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神化論  作者: ユズリ
妖精寓話
17/528

幸せの定義 1

 かみさま、いるのならどうかおしえてください。


 どうしてひとは、みなびょうどうではないのですか?


 どうしてせんそうや、あらそいがおきるのですか?


 どうしてひとは、ひとをころすのですか?


 どうしてわたしは……


 わたしもせかいも、こんなにもやんでいるのですか?




 かみさま、おしえてください。


 それとも、



 あなたはいないのですか?



 ◇◆◇◆◇◆



 あぁ、神様。


 そんなもん一切俺は信じてねぇけど、けどもしもいるなら教えてくれ。

 どうして俺は今……


 こんな凶暴凶悪女と一緒なんだ?




「おい、こら、ユーリてめぇしゃきしゃき歩けっ!」


 前方から響くマヤの怒声。先程ローズ達と別れ、その直前にアーリィからド痛いパンチをもらったユーリの足取りはかわいそうなくらいにふらふらだった。


「……トロいっ! 遅いっ!」


 そんな精神的に重傷なユーリに、マヤは少し前方を歩きながら振り返って文句を続ける。さすがのユーリも数々の罵声に「うるせぇなー。こっちは心の傷がまだ癒えないのー」と、まるで失恋でもしたかのように言い返す。ついでにマヤを恨めしそうに見た。

 すると「はぁ?」と思い切り呆れたような声を上げ、マヤは少し歩く速度を落とした。

 すっかり元気のなくなったユーリの顔を覗き込んで、何か思い付いたようにマヤはニヤリと笑う。


「ねぇー……アーリィがいつもアンタに言うアレってさぁ……」


「アレ?」


 からかいの色が明らかに混じっているマヤの声に、しかしげっそりとしたユーリは顔を上げた。

 

「『消えろ』とか、アレよ。……アレって実はアーリィなりの愛情表現とか言ったら……元気出るぅ?」


「なにっ!? マジか!」


 マヤの一言にユーリはパッと瞳を輝かせる。さっきまでの元気の無さは何だったんだ? というくらい、夢とか希望とかそこら辺の言葉に満ち溢れた顔で彼はマヤを見た。そんな無邪気な子犬のように喜ぶユーリに、マヤは聖母のごとくにっこりと微笑みを返す。


「んなわけねぇだろ、このボケ」


 汚れのない笑みのまま、マヤは容赦なくユーリを地獄へ突き落とした。

 死人のような顔で、さらにユーリはがくりと肩を落とした。完全に首は真下を向き、何か透明な液体がユーリの顔から地面へ落ちていく。可哀相過ぎた。

 しかし微塵も悪いと思っていないマヤは、再び歩幅を広げて歩き出す。だが直ぐに彼女の歩みは止まった。


「……あ、敵」


 マヤの持つ明かりに反射して、前方の暗闇の中に対に光る何かの瞳が見えた。


 こちらを睨んでいる、鋭い緑の双眸。

 するとユーリは下を向いたまま、無造作に腰の短剣を引き抜き、躊躇いなく闇に向かってソレをぶん投げた。


『グギァアアアッ!』


「あ……殺っちゃった?」


 未だがっくりと俯いたままのユーリ。

 しかし彼が対象を確認することなく投擲した短剣は、見事に魔物にヒットしたらしい。魔物の低い悲鳴が前方の闇から届いた。

 マヤは足早に魔物の倒れているであろう地点へと近づく。


「あら……」


 そこにはやはりユーリの短剣による一撃で倒れた、外見だけもぐらのような中型の魔物の姿があった。剣柄の明かりでそれを照らしながら「やるじゃんユーリ君! 最速2.56秒くらい?」と、マヤは感心したように言う。

 だが褒められても、ユーリの顔色はまったく晴れない。ちょっと虐め過ぎたか? と、マヤは珍しく反省の色を見せた。

 反省したマヤは魔物の眉間から突き刺さった短剣を引き抜いて、血に汚れたそれをユーリに差し出す。


「ホラ……次もこんな感じで頑張ったら、アンタにアタシの秘蔵『アーリィちゃんラブリィ写真コレクション』……2枚だけなら見せてあげるから」


 左手の指を二本立てながらマヤは微笑む。そんなマヤからユーリは無言で短剣を受け取り、ゆっくりと顔を上げる。そのユーリの表情はまるで、楽園でも見つけたかのように感激と興奮で破顔していた。


「お……ぉ、ぉお……いいのかマヤ……」


「アタシに二言はないのよ」


 男前に腕を組み、マヤはきっぱりと言う。それを聞くなりユーリは、「おおお、やるぜぇー!」と急にやる気を出した。そして迷惑な雄叫びを上げる。


「……ホント、扱い易い男」


 熱く燃えるユーリとは対象的に、冷め切ったマヤが薄く笑いながらボソリと呟く。

 またも元気になったユーリが張り切って、明かりもないのに先へと進み出した。そんな彼の後ろ姿を見ながらマヤは心の中で、「この前のデート代3万ジュレと合わせて、5万ジュレ閲覧料に請求するけどね」と呟いたが、勿論超能力とかないユーリは気付くことはない。彼はご機嫌で突然振り返り「サンキューマヤ!愛してる!」と、気味悪い程の笑顔を向けた。


