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神化論  作者: ユズリ
境界線の向こう側
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赦さぬ悪夢、鎮魂の歌 4

 ユロ鶏の香草焼き、赤野菜のサラダ、レーズン入りコルコッタの蒸しパン、白豆のスープ、ディレジャ山菜の漬け物、野苺パイのラズベリーソースかけ……


「うわ……すっごいご馳走……」


 木製のダイニングテーブルへずらりと並べられたご馳走の数々。それらを前にマヤは感嘆の声をあげつつ、近くの椅子へと腰をかける。

 ローズとユーリ、そしてアーリィも同じように驚きの表情を浮かべながら、それぞれの席へと着いて食卓を囲んだ。


「うふふ、たくさん人がいるのって嬉しくてついはりきっちゃったわ! 皆さん、遠慮せずにどんどん召し上がって!」


 奥のキッチンからエプロンを外しつつ、ルルゥがダイニングへと入ってくる。

 食材の買い物を手伝った時、あまりに大量の食材を買い込むのである程度予想はしていたが、実際こうしてテーブルに料理を並べられるとこの量はすごい。大きな長方形のテーブルに隙間なく並べられた料理全てを、二時間ほどでルルゥが一人で作ってしまったということもまた、四人が驚愕する要因であった。


 ルルゥの家へと上がりこみ、すぐにルルゥが夕食の準備を始めたので、四人は今までそれぞれ与えられた部屋で思い思いに休息をとっていた。今までゆっくりと休めなかった分、「休んでいてください」というルルゥの言葉にまた甘えて、ローズたちは休んでいたのだが……



「なんか、こんなにたくさんの量作るの大変でしたよね? あの、お手伝い出来ずすみません」


 マヤが入って来たルルゥに申し訳なさそうに呟く。するとルルゥは「気にしないで」と笑い、人数分のフォークをテーブルへと並べて彼女も空いている席へと腰をおろした。


「それじゃ、お口に合うかはわからないけど……どうぞ召し上がって」


「おぉ! んじゃいっただきまーす」


「ご馳走になります」


「ありがとうございます。いただきまぁす」


「……いただきます」


 ルルゥの言葉を皮切りに、四人はまだ湯気があがる料理へとフォークを伸ばす。

 柔らかいユロ鶏の香草焼きを一切れ口に運びながら、マヤは「美味しいっ!」と自然な感想を漏らした。ユーリも受け皿に取った漬け物やサラダをすぐ空にし、ローズも一品一品の味に感心しながら料理に舌鼓をうっていた。

 アーリィはとても自然に迷わずデザートの野苺パイから食していたが、その自由さがアーリィなので誰も特になにも言わなかった。


「しかし相変わらずルルゥさんの料理は絶品ですね。以前もご馳走になりましたが、あの時もとても美味しかったのを覚えています」


 ローズが蒸しパンに一口かじりつきながらそう漏らすと、ルルゥは少し照れたようにはにかむ。


「ありがとう。旦那がいなくなってから、料理ぐらいしかやることなかったからかな?」


「……あの、失礼なこと聞いたらごめんなさい。旦那さんって……?」


 先程からちらほら話に出てくる気になる単語。マヤは少しだけ控えめな声で、しかし思い切ってルルゥへと問い掛けた。

 ルルゥは相変わらず柔らかい笑みを浮かべたまま、「もうずっと昔に村の外へ出掛けてったきり……魔物に襲われて、ね」と、そう言って手元の青いティーカップを見つめる。ティーカップの飲み口に小さく刻まれた"ダイン"という文字は、おそらく彼女の旦那の名前だろう。


「でももう本当に昔の話だし、今は一人の夜もそんなに寂しくないわ。けどやっぱりこうして誰かととる食事は一味違うものね」


「ルルゥさん……」


 マヤへと明るく微笑みかけて、ルルゥは言った。

 ついでに彼女はマヤへと白豆のスープが入った皿を近づけ、「この白豆、私が作ったの。白豆は美容にもいいのよ」と言って勧める。マヤは嬉しそうに「いただきます」と言いスープを受け取った。そして彼女は、一口スープに口を付ける。


「うわっ、ホントに美味しいー、甘ーい! やだ、ハマりそー」


「でしょ? ほどよい甘みだからしつこくないし、さっぱりしてるからいくらでも飲めるの」


「ねぇルルゥさん、後でこのスープの作り方教えて!」


 あまり口に出しては言わないが、こっそり料理が好きなマヤ。彼女はさっそく気に入ったらしいスープのレシピを教わろうと、目を輝かせた。

 ルルゥもマヤに気に入ってもらったのが嬉しいようで、「もちろん、いいわよ」と頷いた。


「しっかし料理は上手で美人、優しくて一途で常に家庭を守る……ホントルルゥさんは俺の理想の嫁さんっすよ。あ、いっそ俺と再婚しません?」


 ユーリがサラダを貧りつつ、ヘラッとだらし無い笑みをルルゥへ向けて言う。普段は(何故か)『アーリィちゃーん』とうるさいこの男だが、基本は女の人が大好きだ。ローズいわく、昔はすぐに女の子に声をかけたりで色々大変だったらしい。今はだいぶ大人しくなっているが、たまに控え目ながらも自分の基本属性を思い出すようだ。

