表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神化論  作者: ユズリ
境界線の向こう側
53/528

赦さぬ悪夢、鎮魂の歌 3

「……えぇと、さて宿どうしよっか?」


「あぁ、そうだな……困ったな」


 ユーリがアーリィの猛攻に悲鳴を上げて逃げ惑い始めると、マヤとローズは二人を無視して話し始める。背後でするユーリの悲鳴だかなんだかを無視し、マヤとローズは今日の就寝場所の確保に頭を悩ませた。


「ちょ、まてアーリィちゃ……! いた、痛いっ! お願いだから、そのゴツイ珠の部分で小突かないで! い、痛いって!」


 真剣に今後を考えているマヤとローズの後ろで、ユーリが半泣きになりながらアーリィのロッド攻撃から逃げる。アーリィはとにかくユーリを小突いて小突いて小突いて小突き、やがてユーリは「もー許して!」と叫びながら、容赦無いロッド攻撃を回避するために人込みの中へと駆け出して行ってしまった。すると前を見ないで人込みへと突っ込んで行ったユーリは、自分の不注意から誰かにぶつかってしまう。


「キャッ!」


「あ、わり……っ!」


 女性の悲鳴に慌ててユーリは正面を向き、倒れそうになった彼女の腕を咄嗟に掴んで転倒を防いだ。


「大丈夫か? お姉さん」


 男の本能なのかわからないが、ユーリは微妙に嘘くさい爽やかな笑みを浮かべながら、そっとさりげなく肩を抱き寄せて女性を支える。長い亜麻色の髪をした彼女は、照れたように頬を赤く染めながら「ありがとうございます」と言って顔を上げた。

 そしてユーリを見た途端、女性の大きな茶色の瞳が驚愕に見開かれる。


「……もしかして、ユーリ君?」


「え?」


 目を丸くして固まる彼女に、ユーリも突然名前を当てられてびっくりしたように声をあげた。

 その時ちょうどアーリィが二人へと近づき、二人の姿を交互に見遣った後に「知り合いか?」と、ユーリへと問い掛ける。ユーリは「んー?」と首を傾げながらまじまじと女性を見つめ、そんなユーリの姿に彼女は小さく笑いながら自らを指差してこう言った。


「私よ、忘れちゃったかな? ほら、昔この近くで魔物に襲われてた所をあなたとローズ君に助けられた……」


「あっ、もしかしてルルゥさん!?」


 記憶が蘇ったのかハッとしたような表情で、女性を指差しながらユーリは答える。ルルゥと呼ばれた彼女は、「当たり」と言ってにっこりと微笑んだ。


「うわ、懐かしいなぁー! 久しぶりっす! てか相変わらず綺麗っスね。とても三十代……イヤ、もう四十代? にゃ見えないですよー」


「あはは、ありがとう。でもそんな堂々と年齢は公言しないでほしいな~」


 どうやら知り合いらしく、二人はなにやら楽しげに笑い合う。

 しばらく談笑する二人の様子を首を傾げて傍観していたアーリィは、「ちょっと二人共、なんか騒がしいけどなに?」という背後からのマヤの呼び声に振り返った。


「あ、マスター」


「ん? アーリィ、そちらの美人なお姉さまは一体どちらさまかしら?」


 ユーリと親しげに会話するルルゥに気付き、マヤは彼女に視線を向けたままアーリィへと問う。

 するとアーリィは無表情にマヤへとこう説明をした。


「あぁ、なんかあの男の知り合いらしいです。えぇと……マスターが前に教えてくれた『昔の女』ってやつです、きっと。たぶんアイツはこの後あの人とよりを戻してこの村へ永住するので、ついでにそっちの黒いのもセットでここに置いていきましょう。で、またマスターと二人で旅……なんてどうですか?」


 アーリィはいつもより物凄い饒舌に、そんな事実と願望と妄想が入り交じった説明を語る。するとマヤはアーリィの九割方捏造話を素直に信じ、「えぇ!? あのユーリの元カノ!?」と、かなり衝撃を受けた顔でユーリたちの方を見た。

 マヤが驚いた直後、アーリィの話を聞いていたらしいユーリが、慌てて三人のところへと駆け寄ってくる。


「ちょ、アーリィちゃん違うって! なにそのすごく有りそうで怖い捏造話はっ!? 違う違う、彼女は昔の知り合いだよ!」


「なんだ、違うのか」


「なんだぁ、違うの?」


 予想が外れて残念そうなアーリィとつまらなそうなマヤの声に、ユーリはどっと疲れたように「あのなぁ」と呟く。すると今まで無言でルルゥを観察していたローズが、なにかを思い出したように目を見開いた。


