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神化論  作者: ユズリ
境界線の向こう側
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接触、追跡 3

 ルルゥは柔らかな微笑みを浮かべながら「えぇ、皆さんも気をつけてね」と、そう言って小さく手を振った。

 ローズはもう一度頭を下げ、マヤは眩しいほどの笑顔で彼女へ手を振り返す。ユーリも小さく手を掲げ、そして三人はルルゥに背を向けて再び旅立って行った。


「……元気でね、みんな」


 去り行く三人の後ろ姿をじっと見つめたまま、ルルゥは祈るように静かに呟いた。




 ◇◆◇◆◇◆




 数十分ほど前にティレニア帝国側の門が開き、そして入国審査で足止めされていた旅人たちも徐々にアンジェラ側の門を通過していく。そのため村は昨日程の混雑ぶりはなくなっていた。


「さて……たいして大きな村じゃないし、さっさとアーリィ見つけましょ」


 アンジェラ側の門を前に、三人はこれからの行動を確認しあう。

 マヤの言葉に「そうだな」とローズは頷き、ユーリも了解の意を示すように軽く手を振った。


「ちょうど人の数も減ってきたし、きっとその辺をふらっとしてるだろうからすぐ見つかるだろう」


「そうね。じゃ、アタシはここらへん捜すわ」


「んじゃー俺は反対側見てくるわー」


 それぞれマヤがアンジェラ側、ユーリはティレニア側を捜索するとローズに伝える。ローズはズボンのポケットから懐中時計を取り出しつつ、「じゃあ俺は……」と呟いた。


「それじゃあ俺は村の中心だな。それで……今ちょうど十二時すぎだから、見つけても見つからなくてもとりあえず三十分たったらティレニア側の門に集合しよう」


 銀色の懐中時計に視線を落としつつ、ローズはそう提案する。それにマヤは「オッケー」と頷き、ユーリは再度手をあげて了解の意を示した。


「それじゃ、そーゆーわけで」


 話が纏まると同時に、マヤは早速踵を返す。そして「三十分後ね~!」と彼女は大声で二人に声をかけ、早速アーリィ捜索に駆け出していった。


「……んじゃ、俺らも行きますか」


「そうだな」


 遠ざかるマヤの後ろ姿を眺めつつユーリが呟くと、ローズも頷きながら懐中時計を再びポケットに仕舞う。そうして二人はそれぞれ別々の方向へ向かって歩きだした。




 ◇◆◇◆◇◆




「どこ行ったのかしら、アーリィったら……」


 肩にかけた刺突剣を背負い直しながら、マヤはキョロキョロと辺りを見渡す。

 ここアンジェラ側の門周辺では、いつもよりも入念な入国審査でしばらく足止めされ、そしてやっと許可が下りたらしい旅人たちが何人か集まっていた。

 長い足止めで、皆一様に疲れた表情を浮かべていた。そんな旅人たちの間を、マヤはゆったりとした足どりで歩く。そうしながら旅人たちの中にアーリィの姿は無いか視線を動かした。だが、彼らしき人影は見えない。


(……う~ん……まさか門の外とか?)


 首を傾げたまま、マヤは巨大な門へと近づく。

 そのまま少しだけ外を覗こうと門に近づくと、案の定彼女は門番らしき兵士に制止された。


「困りますよ、お嬢さん。アンジェラへ入国許可の下りていない人はこちらの門はくぐれません」


 青年の兵士が慌ててマヤに駆け寄り、困ったような表情でマヤの進行を阻んだ。


「あ~ごめんなさい。ちょっと知り合いの姿が見えなかったから、もしかしたら門の外かなぁ? と思って……」


 愛想の良い笑みを浮かべながらマヤが正直に説明すると、青年は目を丸くして大きく首を横に振った。


「それはないですよ! このように許可証を持っていない人間は我々がチェックして門を通さないようにしてますから」


「うん、そうみたいね。ごめんなさい」


 素直に謝罪し、マヤは兵士に軽く手を振って踵を返す。


(これじゃやっぱり村の外には出てないわね……)


 来た道を戻りつつ、マヤは俯きながら考える。これならきっと反対の門も同じ対応だろう。通行許可証はローズが持っているので、やはりアーリィが村の外に出た可能性は少ない。考えるように眉をひそめながら、彼女は「ん~」と唸った。


「ど~しよ……やっぱりもう少しこの辺探すかなぁ……ん?」


 考え事をしながら歩いていたため、あまり周りが見えていなかったマヤ。彼女が意識を現実に戻した瞬間、すぐ目の前に人が立っているのに気付いて慌てて足を止めた。


(あっぶな……ぶつかるところだったわ)


