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神化論  作者: ユズリ
妖精寓話
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幸せの探し方 4

 魔物とは魔界に住まう種族である。同じ魔界に住まう魔族よりも下級の存在と見られているのだが、このドラゴン系の魔物は魔族もその強力な力から下級などとは思っていない。むしろ何千、何万年と生きた竜は知性を持った魔族よりも賢く偉大な存在とされ、敬意を払われる一方で非常に強力な恐るべき魔物として魔族からも恐れられるほどなのだ。

 そんな厄介な魔物が、いきなり四人を出迎えたのだった。


「大きさからして四、五メートル……これでもまだ小柄なメガドラゴンだな」


 ローズが呟くように、ドラゴンの大きさは同種類でもまちまちだったりする。のでさらに大きさでも区別をしたりするのだ。このニーズヘッグの中にもこのメガドラゴンより大きなギガドラゴン等もいる。メガドラゴンはドラゴンの中では小柄ながら、人間なんて簡単に潰せるパワーと俊敏さを誇る。


「ちょっと厄介かもね。狭いし、暗いし」


「それはあっちも同じ……だといいんだが、どうだろうな」


 マヤの微苦笑混じりの言葉に、ローズが続ける。そして「火系ならば、水が弱点なのだろう?」と、ローズはマヤに確認するように早口に問い掛けた。その質問の意味を察し、マヤが先回りして素早く返答する。


「ええ、水は火に有利。幸運にもうちにはアーリィっていう魔術師、しかも水系のスペシャリストの彼がいるわ。普通に戦ったら苦戦確実の相手だけどぉ……」


「なら、決まりだな」


 ローズがニーズヘッグの瞳を見据えて、頷いた。


「俺達がヤツを引き付けて、アーリィの魔術で仕留めるぞ」


「了解!」


 マヤは強気な笑みで返事し、ユーリは無言で唇の端を歪めて笑う。

 アーリィはいつも通りにローズの言葉など無視したが、続くマヤの早口の指示には機敏に反応する。


「と、いうわけでアーリィ。この洞窟とアタシたち凍らせない程度にまほーぶちかましてっ! 回復やサポートは基本的にアタシがやるから大丈夫よ!」


「はい、マスター。了解しました」


 アーリィがそう返事をしたその時、まるでタイミングを見計らったかのように、ドラゴンは動きを前進するだけのものから明らかな敵意と殺意を込めたものへと変える。


「……くるぞっ!」


『グルアアァァァアッ!』


 ローズの叫びに呼応するかのように、赤色の竜は雄叫びをあげて四人へと迫って来た。

 洞窟内がより一層振動し、天井や側面の岩肌が、脆い部分からパラパラと四人の頭上に落ちてくる。

 慌てる四人だが、それ以上にまるで地震の如く揺れる地面に


「きゃああっ!」


「……ッ!」


 マヤがバランスを崩してよろめき、アーリィに至ってはもう立っていられず、暗闇に膝をついてしまう。そこに狂気する魔物が大きく右足を振り上げて、彼ら目掛けて狂える殺意を振り下ろした。

 ニーズヘッグによる大地の破砕音が重々しく辺りに響く。


「あ……わわわわ……危ないっつのぉ!」


「くっ……大丈夫か!?」


 赤銅色の前足とその下、大きく陥没して隆起した地面。そのほんの4、50cm横で剣を抱えたマヤが尻餅をついて青ざめていた。バランスを崩したため咄嗟に避けられずに、尻餅をつき殆ど奇跡に近い形で圧死を逃れたマヤ。

 彼女の反対側―ニーズヘッグの右足を挟んだ視線の先では、ローズが狭い洞窟内でプレスされないギリギリの距離に飛びのいていた。殆ど側面の岩壁に背を預ける格好となっていたローズは、マヤの無事を確認して静かに安堵の息を漏らす。彼もまた大振動する地面に上手く立っていられず、自分の回避に手いっぱいで彼女まで庇う余裕がなかったのだ。


「……! そうだ、アーリィっ!?」


 素早く自分の左手側へと剣を杖変わりにして飛びのき、体制を立て直しながらマヤが叫ぶ。

 ローズも自分から右側、マヤと同じ方向へと後退しながら残り二人の無事を確認しようと、視線を薄闇にさ迷わせた。

 二人、ユーリとアーリィは位置的には自分たちよりも後ろにいたハズだ。ユーリは素早いからおそらく無事だろうが、しかしアーリィが直前に座り込んでしまっていたことがローズには多少気掛かりだった。


「ユーリ、アーリィ!」


「はぁ~い、俺らはこのとおり無事だぜ!」


 ローズも声をあげると、うっすらと明かりの届く後方まで退避した様子のユーリの声が後ろから聞こえた。何故だかご機嫌なのは、彼の右腕には微妙な表情のアーリィがしっかりと抱えられていたから。

