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神化論  作者: ユズリ
妖精寓話
25/528

幸せの定義 9

「帰したってお前、昨日も魔族に命令とかして……何者だよ」


 魔族すら使い走りする少女。ユーリはイヤな妄想をしてしまう。


「そのうちどっかの国の国王洗脳して、国乗っ取ったりしてコイツ。で、『マヤ様暗黒大帝国』とか頭悪い国作ったりして」


「む、有り得なくはない……な」


 彼の妄想だが完全には否定出来ず、ローズもつい頷いてしまった。


「……あんたら、何ぶつぶつ言ってんの?」


「や、こっちの話だ。気にするな」


 眉をひそめて問い掛けるマヤに、今度はローズが手を振ってそんなことを言った。


「?」


「お、よかった。まだ街を発っていなかった」


 マヤが首を傾げて二人に問い詰めようとした時、どこかで聞いた声と口調が四人へと向けられた。と、いうかそれは今まで話題の中心となっていた人物の声だ。


「あ、あれアホ魔族じゃね?」


「……アホ?」


 町の目抜き通りを、変装のためか白い布をかぶって歩いてくる変質者、もといクロウディアの姿が見える。そんな彼を見て思わず口を滑らしたユーリだったが、すぐに「お前、帰ったんじゃなかったのか?」と疑問を提示して、先程の発言をうやむやにした。

 クロウディアはローズたちへ近づくと、彼らの前で足を止めてユーリの疑問のこう答える。


「あぁ、出発前に主らへ償い変わりの餞別を渡そうと思ってな」


 わざわざ四人にプレゼントをするために白い布で変装までして、彼は朝から街へ再びやって来たらしい。


「……律義な魔族ね。つーか、変」


「あぁ」


「そうだな」


「変人」


「……主ら、そこまで言うか?」


 せっかく会いに来たというのに酷い四人の反応に、クロウディアはがっくり肩を落とした。

 そんな彼に、マヤが一歩前に出て手を伸ばす。


「で、餞別ってなぁに? いいものよこせよコラ、早く」


 キラキラとまばゆい笑顔を浮かべながら彼女はそう遠慮なく言う。ついにマヤは、魔族をカツアゲという事までしてしまった。どんどんと強くなる彼女を見ながら、ユーリとローズは確信する。


「最強だぜ、あの女」


 ユーリの一言に、ローズも黙って頷いた。

 そしてマヤにいいものよこせとむちゃぶりをされたクロウディアは、小さくため息を吐きながらもこう返す。


「ふぅ……まぁよい。これを主らにやろうと思ってな」


 クロウディアはそう言って、おもむろに両の掌を合わせる。そして無造作に合わせた掌を離していくと、小さな青の閃光と共に長い棒状の何かが彼の手から出現した。


「おい、こんな街中で堂々と手品すんなよ」


 突然の魔術っぽい行為に驚いてユーリが呟くと、クロウディアは笑う。


「うむ……だがちょうど人影も見当たらぬしな。それにそう、これは"手品"だからな。"呪術"ではない」


「こいつ、いい根性してるわねー」


「……」


 飄々とするクロウディアに対して、マヤが呆れたように言う。隣でローズが、彼女に何かを言いたそうにして、しかし懸命にも口をつぐんだ。


「で、それなに? もしかしてロッド?」


「ほぅ、さすがだな」


 マヤが目敏く、クロウディアの手に握られている棒を見て問う。

 感心するクロウディアが持つのは、長さが一メートル以上程ある細めの、祭事等に使いそうな杖だった。白基盤の棒の先端には、大きな青紫色の宝珠が飾られている。高く換金出来そうなお宝が好きなユーリの瞳が輝いた。