「ん? もしかして……ルルゥさんか?」


「あら、ローズ君も。えぇ、お久しぶりね」


 ルルゥは小さく頭を下げながら、ローズへと向き直って微笑んだ。


「へ? ローズも知り合いなの?」


「あぁ、ちょっと昔に彼女を助けたことがあってな……その時、ユーリと少し世話になったことがあるんだ」


「って言っても、一泊だけ家に泊めてあげただけですよ」


 優しげな笑みを浮かべたまま、ルルゥはマヤへと説明する。

 するとマヤは『泊めてあげた』の部分に反応し、突如目を輝かせてルルゥの手をとって詰め寄った。


「こんにちは、はじめましてルルゥさん! アタシはマヤ。こちらのあなたを助けたらしいローズと共に旅をしている者です。以後、宜しくお願いいたしますね!」


「あ……は、はい。宜しく、マヤさん」


 いきなり詰め寄られて、ルルゥは戸惑いがちにコクリと頷く。

 マヤはさらに飛び切りの笑顔を浮かべ、「ところでルルゥさん、いきなり不躾なことをお願いしてもよろしいでしょうか?」と、そう言って少々困惑気味なルルゥの手をさらに強く握った。


「え、えっと……?」


「おい、マヤ……」


 なんとなく彼女の考えていることを察したローズが、些かマヤの気迫に圧され気味なルルゥの援護のために口を開きかける。しかしマヤは止まらず、ローズに制止される前に彼女は必死な形相でこうルルゥへ言った。


「今日一日でいいの! お願い、アタシたちを家に泊めてくれないかしら!?」


 頭を下げてそう言うマヤに、ローズはやっぱりと言った表情で軽く溜息をつく。確かに今自分たちが今晩の寝場所に困っていることは事実だが、しかしいくら知り合いだからといっていきなりそのような頼みをされても普通は困るだろう。


「マヤ、さすがにそれは……」


 ローズが呆れ気味に彼女を止めようと口を開きかける。すると彼の制止の声は、またも途中で止められた。


「えぇ、かまわないですよ? 家でよかったら、お泊めいたします」


「なっ……」


「本当ですか、ルルゥさん!」


 驚きの表情を浮かべるローズと、嬉しそうに目を輝かせるマヤを楽しげに見つめ、ルルゥは再度「えぇ」と言って頷いた。


「マジでいいんすか、ルルゥさん。俺ら4人もいるんすよ?」


「ふふ。二人は知ってると思うけど、旦那が亡くなってから広い家で一人暮らししてたの。さすがに最近はちょっと寂しかったから、大人数で夜を越せるなんてむしろ嬉しいくらいよ」


 ルルゥがそう言って本当に嬉しそうに微笑みを浮かべると、ユーリもつられたように笑みを浮かべて「そうっすか」と頭を掻く。この言葉を聞いてローズも「じゃあ、ご厚意に甘えさせていただきます」と、そう言ってルルゥに軽く頭を下げた。ルルゥも彼へと軽く会釈を返す。

 そして彼女は先程から全く会話に入らず、一人ぼーっと空を見上げてるアーリィへと視線を向けた。


「えっと、それでそちらのかたは……?」


「あぁ、この子はアーリィ。最近はいつもこんな感じでどこかにトリップしちゃってることが多いけど、呼べばちゃんと返事するし生きてるから安心してください」


 マヤは笑顔でそう説明すると、「ね、アーリィ」と言って振り返る。


「はい、なんですか?」


 アーリィはマヤの声に即座に反応し、顔をこちらへと戻して首を傾げた。


「あら、ホント。よろしくね、アーリィさん」


「……よろしく」


 ルルゥが小首を傾げてにっこりと挨拶をする。

 アーリィも興味なさそうだったが、一応小さく頭を下げて挨拶を返した。

 するとルルゥは小首を傾げたまま、じっとアーリィを見つめる。


「……なんだかアーリィさんとは初対面のはずなのに、どこかでお会いしたことがあるような気が……」


 そのルルゥの一言をマヤが「気のせいですよ、絶対」と、有無を言わさぬ気迫と笑みで即座に切り捨てる。マヤのそのどこか威圧感ある笑みに圧倒され、ルルゥは「そ、そうかな? そうね、そうかも……」と言い、なんとなく納得させられたようだった。それを見ていたローズとユーリは互いに顔を見合わせ、無言で頷き合う。二人が互いに思ったことは同じ、マヤは最強だということを二人は改めて認識しあった。


「それじゃあの、私もいきなりだけど皆さんに頼み事いいかしら?」


「え?」


 話がまとまると同時に、突然ルルゥは悪戯っぽい笑みを4人へと向けてそんなことを言う。

 すると彼女のその言葉にマヤは驚いたように目を丸くし、ローズとユーリは再び顔を見合わせる。アーリィだけは相変わらず一人会話に参加せず、ぼーっとどこか遠くを見つめていた。

 そんな四人のそれぞれの反応を楽しそうに眺めながら、ルルゥはひらひらと手を振りこう言った。


「今晩のお夕食張り切って作るから、買い物手伝ってくださる?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