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神化論  作者: ユズリ
境界線の向こう側
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赦さぬ悪夢、鎮魂の歌 2

「大丈夫か、アーリィちゃん……あんなんで」


「大丈夫もなにも……明らかに駄目でしょ」


 疲れたようにそう返し、マヤは目を開ける。


「でも、アタシたちにはなにも出来ないから……あとはアーリィ自身が整理しなきゃいけないことよ。忘れちゃうのが1番楽なんだろうけど……」


「……」


 ジェクトの死はローズやマヤ、そしてユーリの心にも小さくはない衝撃を与えたのだ。だから尚更少年と1番時間を多く過ごし、そして普段は人に無関心だが少年には何故か親しく接していたアーリィが受けた衝撃は、計り知れないものだったのだろう。


「……少し、人と関わり過ぎたかしら」


「ん?」


「あぁ、なんでもないわ。……独り言よ」


 不思議そうに自分を見下ろすユーリに、マヤは唇だけを歪めた笑みを向けた。

 ユーリが微妙に腑に落ちない表情をすると、すぐにマヤが「ちょっとアタシ、アーリィ連れてくるわ」と言って駆け出してしまったため、彼女が不意に呟き漏らした言葉の真意を問うことは叶わなかった。


「……」


「ん? ユーリ、マヤとアーリィはどうした?」


「んぁ?」


 背後からマヤと入れ代わるような形で、受付を終えたらしいローズがこちらへと戻ってきた。

 ローズは歩きつつ、ユーリへと声をかける。ユーリはすぐに「あっち」と、先程と同じ木陰の方向を指差して答えた。


「ところでどーだった。オッケー出たか?」


「ん、あぁ……それが少し困ったことになってな……」


 言葉を濁すローズの様子に、ユーリは「やっぱりなんかトラブってんのか?」と続けざまに問い掛ける。ローズは「あぁ」と軽く頷きながら、困った様子でこう彼に返事を返した。


「とりあえず村には入れるから、話は中に入ってしよう。マヤとアーリィにも事情を説明しなくてはいけないしな……」


 ローズのその返事にユーリは困惑した顔をするも、しかし今は彼の言うとおりマヤたちを探して村の中へ入ることにした。




 ◇◆◇◆◇◆




「えーと、それじゃなに? またしばらくこの村で足止め?」


 小さな村だというのに旅人や商人で溢れかえった村内の道を歩きつつ、マヤが些かうんざりとした様子でそう言い、ローズを見遣る。

 マヤの言葉に隣を歩くローズは、苦い顔をしながら肯定の意で頷き「どれくらいかはっきりとはわからないらしいが、一日二日くらいは……と門番は言っていたな。まぁ急いではいるらしいが」と、そう言って軽く溜息をつく。その彼の言葉に「えー」とマヤはあからさまに嫌そうな顔をし、ユーリもさすがにこんな辺鄙な村で足止めをくらうことは勘弁らしく、マヤと似たような表情で首を横に振っていた。


 突然『村でしばらく足止め』とローズは説明を受けて戻って来たのだが、その足止めの理由は些か運が悪かったとしか言えないものだった。

 ローズの口からマヤたちが聞いた話はこうだ。

 なんでも今カペラ平原へと向かう山脈道の一部を、ティレニア帝国に追われているマーダーの一味が破壊して逃げたらしい。その為壊された道の復旧に一、二日かかるというのだ。

 同時にその逃亡したマーダーだちを警戒するため、ティレニア側から入ってくる商人や旅人を皆例外無く一旦この村で足止めているらしい。そして入念に入国審査をしているため、村はアンジェラ・ティレニア双方からの足止めされた入国者でパンク寸前だった。


「門の外で復旧作業が終わるまで待たせるという訳にもいかないから、一応村には入れてくれたんだが……」


「この様子じゃ、宿なんてもういっぱいよねぇ……」


「えぇっ!? もしかして、目の前にフワフワのベッドがありながら、最悪野宿……?」


 げんなりとした表情で恐る恐る問うユーリにローズは重々しく頷き、マヤも「かもね」と投げやりな口調で答えた。

 そして3人はそれぞれ溜息をつく。その時マヤが何か違和感を感じて、慌てて辺りを見渡した。


「……ねぇ、アーリィは?」


「お、そういや……いない?」


 ユーリも辺りを見渡し、彼らしき人物の姿が見えないことに気付く。

 ローズは再度溜息をつきつつ、「きっとその辺を歩いているんだろう。探すぞ」と言って素早く踵を返す。マヤとユーリも同様に溢れる人込みを掻き分け、一人はぐれたアーリィの捜索を開始した。




