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神化論  作者: ユズリ
終末世界
503/528

贖いの聖戦 10

「ユトナ、トウコはあの日俺に頼んだんだ」


 自分はこのままだと彼女との約束を破ってしまうことになる。でも、そうだとしてももう真実を隠し続けることは無理だった。ユトナがトウコの死の理由を全て覚悟の上で受け止めると言い、自分は彼のその覚悟を確かに聞いてしまったから。


「……彼女は俺に……自分を殺してほしい、と……」


 自分だって、もう限界だったんだ。辛くて、苦しくて……やっぱり自分一人では、その真実は重すぎて背負いつづけるのは限界だった。


 ユトナが本当に心からそれを知りたいと望み、それがどんな残酷なものでも覚悟し受け止めるというのならば。


「そうだよ、ユトナ。トウコは、あいつらに……ヴァイゼスの奴らに……彼女は……」



 それは約束を破ることじゃなくて。

 逃げでも無く、これは前へ進む一歩なんだと思いたい。





 ◆◇◆◇◆◇





 神を断罪する罪深い武器に浸蝕されながら、彼らは望むことの為にその武器を振るう。

 ささやかな楽園を求める為、あるいは赦すことの出来ない感情のままに、彼らは神を屠る凶器をウィッチへ向けた。



「あはははははっ! 必死だね! そこまでして君達はこのクズ同然の世界の修正を望むの?!」


 叫びながら、ウィッチは純白の羽根を周囲に激しく撒き散らせ上昇する。彼は背後に纏った巨大な二つの円形魔法陣から、青と赤の二色の光を直線に放つ。放たれた二色の光のレーザーは、ウィッチを追い掛けて床を蹴り勢いよく飛翔したエレスティンに襲い掛かった。


「エレっ!」


 ジューザスが叫ぶも、ウィッチを挟んで彼女の反対側にいた彼に、彼女を庇う余裕は無い。そしてそれは、部屋の中を縦横無尽に伸びる黒い茨を利用し、ウィッチよりも尚高い部屋の天井近くにいたマギも同様だった。

 真っすぐ直線にだけ進む光は圧倒的に速く、エレスティンの常人離れした動態視力や反射神経でも、それを回避することは不可能だった。それどころか何も反応出来ず、勿論防御も出来ない。そして光はエレスティンを無情に貫く。そう、見えた。しかしエレスティンが光を受けるその瞬間、彼女を守るように彼女の体が何か見えない力に包まれる。見えぬ力はウィッチの攻撃からエレスティンを守り、ウィッチが放った光はエレスティンを守る力に当たると拡散し様々な方向へと流れた。


 エレスティン自身、自分の身に一体何が起きたのかわからなかった。諦めを覚える余裕も無い攻撃だったので、彼女が理解したのは助かった直後に『まだ自分は生きている』ということだけだった。そして彼女は耳元で何かが砕ける小さな音を聞き、エレスティンはその音でやがて思い出す。


『私はこの地に残るけれども……離れても、これがあなたを守ってくれますように』


 耳元で砕けたのは、ウネから別れの際に貰い受けた彼女のイヤリングだった。お守りにと受け取ったイヤリングが、またもエレスティンを死の危険から救ったのだ。


(ウネ……ありがとう)


 イヤリングの加護に救われたのは二度目だ。エレスティンはイヤリングの加護をチャンスにしようと、怯まずウィッチへと向かった。


「あああぁぁっ!」


 叫び、向かい来る光に抗って進んだエレスティンは、闘気を纏った拳をウィッチへ放つ。

 直撃したはずの攻撃の中からエレスティンが飛び出して自分へと向かってきたことにウィッチは驚き、その油断の隙を逃す事なくエレスティンの拳はウィッチを捕らえた。


「ああっ!」


 短い悲鳴を上げ、重い一撃を腹部に受けたウィッチは、また羽根を周囲に散らしながら体勢を崩して下へと落ちる。


「くっ……!」


 ウィッチはなんとか倒れる事だけは回避し、両足で瓦礫散らばる床の上へと立つ。だが死闘の場に休みなど無く、エレスティンによって落とされたウィッチへと直後に、メルキオールに体を浸蝕されたジューザスの攻撃が襲い掛かる。下から掬い上げるように振るったメルキオールから衝撃波が放たれ、ウィッチは短く唱えた呪文から防御陣を瞬時に自分の前に展開させてその攻撃を防いだ。たがジューザスもその程度の攻撃でウィッチを仕留めることは勿論、ダメージを与えることが出来るとは考えていない。彼はウィッチへと近付く隙が欲しかっただけだ。

 ジューザスはウィッチが衝撃波を防御する間に疾駆し、彼へと急接近した。


 そのジューザスを援護するように、同じく命を糧として更なる力を武器から受けたマギが、それぞれの手に一本ずつとなった大鎌のカスパールを薙ぎ払うように振るい、ジューザス同様の衝撃波を無数ウィッチへ向けて飛ばす。


「チッ……」


 ウィッチは小さく舌打ちし、上から攻めてくるカスパールの攻撃を、ジューザスの攻撃を防いだ防御の魔法陣をそのまま利用し防ぐ。

 強力な攻撃が雨のように降り注いだが、ウィッチはそれを防御しきった。だが彼への接近を試みていたジューザスがマギの援護もあり、ついにウィッチを自分の射程に捉らえる。


「はあああぁっ!」


 力強い叫びと地響きが二重の音となる。ウィッチとジューザスたちの激しい戦いで、旧時代のロストテクノロジーによって造られた頑丈な塔は一部崩壊を始めていた。それでも彼らの戦いは止まない。