「うぉー何だその高級そうなモノー!」


「これはロッドと言ってな、呪術を使う時にマナと魔力をより制御しやすくする呪術補助の道具だ。…そこの人族の娘は呪術に精通しているようだし、詫びとして主にやろう」


「え!? 悪いよー、いいのー?」


 口では「悪いよ」などと言いながら、もう既にマヤはロッドをクロウディアの手から奪っている。


「私が持っていてもあまり使わぬしな…役立ててくれると嬉しい」


「わーい、ありがとね」


 クロウディアの厚意を全く遠慮することなく、マヤはロッドを受け取った。

 しかし彼女はそのロッドを、クロウディアを完全不信者扱いの目で睨んでいたアーリィへ「ハイ」と渡す。


「……?」


 思わずロッドを手に取ったアーリィだが、不思議そうに彼は首を傾げた。そんな彼にマヤはにこりと笑う。


「ほら、アタシはもう剣が武器としてあるから、これはアーリィに譲るわ。あなたが魔術使う時役立てて」


 マヤのその説明に、思わずクロウディアが驚く。


「ほぅ、その人族も呪術が使えるのか?」


「そーよ、すごいでしょ」


「確かにその者からも魔力を感じてはいたが…しかし人族がまだ呪術を使えるとは本当に不思議だな。……何者なのだ?」


「ただの探求者よ」


 感心と疑問を半々に表情に出しながら問うクロウディアに、しかしマヤは愛らしいウインクではぐらかす。アーリィに至っては話すら聞いていない様子だった。彼はクロウディアには興味がないようだが、彼がくれたロッドには興味があるようで、それをまじまじと観察している。ユーリもついでに、一緒になってロッドを珍しそうに眺めていた。


「……俺にはよくわからんが、しかし貴重なものをわざわざ悪いな。じゃあ、俺達はそろそろ出発するか」


 マヤとクロウディアの会話のタイミングを見計らって、今まで傍観していたローズが声をかける。


「うむ。急いでいるようなのに引き止めて悪かったな。道中気をつけてな」


 クロウディアの優しげな笑みに、ローズも小さく笑って返した。


「……じゃあ行くか」


「そうね」


 ローズの出発の合図に、側でマヤが頷いた。

 アーリィは早速ロッドの使い勝手を調べようと、ユーリをロッドで無表情に小突きまくっていた。マヤは彼に「行くよアーリィ」と声をかけて、やがて四人は"パンドラ"を求めてガルガドの街を出発した。

 次の地を目指して。



「……汝らに、世界の祝福があらんことを」


 クロウディアは赤紫色の瞳を細めて、去り行く四人の後ろ姿を見守りながら彼らに祈りの言葉を投げ掛けた。



「……あ、魔族のお兄ちゃんっ!」


「む?」


 自分の後ろから突如、おそらく自分を呼ぶ声がしてクロウディアは振り返る。

 見るとそこには昨日の少年の姿。短い茶色の髪を揺らしながら、こちらへと駆け寄ってくる。

 ローズたちは勿論、この少年にも自分的には完璧な変装(?)がすぐにばれるとは……などとどうでもいいことを思いながら、クロウディアは「どうしたのだ?」と、クゥへと問い掛けた。クゥは少し息を切らしながら、逆に彼へ問う。


