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その9:それぞれの一対一

ハンターは自慢の二丁拳銃を強く握りながら、次の手を考えていた。銃撃にはもちろん

自信があったが、十分な明かりのない状況ではまともに撃てるとは思えない。

「暗視スコープでも作ってもらっとくんだったな……」

 小声で愚痴を言いつつ、サイクロプスが振りかざしたコブシを落ち着いてかわす。

 地面にあたった鉄拳は、難なく地面の岩をも砕いてしまった。

「シャレになってないな」

 ハンターはサイクロプスの目に向かって交互に三発ずつ、計六発を放った。

 ギョロリとハンターをにらむ一つ目の付近から血が流れ出すも、目には直撃していない。

「ラッキーヒットを狙うか……性にあわないな」

 サイクロプスの目はコブシほどの大きさはあるが、身長の差を考えれば七メートルは離

れている。さらにゆっくりではあるが動いているため、狙撃は非常に困難だ。

「まずは動きを止める――足か!」

 ハンターは弾丸を込めなおすと、全弾をサイクロプスの右足に向けて発射した。目とは

大きさも距離も違う足は、ハンターにとって格好の的となった。

「グギャオオオオ!」

 さすがのサイクロプスも同じ範囲に銃弾を何度も食らえば、大きなダメージとなったよ

うだ。足を抑えながら大きく後ろにのけぞると、尻餅をついてしまった。

 背中を壁にぶつけ、動きの止まったサイクロプスの目を狙おうとしていたハンター。弾

を込めなおしながらふと頭をよぎる。

「目を狙うのは簡単だが、暴れだしたら手がつけられんな……」

 瞬時に作戦変更をしたハンターは、サイクロプスの左側へと回りこむ。

 そしてこめかみめがけて再び全弾発射した。

 動きの止まっていたサイクロプスは避けることもできず、耳のやや上方へ次々と弾丸が

突き刺さっていく。

 しばらくするとプシューと血が噴出し、サイクロプスは動かなくなってしまった。

「まったく、手間と弾丸かけさせやがって……」

 拳銃に弾を込めなおしてから懐へと戻す。ハンターは大きく息を吐いてから戦況を見極

めようと顧みていた。

 

 レッシュはサイクロプスのこぶしをかいくぐり、心臓めがけて銃弾を打ち込んだ。

 わずかに血が流れ出すものの、硬い筋肉に覆われて心臓まで届いていない。

「やっぱり目を狙わないとダメね」

 ため息混じりに吐き捨てると、レッシュはデザートイーグルのマガジンを取り替える。

「こんな距離から目なんて狙えないし。どうしようか……」

 今度は踏みつけようと足を大きくあげたサイクロプスの攻撃を、なんなく交わす。回避

のスピードならレッシュには自信があった。

「しょうがない、やってみるか」

 天井に向かって一度だけ引き金を引き、

「ドキウヂコハ、ハエチルアギィ!」

 サイクロプスが使うといわれているオーガー語でレッシュが叫ぶ。

「ニアヂナ、サハサメギィ!」

サイクロプスは青筋を立てて今までよりも荒れた攻撃を繰り出してきた。レッシュは身

軽にかわしつつ、できるだけサイクロプスの前後へと移動を繰り返す。

「イアチハサエゴクニアト、モンテベットチットキヲソレ!」

 さらにレッシュが叫ぶと灰色だったサイクロプスの肌に赤みが差し、一つしかない目が

血走っていく。さらに攻撃を続けるサイクロプスだったが、なれない連続攻撃に足をすべ

らしてしまった。

 巨体が一度宙に浮き、地面へと落下する。地震と間違えてしまいそうな地響きにふらつ

きながらも、レッシュはサイクロプスの腰に駆け寄った。

 腰みのを利用して倒れたサイクロプスの上へと登攀する。サイクロプスは少しの間目を

回していたが、自分の体の上で動いている違和感にすぐさま反応していた。

 レッシュを捕まえようと、左右の腕で交互に襲い掛かる。レッシュはしゃがんだり、飛

び跳ねたりしながらうまくよけ、少しずつ頭のほうへと移動していく。

 胴体の中ほどまで来ると、サイクロプスは起き上がろうと首を起こしにかかった。それ

を待っていたかのように、レッシュはサイクロプスの一つ目に弾丸を撃ち込む。頭のすぐ

そばまで来ていたレッシュには、難しくはなかった。

「グガゴォ!」

 サイクロプスは再びのけぞり、両手で目を押さえながら暴れだしていた。

「わわっ、暴れるな!」

 グラグラと揺れるサイクロプスの上でバランスを取りながら、レッシュは心臓――先ほど

の一発命中している怪我の跡だ――に銃弾をありったけ撃ち続けた。

 弾がきれると慣れた手つきでマガジンを取替え、また心臓へと撃ち込む。

 数十発の弾丸が心臓へと命中すると、まるで噴水のように血を噴き出し始めた。

「ギャグオオオ!」

 サイクロプスは二度目の悲鳴を上げながら、腕を天井に向けて長々と伸ばす。すぐさま

腕は地面へと戻され、サイクロプスは動かなくなった。ほぼ同時に心臓から出ている噴水

も止まる。

「ふぅ……」

 額にかいた汗をぬぐうと、レッシュはサイクロプスの体から飛び降りた。自分の役目を

果たしたことに、微かな笑みを浮かべながら――。

 

