とびの巣作り
まだ空気の温まりきらぬ早朝のことです、とびの子が巣立ちました。お母さんのもとをはなれて、羽を広げて青い空をまいあがります。
「いってきます、お母さん」
「たっしゃでねー」
お母さんは、家の中からとびが飛んでゆくのを見送りました。
さて、とびはまず、自分の家を作らなければなりません。でないと、今晩ねるところがないからです。とびは、はりきって材料をあつめにかかろうとしました。
「まてよ? おうちって、なにで出来てたんだっけ」
そこへ友達のからすが、ぱたぱたやってきました。
「おうい、とび君おはよう。きみも今日が巣立ちなの」
「おはようからす君。からす君も今日家を出たんだ」
「そうだよ。きみ、おうちの作り方ちゃんと教わって来たかい」
そこでとびは、はたと気がつきました。とびは、おうちの作り方を知りません。たしか、木の枝を組み合わせるんだったような……。
「からす君は家の作り方知ってるの」
「もちろん、パパからしっかり聞いてきたんだ」
「へぇー。ねえ僕にも教えてよ」
知っているのなら、からすから聞けばいいのだと思いました。ですが、からすはいじわるでした。
「だめだよーだ」
「なんでさ、ケチンボ」
「がんばってねー。完成したら見に行くよ」
からすは勝手にそういって、さっさと行ってしまいました。とびの負けん気がむくむくふくらみます。
「ようし、すごい家を作ってからすくんを見かえしてやろう」
とびは大きい家を作ることにしました。そのためには、大きな木の枝が必要です。いや、木の枝よりも大きいものを使うことにします。
場所は沼の近くの桜の木の上に決めました。
「なにでおうちを作ろうかな」
町まで行ってみることにしました。町の上を飛んでいると、子供たちが楽しそうに遊んでいます。
「そうだ、あの子たちから、うでをもらおうっと」
幼稚園のお砂場でままごとをしていた女の子から、うでをとりました。
「あっ、あたしの手、返してよう」
とびは知らん顔して、女の子のうでをくわえて桜の木までもっていきました。一本だけじゃ足りません。町までもどって、ランドセルを背負っている男の子からも一本もらいました。
「僕のうで返せー」
少年はとびを追いかけましたがそのまま持ち帰り、また町にもどります。
おうちの庭で日向ぼっこをしていた女の子の、今度は足をしっけいします。
「あーん、ままー。とんびがわたしのあんよ、もっていっちゃったよ。あーん」
小学校の校庭でドッジボールをしていた子からうでをもらいました。ボールを投げらけましたがなんなくかわします。お母さんにだっこされてお買い物に来ていた赤ちゃんからも、足をもらいます。こどもの体は小さいので、中学生らしい子からもいくつかいただきました。大人からは、捕まるかかもしれないので狙いませんでした。
こうして、大きなおうちを作るのに十分な材料がそろいました。つぎに、それを組み立てなければなりません。
「うーん、どうやってくっつけようかな。そうだ、はりねずみさんのはりをもらおう」
はりねずみは森に住んでいます。とびがはりねずみのおうちを訪ねると、丸々としたおばあちゃんはりねずみが出てきました。とびは新しい家を作るのに、はりねずみさんのはりが欲しいと説明しました。
するとおばあちゃんはりねずみはこういいます。
「とび君のはねをくれたら、ちびはりねずみの皮をあげよう」
はねはたくさんはえています。一本抜くと、おばあちゃんはりねずみに渡しました。
「ふーむ。良いはねだ。ちょっと待っておいで」
はりねずみは家の中にひっこむと、小さいはりねずみをつれてきました。
「こいつのをあげよう」
ちびはりねずみの背中には、細いはりがいっぱいはえていました。それをおばあちゃんはりねずみはふつふつ抜いて、とびにわたすのでした。
「ぼく、大きいおうちを作りたいから、おばあちゃんのも欲しいなあ」