 ジューザスがメルキオールを突き出す。その狙いは、ウィッチの心臓。だが一部塔の崩壊による振動で足場が揺れ、彼の狙いは外ずれて聖女となったウィッチの右の脇の辺りを傷付ける。ウィッチの顔が一瞬苦痛に歪んだが、彼は大剣を振るって反撃を行った。


『EEeeeeree...』


 ウィッチの唇が小さく動き、何かを呟く。古代呪語だろう。そしてジューザスを狙ったウィッチの反撃を、ジューザス同様にウィッチと距離を詰めたエレスティンが、バルタザールを纏った拳で弾き返して彼を守る。


『AAaaateAAAAa...』


 呪歌を歌うように呪文を唱え、ウィッチは自分を間合いに捉らえるジューザスたちの攻撃を剣で応戦、あるいは回避し自身を守る。

 雷のようなエレスティンの拳の一撃を、ウィッチは素早く後退することで回避すると、ウィッチの代わりに彼女の拳を受けた塔の床が穴を開けてまた瓦礫を下へと落とした。


「もぉ……しつこいなぁっ!」


 接近を続けられると呪文の詠唱を邪魔されやすく、彼といえど魔法発動が容易ではなくなるからか、ウィッチは苛立った様子でそう叫び、唱えていた呪歌のような呪文を魔法に変える。彼の足元にまた巨大な魔法陣が輝き、ウィッチを取り囲んでいたジューザスやエレスティンは危機回避の本能で魔法陣の範囲外へと逃れようと動いた。

 青白く輝く小さな円と三角形を組み合わせた魔法陣は、ウィッチを取り囲むように高く伸びる氷柱をそこから生み出す。天井高い塔の最上階の間に、巨大な高さの聳える氷の柱が出現し、ウィッチの姿は氷の柱の向こう側となった。それはまるで、かつての彼が封印されていた時のような光景。しかしその時とは違い、今氷の向こう側に見えるウィッチは、アリアの姿で不気味に笑っていた。


「!? また来るっ……!」


 ウィッチが紡いだ呪文は、彼の周囲に鋭利に尖る氷柱を発生させるだけではなかった。直ぐに次の魔法陣がまた、今度は氷柱の周囲にウィッチの攻撃の予感として無数輝きだす。氷柱の周囲に輝いた魔法陣からは、通常の炎では無い青白い色の炎が勢いよく吐き出された。


 ジューザスたちがいる下が煉獄の炎に包まれている中で、上手く茨の上に立ち天井付近で待機していたマギは、カスパールを元の一本の形へと戻し、その禍々しく巨大な鎌の刃でウィッチが立て篭もる氷柱を狙う。彼は茨の足場から飛び降り、振り下ろしたその神殺しの刃で、氷柱を上から下へと一直線に切った。


「ぉぉおおおおおおっ!」


 カスパールがウィッチの作り出した魔術を切り、マギが床へ足をつくと同時に真っ二つに切られた氷柱の一本が音を立てて倒れる。違う、崩れた。マナの結合が溶けたそれは、割れた硝子のように砕けた。そして光が弾ける。


「……チッ」


 マギが氷柱を切り床に足をつけた時、氷柱に囲まれる形でそこに守られていたウィッチの姿は無かった。


「いない……空間転移……?」


 マギの着地点の側にジューザスが立っており、そう小さく呟く。彼は襲い掛かってきた青白い炎をやり過ごして、マギが作ったチャンスに再びウィッチへ近付こうとしていたようだ。だがマギが壊した氷柱の向こう側に、いるはずだと思っていた彼がいないことをマギの側で確認し、ジューザスはそれが意味する可能性を呟いたのだった。

 しかし空間転移の魔術は、高い集中力を必要とする術だ。ウィッチがそれを使ったとしても、今の短時間ではそう遠くには移動出来ないはず。移動が出来たとしてもその移動先はこの塔内か、その周辺がせいぜいだろう。

 ジューザスがそれを考え、消えたウィッチを捜して周囲を見渡した時だった。


「ジューザスっ!」


 マギの鋭い叫びが聞こえ、ジューザスはそれに反応し目を見開く。彼がその瞬間に気づけたのは、自分の背後から強い光が突如生まれたことだけだ。そして逃げることより先に、彼は確認という行動を取ってしまう。背後を振り返ろうとしたジューザスだったが、それと同時に彼の視界がぶれた。


「!?」


 衝撃。

 ジューザスは倒れ込み、氷の残骸の上に倒れ込む。メルキオールとカスパールが、瓦礫にぶつかりながら床に落ちる。全てがスローモーションとなって、ジューザスのオッドアイへ映像として映った。


「マ、ギ……?」


 ジューザスを瓦礫と砕けた氷の散らばる床に倒したのは、マギだった。何故か? 彼は庇ったのだ。ジューザスを背後から狙った、神の憎悪から。


「ぐっ……かはっ……!」


 マギの唇から、鮮血が零れる。自分に覆いかぶさるマギの腹や胸を、凍てついた透明な槍が複数貫いて彼を血に染めていた。


「マ……ギ……っ!」


 ジューザスの背後に展開された魔法陣から鋭利な矛の、いや全体が貫く凶器となった氷の槍が生み出され、それが油断していたジューザスを襲おうとしていたのだ。だがそれを、異変に気付いたマギが彼に覆いかぶさり庇うことで防いだ。マギもウィッチの奇襲に気づけたタイミングでは、武器を構える余裕など無く、それしかジューザスを助ける方法が無かったのだろう。

 ジューザスを助けた代わりに、マギはウィッチの攻撃をその身に全て受けた。

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