「お兄ちゃんたちもう出発しちゃった?」


「あぁ、つい先程な」


「えー、そっか」


 クロウディアが頷くと、がっかりしたようにクゥは溜息をついた。


「何か用でもあったのか?」


「ううん、そうじゃないけど……最後に御礼とか見送りしたかったから」


「そうか」


「それに俺、大きくなったら黒い髪のお兄ちゃんみたいな剣士になりたいと思って、だから少し剣術の話とか聞いてみたかったんだけどな」


 残念そうに呟くクゥ。クロウディアは不思議そうに「ほぅ、何故剣士に?」と、そう言って屈みながらクゥの顔を覗き込む。

 クゥは少し考え込みながら、彼の質問にこう答えた。


「んー……だって黒髪のお姉ちゃんや、魔族のお兄ちゃんみたいな不思議手品は出来ないと思う。けど剣なら俺も頑張れば使えるようになるかな~って思って」


 そしてクゥは笑いながらこうも続けた。


「それでもっと薬剤の知識も学んで、友達の病気を治せる薬を作るために、危険な所でも薬草を取り行けるようになりたいんだ」


「……そうか」


 少年の語る夢に、クロウディアは柔和な笑みで彼を見つめる。


「だから、強くなりたいんだ」


「その気持ちを忘れなければ、大丈夫であろう。お前は強くなれる」


 クロウディアは優しくそう言うと、クゥの頭を撫でた。

 クゥは少し驚き、そして照れたように赤くなりながら「うん」と元気よく頷く。そうして全てがふっきれたような、心地よい程爽快な笑顔と共に彼は言った。


「その時は、今度こそ四つ葉のシャムロックを見つけるんだ!」




 ◆◇◆◇◆◇




「結局パンドラについては、何の収穫も無しだったな……てか次どこ行くんだぁ?」


 街を出て数分たった頃、街道を歩きながら地図を広げたユーリが問う。


「そう簡単に見つかる訳もない。だが、もう少しこの国を調べてみたいな……」


 ユーリの隣で地図を覗き込みながら、ローズが彼の問いに答えるようにそう呟いた。

 すると二人の前方をのんびりと歩きながら、マヤは振り返って意見する。


「ならさぁ、王都行ってみない? たしか北に少し行けば、アンジェラの王都じゃない? やっぱり大きな都に行きたいなぁー」


「王都、是非行きたいです」


 マヤの少しだけ後ろを歩いていたアーリィが、貰ったばかりのロッドを握りしめてマヤに即同意する。

 アーリィに「だよねぇ」と頷いた後、マヤは期待を込めた眼差しでローズを見て言った。


「どうする? 王都行っちゃう?」


 彼女の期待に満ちた問いにローズは「うーん」と数秒悩みつつ、結局「そうだな。大きな都は情報も集まりやすいしな」と、ユーリの持つ地図を確認して頷く。


「よし、じゃあ王都へ向かうか」


「りょーかーい!」


「オッケー」


 ローズの掛け声に、それぞれが了解の意を示す。アーリィだけ相変わらず知らん顔でロッドを振り回していたが、しかしマヤが行くと言えば彼も行くということだろう。


「んじゃ張り切って次の目的地へレッツゴー! 次は王都よ!」


 右手の拳を振り上げて元気よく宣言するマヤの声が、白く長い街道に響き渡った。




 ◆◇◆◇◆◇




 闇。そして無音。

 何も無い、ここは虚無の空間。


 リ・ディールという人の世に在りながら、人が誰一人としてたどり着くことのない世界の深遠。ここはそういう場所だった。



「……ご報告に参りました」


 闇に似合わぬ甘美な声音が、突如その空間に響いた。同時に一筋の光が発生する。

 闇に幾つもの光の泡が、急激に発生しては弾けていく。弾けた泡の光は、だんだんと何かの形を成し始めた。それはやがてはっきりとした輪郭を描き、人を形作る。


 光に照らされて闇に浮かび上がる、目立つ桃色の髪と色違いの青の双眸。

 ミレイは無表情に、光が完全に人の形となるのを待った。


「久しぶりだね、ミレイ」


「そう……でしょうか」


 淡い、しかし闇の中では何よりも目立つ光が、完全に人の形と成る。

 ミレイの前には濃い金色の髪をした、中性的な容姿をした少年が優しく微笑んでいた。

 色は白く、細身で華奢な少年だ。

 しかし、闇に実体無く漂う彼から発せられる威圧感は凄まじい。

 まるで世界に君臨する、王者のような雰囲気を持つ少年。

 彼はミレイをその異質な橙の瞳で見つめる。微笑んでいるが、熱のない笑みを浮かべて。


「報告って何だい?」


「はい……あちらの"アンゲリクス"を目撃致しました。そろそろあれが動き出しているかと」


「へぇ、そうか。じゃあそろそろ焦らなきゃいけないなぁ」


 ミレイの言葉に、少年はクスクスと笑って言う。だがやはりそれは何処か不自然な笑みと笑い声。ミレイは気にすることなく続けた。


「"ヴァイゼス"を本格的に動かす時期かと思います」


 少年は目を細めて、唇を歪める。赤い唇を舌先で舐めて彼は言った。


「そうだね。彼女に邪魔される前にやらなきゃな」


 ミレイは黙って小さく頷く。


「時間的にも、そろそろ彼女が動き出す頃だと思ったしね」


「……そうですね」


「じゃあミレイ……計画がスムーズにいくように、君にある程度任せるよ」


 少年の瞳が鋭く光る。

 心無い冷酷な瞳をミレイに向けて、少年はミレイへと一言命令を下した。


「行け、ミレイ」


 ミレイはまるで君主へ忠誠を示すように、片膝を付いて深く頭を垂れる。

 人形のように表情のないミレイの顔に、ほんの僅かな微笑が刻まれた。


「……仰せのままに、我が主」


「楽しみだな。早く君に会いたいよ」


 頭を下げるミレイを冷たい笑みのまま見下ろしながら、少年は独り言のように呟く。


「会って、君という存在を今度こそ消してあげよう。……マヤ」



 ――永遠の死を、君に。


【幸せの定義・了】

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