「わたしのがかい。やれやれ、もうとしだからはえてくるのに時間がかかるんだがねえ」
「おばあちゃんのはりをくれたら、かわりにはねを2枚あげるよ」
「しかたないねえ。よいしょっと」
おばあちゃんはりねずみは、とびのはね2枚と交換に自分のはりを抜いてくれました。
「ありがとうおばあちゃん」
「はいよ。また遊びにおいで」
はりのなくなったおばあちゃんはりねずみは、ちびはりねずみと一緒にとびを見送ってくれました。
桜の木の上に着くと、おばあちゃんはりねずみのはりを使ってうでやらあしやらをくっ付けます。うでとうでにはりをさして、動かないように固定しました。
大きなおうちの完成です。
でも、まだ足りません。大きくはなりましたが、すき間があるのでかっこうよくありません。これを見られたら笑われてしまいます。
「うーん、どうやってすき間をふさごうかな。そうだ、お花をつめよう」
とびは、空をとんで花がいっぱい咲いていそうな場所を探しました。原っぱにおりたつと、たんぽぽやシロツメクサのお花畑でした。人が作った花だんにはチューリップが可愛らしく植えてあります。
口にくわえて、足で持って、背中にのっけても運びきれないほど大量にとると、新しい家を目指します。
「よいしょ、よいしょ」
到着して家のすき間をふさぐと、見た目がよくなったばかりか良い香りまでしました。
大きくてすき間のないおうちの完成です。
でも、まだ足りません。とびはもっとふかふかした家の方が好きなのです。まいばん気持ちのいいベッドで寝たいと思いました。
「うーん。そうだ、くまさんから、やわらかい毛をもらおう」
くまは山に住んでいます。くまははちみつが大好物なので、お土産にみつばちの巣を持っていきました。
「こんにちはー、くまさん」
「おやとび君こんにちは」
ホットケーキの良い匂いがしました。お昼ごはんの時間です。
「とび君、それははちみつかい」
「そうだよ、みつばちの巣。くまさんに持ってきたの」
それを聞いて、くまは喜びました。
「わあ、本当? ちょうど切らしちゃってたんだ、助かるよ。きみも食べていくだろう?」
「いいの?」
今日はまだ何も口にしていないことを思い出し、せっかくなのでごちそうになることにします。
「いただきまーす」
「いただきます」
丸いホットケーキは、割ればほくほくとゆげが立ち、おとしたバターが程よくとけて食欲をそそります。とれたてのはちみつをたらせば、甘い香りが辺り一面に広がりました。
おいしい昼食を終えると、くまが口をふきふき開きました。
「ところで、なにか用事があるのかな」
「うん。実は…」
とびは、巣立ちをしたこと。今新しいおうちを作っていること。おうちはできたけど、もっとふかふかさせたいのでくまの毛が欲しいことを話しました。
「なあんだ、そんなことか。いいよいいよ、あげるよ。はちみつのお礼にね」
くまはあっさりと了承してその場でとびの欲しい分だけ皮ごとくれました。
「ありがとうくまさん」
「いやいやこちらこそ、おいしかったよ。またおいで」
「うん。ばいばーい」
くまの毛を手に入れて、その帰り道の事です。木の枝を持ったからすに出くわしました。
「お、とび君じゃないか。どうしたの、どうぶつの毛なんかかかえて」
「これはね、くまさんの毛なんだ。家の材料だよ」
「くまの毛が家の材料だって? そんな家は聞いたことがないな」
からすがとびのことを馬鹿にします。
「きみの家を見せてもらいたいね」
「いいとも。ついてきて」
とびの家は、人の腕を使っていて大きくて頑丈。花の良い香りがして、くまの毛のじゅうたんが、ちびはりねずみの毛で縫いとめられています。近くにきれいな沼がありいい眺めもおがめるので、からすはとても悔しがりました。
「ぼくだってりっぱな家をたてるぞ」
からすが帰り、すっかり日も暮れて、ようやく一日が終わります。
とびは、新しいすてきな自宅で、ゆっくりとはねを休めて眠りにつくのでした。