 そのまま気付かず突き進んでいたら、確実にぶつかるところだったとマヤは胸を撫で下ろす。

 彼女の進路に立っていたのは青年らしき人物のようで、彼は顔を服のフードで隠した背の低い人物となにやら会話をしていた。


「……一時には許可下りるから出発出来るって、エル兄」


「ふぅん。じゃ、出発に向けて馬車持ってくるか」


「馬車って……あっち側に置いて来たよね? 戻るの?」


「そうだよ。馬車なきゃガルガドまで歩く羽目になるだろ。そんなのオレは勘弁だからね」


「……エル兄はたまに歩いたほうがいいと思うけどね」


 彼らはマヤには気付いていないようで、なにやら会話を続けていた。

 そのままマヤは彼らのわきを抜け、再びアーリィ捜索に入ろうとする。


(……にしても、全身黒のコートだなんて怪しい奴らね)


 決して旅人とは思えない、微妙に周りから浮いた格好の彼らをちらっと一瞥しながら、しかしすぐに興味を失ったマヤは再び小走りに駆け出していった。


「とにかく、一度反対側に戻るぞ」


「はぁい」


 話を終えた男たちもまた、マヤが向かった方向とは反対方面へと歩きだした。




 ◇◆◇◆◇◆




「おぉ~い、アーリィちゃ~ん! どっこですかぁ~!?」


 捜す気があるのかわからないほどゆったりとした暢気な足どりで、ティレニア側の門周辺をユーリは歩く。そうしながらアーリィの姿は無いかと、彼は辺りを見渡した。

 門周辺は先程一旦閉ざしていた門が開門したこともあり、多くの旅人でごった返していた。そんな人々の間を抜け、ユーリはもう一度気の抜けるような声で呼び掛けてみる。


「アーリィちゃーん、でておいでぇー!」


 やはり捜す気あるのかないのか微妙な態度のユーリだったが、これでも本人は至って真面目に捜しているらしい。何人か旅人らしき人々が怪訝そうな表情でユーリを見たが、真面目に捜しているらしい彼はその視線に全く気付いていなかった。

 ユーリはひたすら気の抜けるような声で、アーリィの名前を呼んで捜索する。

 しかしここら辺一帯を歩きまわっても、アーリィらしき人物の姿は見えなかった。


「おーいアーリィちゃ~ん、ここにはいねぇのかぁ~?」


 この辺にはいないのかも……と、そんな考えが浮かび始めた時だった。


 少し捜索の場所を変えようとユーリが踵を返した瞬間、ここから少し離れた雑木林の中でなにか白い影が動いた。


「……あれ?」


 一瞬目の錯覚かとも思ったユーリだったが、よくよく目を凝らすと木と木の間にどこかで見たような人の後ろ姿のシルエットが見える。白と黒を基調としたゆったりめの服にも、ユーリには見覚えがあった。


「アーリィちゃん?」


 ユーリは慌てて、雑木林に向かって駆け出した。




 ◇◆◇◆◇◆




「……」


 なにも無い、ただ青々と生い茂る木々を見上げる。

 アーリィは相変わらずぼんやりとした眼差しで、なんの変哲も無い木々の間でぽつんと一人立ち尽くしていた。まるで一人だけ時が止まったかのように、虚ろな瞳はなんの変哲も無い景色を見つめている。

 すると背後から草木を踏み付けて駆けてくる足音が近づいてきた。


「おーい、アーリィちゃーん!」


「っ!?」


 名を呼ばれ、ハッとする。

 一瞬なにがなんだかわからず、アーリィは不思議そうな顔で周囲を見渡した。

 そこにユーリが近づいてきて、こちらも不思議そうな面持ちで「どしたんだ?」と首を傾げる。ユーリの姿を視界に入れたアーリィは、半ば放心したような表情で目を丸くし「ここ、どこだ?」と、小さな声でそう呟いた。その様子に思わずユーリも「え?」と驚きの声をあげる。


「どこって……自分でここまで来たんじゃないのか?」


「……」


 ユーリの問いに、アーリィは僅かに首を横に振った。


「よく、わからない……覚えていない……」


 今にも消え入りそうな声で呟かれた言葉に、ユーリは思わず強い不安を感じた。


「アーリィちゃん……?」


 心配そうにアーリィの顔を覗き込む。

 アーリィは何かを振り払うかのように大きく首を振り、そしてユーリを拒絶するように「いや、なんでもない」と告げた。


「なんでもないって……顔色悪いぜ? 大丈夫?」


「うるさい、平気だ。……たまに、こういうことがある」


 未だ心配そうな表情をするユーリに背を向けながら、アーリィはボソッと呟いた。

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