 その頃のアーリィは、ローズたちとはぐれたことにも気付かず、おぼつかない足取りで人の流れに身を任せたまま、ひたすら足だけを動かしていた。


「……」


 歩きながら、ふとアーリィは青い空をなんとなく見上げる。直後に初めてアーリィはハッとしたように目を見開き、「あれ? マスター……?」と、きょろきょろと辺りを見渡して立ち止まった。同時に商人らしき男の肩がぶつかる。

 男が怪訝そうな顔をするも構わず、アーリィは人波に逆らうように立ち尽くした。そしていつの間にはぐれたのかと首を傾げるも、いくら考えても全く覚えていない。

 確かローズに先導されて村の中へ入り、そしてあまりの人の多さに少なからず驚き、そしてローズがなにやら説明を始めて……


「……ま、いいか」


 思考の途中でなんだかどうでもよくなり、アーリィは再度歩みを再開させる。

 とりあえず人の波を抜け、彼はすぐ近くの民家の軒先で一旦足を止めた。

 ここで待っていればいずれマヤが探しに来てくれるだろうと冷静に考えたアーリィは、そのまま民家の土壁へと背を預けて再び空を眺めだす。突き抜けるような青い空は、いつもと変わらず世界を静かに見下ろしていた。


 しばらくアーリィは、ただただぼんやりと行き交う人々の喧騒の音を聞きながら空を仰いでいた。



「あーぁ、タイミング悪い時に来ちゃったね。こんなな~んにも無い村で足止めか」


「そう言うなよ、レイチェル。これで少しは休める……と思ったけど、宿屋は何処もいっぱいか。はぁ……」



「……?」


 ただの雑音でしかなかった人々の会話の声、その中で不意にアーリィの意識を奪う男と少年の声があった。

 何と無く耳に入った二人の人物の会話の声に、アーリィは天を仰ぐのを止めて視線を前方へと向けた。

 見るとアーリィの目の前二メートル程の距離に、背の高い男と小柄な少年がなにやら立ち止まって話し合っている。その側を通る人々は、人波のど真ん中で堂々と立ち止まる彼ら二人を邪魔そうに見るも、二人は全く気にした様子もない。二人は何かを探すように周囲を見渡しながら、道の真ん中で首を動かしていた。

 とくにやることも無いアーリィは、ぼんやりとした瞳で何と無く二人を観察する。


「んー、宿は……やっぱりあの二軒だけ? ホントにもうないの?」


「きっとね。どうする? 宿は満室、休もうにもこれじゃそこらで野宿だよ」


 お揃いのような黒い長外套を着た少年と男は、ある意味物凄く目立っていた。


(変な奴ら……)


 なにかを探すのを諦めて相談という名の立ち話をし始めた赤毛の男と、それと黒い長外套のフードを深々と被った少年。やがてアーリィはすぐに二人への興味を無くし、再度空の青へと視線を戻した。



「しょうがない……一度馬車へ戻るか」


「うん、いいよ。仕方ないもんね」


「はあぁ~……狭~ぁい馬車の硬~ぁいシートで雑魚寝。……考えただけで鬱になりそー」


「……いっつも研究室の硬いソファーで寝てるくせに」


 そう言って去り行く少年と男の声は、もうすでにアーリィの耳には届いていなかった。




「あ、アーリィ! もう、探したわよ?」


「あ、マスター」


 数分程民家の軒先で立たずんでいると、突如前方から安堵交じりのマヤの声がする。アーリィは素直に「すいません」と謝り、人波を掻き分けてこちらへ向かってくるマヤに小走りで駆け寄った。


「駄目よアーリィ、勝手にフラッとどっか行っちゃあ。心配したんだから」


「はい……ごめんなさい、マスター」


 マヤに咎められて、途端にアーリィはシュンと肩を落とす。そんな彼の様子を見て、慌ててマヤは「まぁ、見つかったからよかったけどさ!」と言って、フォローするようにアーリィへと微笑みかけた。


「マヤ! ……アーリィ、ここにいたか。よかった」


「おぉ? ホ~ントだ、アーリィちゃん見つかったのか」


 よく知った声にアーリィが顔を上げ、マヤが背後を振り返る。見るとローズとユーリがこちらの姿を確認しながら、一緒になって駆けてくる所だった。

 ついでにどさくさに紛れて両手を広げ、「よかったアーリィちゃん」と言いながらアーリィへと近づくユーリ。すぐさまアーリィは殺意の篭った瞳で彼を睨み付けながら、「寄るな変態」と吐き捨てる。そしてロッドの先端でユーリを容赦無く小突きまくった。

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