 二人の姿を確認し、マヤとローズはほっと胸を撫で下ろす。しかしマヤは直ぐに顔を上げてユーリを睨みつけた。


「おいコラ、ユーリ! さっさとアーリィ離せっ! 汚れるでしょおっ!」


「なっ……俺が助けたんだぞ!? それなのになにその言い草……いいだろ!」


 こんな時でも言い争いを忘れないマヤとユーリに、ローズは僅かに脱力するのを感じた。普段の自分のマイペースっぷりなど棚において。一方でユーリに助けられたアーリィは、マヤを見て驚いたような表情をした後、ユーリの腕から逃れて一目散に彼女の元へと駆け寄った。


「マスターっ!」


「ぐへっ!」


 因みに謎のユーリの奇声は、アーリィによって駆け出す直前無意味に腹部へと蹴りを入れられた為の悲鳴だ。見事にいい感じのところへヒットしたようだ。


「……こっちだっ!」


 ユーリが無駄にダメージを負っている頃、ローズが大剣を両手でしっかりと握り直して、大声でニーズヘッグを挑発する。ニーズヘッグは再び前足という凶器で、獲物を圧死させようと彼に迫った。

 ローズがとりあえず一人で囮となっている間に、アーリィは名前を呼ばれて不思議そうな顔をしているマヤへと駆け寄って言った。


「マスター! 足、怪我してますっ!」


「へ?」


 心配そうに顔を歪めるアーリィのその指摘に、マヤは視線を自らの足へとやった。


「あ、ホントだ」


 全く本人としての自覚はなかったが、アーリィの言うとおり左足の膝から多少出血している。


「別にこんなのたいしたコト無いわよ、アーリィ」


 全然歩けるので心配はないとマヤは笑う。しかしアーリィはそんなマヤの言葉など気にせず、一番初歩的な治癒呪文を早口に唱えた。


『HeEl.』


 一瞬洞窟内が、強い青の光に照らされる。同時に再び大振動。マヤは自分の傷口が塞がっていくのと、ローズがぺしゃんこにされていないことを素早く確認して言った。


「ありがと、アーリィ」


 腹をしたたかに蹴られて、ユーリはまだ洞窟の後方でしゃがんで悶絶している。早く自分がローズの補助にまわらなきゃ、ちょっと危ないなと、マヤはそう考えて剣を構え直した。そして、自分の命令でしか動かない青年に指示を出そうとして……止まった。


「……アーリィ?」


 アーリィは何故か、物凄い憎悪の瞳をニーズヘッグへと向けていた。

 燃える赤の瞳には、対照的に絶対零度の凍てつくような殺意が浮かぶ。

 イヤな予感がしたマヤは、アーリィの唇から漏れる言葉にイヤな予感が確信に変わるのを感じた。


「マスターにケガさせた……たかがギガドラゴンのクセに生意気っ」


 冷たい冷気が何処からともなく流れてくる。やっと復活したユーリも早速バトルに加わろうとして、流れる不吉な冷気に思わず足を止めてしまった。

 そしてきわめつけの呪いの言葉が、アーリィの唇から囁かれた。


「殺す……けど、楽には死なせない」


 性格ねじ曲がった悪魔の笑みを、口元に浮かべて彼は言った。

 マヤとユーリは無言、無表情で互いに視線を交錯させる。目だけで二人の会話は成立した。今のアーリィはとっても危険、だと。

 

「えーとアーリィ、よく聞いてね! アイツは火属性の魔物だから、ブチギレして大魔術発動させちゃう前にアタシたち全員の火耐性を目一杯上げておいて!」


「………はい、わかりました。その後でじゃあ……リアル地獄をあのトカゲもどきに見せてあげます」


 本気で地獄を見せる決意の瞳にマヤはとりあえず笑って、「じゃあよろしく!」と声をかけるとローズの元へと向かった。

 もうすでにユーリは彼と二人で、ニーズヘッグの巨体へと攻撃を始めていた。



「ぐっ……こりゃまじで硬ぇなっ!」


 ニーズヘッグの左後ろ脚、その付け根へとユーリは銀の刃を旋回させて攻撃するも、やはり魔物の中でも極めて硬度の高い鱗をドラゴン系は持っている。そのために二刀の短い刃は、高音と共に軽々と弾き返された。


「つーか俺って力で攻めんの苦手なんだよー! こんな硬ぇの無理だぜー、ムカツクー!」


「……なら、俺だな」


 ユーリの声に、ニーズヘッグを二人で挟み込むような位置で構えていたローズが返事する。二本の後ろ脚で立ち、見下すようにドラゴンはユーリをその濡れた黒の瞳で見ていた。それが気に喰わず、ユーリが小さく舌打ちする。


「うぁぁあああっ!」


 ドラゴンの背後の位置から、ローズが低い雄叫びを上げながら駆け出し、ドラゴンの尾目掛けて大剣を振り下ろそうと突っ込んだ。

 しかしドラゴンへと突っ込む直前、マヤの怖い怒声が彼の耳に届く。


「待ちなさいローズぅっ! 馬鹿力で洞窟ブッ壊したらただじゃおかないわよー!」


「!?」

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