 横目でハンターとレッシュの戦いぶりを見ながら、シェラはバスタードソードを握りな

おした。

歴戦の友も今回ばかりは少し頼りなく感じる。バスタードソードでサイクロプスの目を

狙うのは、拳銃で狙うよりはるかに困難だろう。

 ハンターやレッシュの武器である拳銃は飛び道具であり、地面にいても目を狙うことは

できる。だがシェラのバスタードソードでは、空でも飛ばない限り目を狙うことは難しい。

「思いきって投げてみる? ダメダメ、外したら丸腰になっちゃう!」

 自分のアイデアを即座に否定しつつ、サイクロプスの最初の攻撃をかわす。確かにハン

ターの言うとおり動きは早くなく、落ち着いて行動すれば見切れなくもない。

「ハンターやレッシュが倒して、手伝ってくれるのを待つ?」

 それが一番無難な考えかもしれない。だが、それもすぐさま否定することとなった。

「いや、ハンターは一人一体と言った。まったく役に立ってないんだから、本職の戦闘ぐ

らい自分でがんばらないと!」

 一瞬傾きかけた甘えを振り切り、バスタードソードを手の中で横転させた。

 シェラの二の腕に、ぐっと力がこもる。

 直後サイクロプスは手を組むと、シェラに向かって思い切り叩きつけた。

「うああ!」

 転倒しながらもシェラは、危ういところでサイクロプスの攻撃を避ける。地面に叩きつ

けられた拳により巻き起こった風が、シェラの髪を大きく揺らした。

「このっ!」

 受身を取って起き上がったシェラが、振り向きざまにサイクロプスの腕を切りつけた。

プシュッという音と共に血が一瞬だけ噴き出し、だらだらと腕を伝って地面へと落ちる。

 それでもサイクロプスはまったく動じていない。虫にかまれた程度にしか感じていない

のか、傷口をぼりぼりと掻いているだけだ。

「……まじ?」

 今度は踏みつけようと足をあげるサイクロプス。シェラは動きを落ち着いて見定め、難

なく回避に成功した。

「でも、このままじゃ埒があかないわね」

 サイクロプスの死角に回り込み、考えをめぐらす。いくつか作戦が思い浮かぶも、実現

可能なのは一つだけだった。成功確率も低く、一発勝負で失敗すればサイクロプスに対策

を練られてしまう。

失敗する地点によっても違い、最悪ならばそのままあの世行きになる可能性もある。そ

れでも一番現実的なのだから、シェラは少し泣きたくなった。

 大きく短く息を吐き覚悟を決めると、シェラは再びサイクロプスの視界へと身を投じる。

 サイクロプスは不敵な笑みを浮かべながらシェラを見下ろしていた。大きく右手を上に

上げると、巨大なコブシをシェラへと叩きつけた。

 シェラは落ち着いていた。落下する拳の速度と大きさを見極め、ちょうど真横に拳が落

下するよう少しだけ移動する。

 地面にたどり着いた拳が、地面の岩へとめり込む。

 次の瞬間、シェラはサイクロプスの指と指の間に手をかけ、勢いよく腕を登っていった。

 手首、肘、二の腕を通過し、時折バランスを崩しながらも肩へと到達する。

 サイクロプスが肩まで上ったシェラに反応し、首を回してシェラを追う。それがシェラ

の待ち望んでいた瞬間だった。

「でやあああああああああ!」

 雄たけびと共に飛び上がると、シェラは大きく振りかざしたバスタードソードをサイク

ロプスの目に突き刺した。

「ぎゃごおおお!」

 苦痛に顔をゆがめるサイクロプス。両手で一つ目を覆う直前に、シェラが全体重を下方

へとかけた。

 切れ味鋭いバスタードソードは、そのままサイクロプスののど、胸、腹を切り裂きつつ

シェラと共に下っていく。

 噴き出す血はまるで滝のように流れ落ち、シェラを頭から真っ赤に染めていった。

 胴体を立て一文字に切り裂き、シェラは地面へと無事着地する。

 サイクロプスは背中からその場に倒れ、ピクリとも動かなくなっていた。

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