 するとユーリの一言に、ルルゥは可笑しそうにクスクスと笑いながらこう言葉を返す。


「やだユーリ君、まだそんなこと言ってるの? もう、好い加減にしないと私も本気にしちゃうわよ?」


 そう言ってルルゥは、ユーリに咎めるような視線を向ける。ただ口調は柔らかいので、本気で注意しているわけではない。「あまり年上の未亡人をからかわないで」とルルゥは付け足して、フォークの先でくるくると円を描いた。

 そんな二人の会話に、マヤとローズが同時に食事の手を止めて、ユーリへと視線を向ける。二人共、見事なまでに疑念に満ち溢れた素敵な瞳だった。


「……まだ?」


「好い加減にとは……そのまんまの意味でいいのか?」


 マヤとローズ、二人の言わんとする言葉を察して、ユーリは慌てて「いや、違う!」と大きく両手を振りながら否定する。しかしユーリの弁解も虚しく、ルルゥが笑顔でこうも暴露した。


「前もユーリ君、夜中に一人で私のとこに来てねー……もう、ホント変わってないなぁ」


 ルルゥの言葉を聞き、一瞬にしてマヤの瞳は蔑むような氷点下の色となる。ローズも同じく、呆れと咎めが混じったような表情でユーリを見た。


「ユーリ……その、俺が口出すことじゃないが……あまり既婚者の方にそのような行動は良くないと思うぞ。旦那さんがいらっしゃらないといっても、やはりなぁ……」


「夜中に女性のところへ口説きに……ね。へ~ぇ~」


 二人の痛い視線と言葉に、ユーリは「だから違う、誤解だ!」と半泣きで訴えた。だがそんなユーリの必至の訴えも、マヤの「デリカシーの無い男ってサイテー」の一言で切って捨てられる。

 ユーリは本格的に泣きそうになりながら、それでも二人の冷たい視線に耐え切れず叫んだ。


「だから違ーう、二人共そんな痛い視線を向けんなよ! なにもやましいことはしてないし、つーかこれには深い訳がー……って、アーリィちゃんは逆にもっと俺に興味持ってよ! なんかそこまで無視られると寂しーじゃん!」


 ユーリの色恋沙汰その他になんて微塵も興味の無いアーリィは、会話から外れ一人黙々とパイを食している。しかしユーリに名を叫ばれ、彼は心底かったるそうに顔を上げた。


「黙れ。静かに食事も出来ないお前の脳はサル以下か?」


 そう辛辣に吐き捨てて、アーリィはユーリを睨みつけた。いつもより辛辣さが二割増なところをみると、大好きな甘味の食事を邪魔されて不機嫌が割り増し中らしい。

 元々全体的な色がほんのり白いユーリだが、このアーリィの一言に彼は灰の如く白くなる。抜け殻のようになったユーリを見て、マヤは「あっはっは!」となぜか楽しそうに笑った。


「あと、今も昔もこれからも、お前にはまったく興味ないから安心しろ」


 ざくっとフォークをパイに突き刺しながら、アーリィはユーリを見ることなくとどめの一言を突き刺す。ユーリは完全に、灰となり屍と化した。


「……あの、ユーリ君大丈夫?」


「あぁ平気ですよ! そいつアーリィにぼろくそに毒を吐かれるのが趣味みたいなものですから!」


 廃人のようなユーリを心配してルルゥが呟くと、マヤがすかさず笑顔で鬼のようなことを言った。ついでにローズはすでにこの話題から興味を失ったようで、今は『自分の食べる分は残るのか?』と、アーリィの胃の中へ着々と収納されていく野苺パイを心配そうに見つめていた。


「ほらユーリ、いつまで呆けてんの!? いつまでもそーしてると、美味し~い料理が無くなっちゃうわよ?」


 死人のような表情のユーリの頭を容赦無くぶっ叩きながら、ついでにマヤは「あ、これ食べないなら貰うわよん」と言って、ユーリの皿へと盛られていた香草焼きを遠慮無く自分の口へと放り込む。その彼女の行動に、ユーリは再び意識を取り戻したようで、怒った様子でマヤを見た。


「あ、おいマヤ! お前なに勝手に食ってんだよ、俺の肉だろそれ!」


「ん、なによ生きてたの? 残念、お肉はもうアタシの胃の中よん。ボーっとしてたアナタが全面的に悪い」


「吐け! 今すぐ吐けこの強欲女ぁっ!」


「あぁ? アンタ一体誰に口聞いてんの? 吐けですって?」


「……なぁ、アーリィ。その、俺もそのパイを食べてみたいんだが……」


「ふーん。……で?」


「うわっ、イテェ! おいマヤ、なにも殴るこたぁねーだろ! てかなんで俺が殴られてんだよ!」


「うるさいわね、あんたが気持ち悪い顔で気持ち悪いほどアタシに近づくからでしょ?!」


「うむ……出来れば一切れくらい残しておいてくれないか?」


「やだ」



「……」


 普段よりも賑やかな、一人ではない食卓。

 騒々しいほどに賑やかな4人の姿を、ルルゥはどこか羨ましそうに見つめ、そして静かに微笑んだ。

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