「あははーうぜぇ」


 マヤも爽やかに笑って、しかし拒絶する。もしこの場に無関係の第三者がいたら「何だこいつらは」と、多分奇特な目を向けていただろう。


「でも勿論アーリィちゃんのほうが数倍愛してるぜ? つーかお前のは嘘な」


「ハイハイー。むしろ本気だったら死にたくなるから。わかってるわよー」


 テンション上がり過ぎなユーリは、それだけ言うと気合い十分に首を前に戻した。

 マヤはやる気が出たなら何でもいいようで、苦笑いしながらも彼を追ってまた歩みを再開した。

 けれども、その苦笑はすぐに消え去る。


「……愛してる、か」


 唐突に呟かれた言葉。

 すでに2mほどマヤの先を歩くユーリに、その小さな呟きは届かない。マヤは何処か遠くを見るように、ユーリの後ろ姿を見つめた。それはいつもの明快で元気な少女ではない。


「でも、アーリィにはそんな感情」


 虚無の瞳を持つ彼女は、まるで別人だった。


「わからないわ」


 感情の一切消えた声が、誰にも届くことなく闇に溶けた。




 ◇◆◇◆◇◆




『FoRtunEhApPYLoVERHearT.』


「……!?」


 何の前触れもなく詠唱される呪文。アーリィの前方を歩いていたローズは、驚いて後ろを振り返る。同時に、先程も一度目にした柔らかな白の発光が見えた。その光りがアーリィの指先から、自分の中に吸い込まれていく。ローズはその消えゆく光と、無表情に指先をかかげて呪文を唱えたアーリィを交互に見遣った。


「ん……な、なんだ?」


 呪文の発音からしてマヤたちと別れる時に、アーリィが彼女へと施した"おまじない"と同じということがローズにもわかった。それにこの"おまじない"は、実はかつてマヤからも施された記憶がある。

 一体どんな効果があるのかはっきりしないのだが、マヤが言うには"いいこと"があるらしい。

 それを何故、今自分に? と、ローズは不思議そうにアーリィを見た。するとアーリィは相変わらず、人生とかに興味なさそうな顔でローズを見返す。

 そんな様子のまま、彼はどこかぶっきらぼうにローズへと告げた。


「……マスターに命令された以上、お前のことは絶対に守ってやる」


「え……あ、あぁ」


 見た目絶世の美女顔な青年の口から、とても頼もしい男前な言葉が吐き出される。

 それにどう反応していいのかわからず、ローズは何とも複雑な心境で曖昧に頷いた。先の魔術も、おそらく彼の言う"守る"の形なのだろうか?

 マヤ以外まるで興味もなく、無関心と思っていたアーリィだが、意外な行動にローズは自然と微苦笑を浮かべる。まぁこれもマヤに言われたからこその行動なのだろうが。それでも何となく、ローズは頬が緩むのを感じた。

 アーリィは女顔ではあるが、東方の顔付きで――瞳の色は見たことのない紅だが――黒髪もおそらく、自分と同じ東のシュンメイ大陸の血を引いているということなのだろう。

 そのせいだろうか……自分に兄弟はいないローズだが、不思議と彼を弟のようにいつの間にか見ていた。

 いや、弟というよりも何か懐かしい……しかしそれ以上の言葉が思い浮かばず、その感覚の意味をローズはたまに彼を見ては考えるのだった。

 

(……妹、でもないよな……)

 

 そういう意味でもないと自分でわかってはいるが、ついそんなことを考える。

 口に出し途端にローズという人間は、この世から存在抹消確実だろう。ローズは自分のその思考に、思わず微苦笑を深めた。

 そんなローズをアーリィは少し不可解そうな様子で眺めていたが、やがて彼は目をそらして歩き出す。慌ててアーリィを追うローズだが、何故か足早に自分を追い越し彼は先を進む。どんどんとアーリィは階段を下っていった。

 

「おいアーリィ。明かりが無いんだ。そんなに急ぐと危ない」

 

 松明の火を高く掲げながら、ローズが心配そうに声をかける。

 アーリィは構わず歩みを進めたが、しかし僅かにその歩みの速度は緩まる。

 

「……マスターはお前を守れと言った。だから、守る」

 

「?」

 

 前方を向いたままのアーリィの声。その声と共に、そこで彼の歩みは止まった。

 

 

「……けど、気に入らない」

 

 振り向きざま告げられたその言葉に、ローズも思わず立ち止まる。突然の物騒な台詞に、驚いたような顔でローズはアーリィを見つめる。

 やはり感情の色を見せない青年の瞳と、視線が絡んだ。無意識にローズの口からは、短い言葉が漏れる。

 

「……何故」

 

「お前がマスターに気に入られてるから」

 

 間髪入れずに答えられた、予想外の返事。

 


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