、ローズに軽くウインクをしてみせた。


「それに応援はホラ、アーリィとユーリが頑張ってくれるわよ」


「それもそうか。じゃあ俺は自分の試合まで、ここでおとなしく待っていることにするよ」


 マヤの微笑みにローズも頷いて口元を緩める。

 そして「ではAグループの出場者はいたら自分たちについてきて!」という呼びかけがかかり、マヤはハッと顔を上げて足を動かした。


「じゃあアタシはもう行かなきゃ。じゃあねん、ローズ」


 兵士たちの元へ行く直前、最後にマヤは振り返りローズに軽く手を振る。

 彼女に「頑張れよ」と声をかけ、ローズも手を振り返しながら試合へと向かうマヤを見送った。


「……」


 何人かの出場者と共に、マヤは兵士たちの背に続いて控室を出ていく。

 同時にこのティレニア帝都闘技大会の開幕を告げる鐘の音が響き、ローズは室内の上部に設置されていた小さな窓に視線を向けた。


「ベルの音……けっこう近いな」


 四角く見えた外の世界は青く、ローズに空は快晴だということを知らせた。

 すると、不意に外で別れたユーリとアーリィの二人は変な騒動を起こしてはいないかと、ローズは少し心配になる。

 だが直ぐに「ま、大丈夫だろう」と彼は呟き、そして窓の外を目を細めてもう一度しっかり見遣る。

 眩しそうに細められた漆黒の瞳は、小窓に小さく見えた開幕を告げる白銀の鐘を見つめていた。


「戦いの始まりを告げる鐘の音か……」


 目を細めたまま、ローズは低く呟いた。


【楽園の使者・了】

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