その8:扉の奥は
部屋は非常に巨大で、たいまつの光ではまったく全体を照らしきれていない。
天井も相当高いらしく、こちらもたいまつの光が届いていなかった。
真っ暗闇の中、ボーっと近辺だけを照らしているたいまつ。その範囲にモンスターの姿
はなかった。
「あらら、これは困ったわね」
「だからランタン買っとけって」
「今度ね。ないものねだりしてもしょうがないんだからさ。あれ使いなよ、発光弾」
「特注で高いんだぞ、あれ」
「報酬入ったら、また作ればいいでしょ」
レッシュにせかされ、しぶしぶハンターは胸ポケットから拳銃の弾を取り出した。
「まったく、ランタンの数十倍の値段だってのに……」
抜いていたパイソンから今まで入っていた弾を取り出し、ポケットから出した弾を入れ
る。それからいろいろな方角に一発ずつ、計六回引き金を引いた。
放たれた弾丸はそれぞれ壁に当たる音と同時に、蛍光色の塗料が一帯に付着する。
六発の弾丸で作られた蛍光塗料のしみは、かつかつ部屋全体を一望できる程度の明かり
を生成していた。
「ハンターって、血糊の弾丸も持ってたよね……」
「役立つときが結構あるからな。目印にもつかえるし」
などと会話しながら、ハンターはパイソンに普通の弾丸を込めていると、
「う、うあああああ!」
突然三人の背後から悲鳴が聞こえてきた。オシェイマスである。
「なんだ、うるさいな!」
耳を押さえながらハンター。オシェイマスはわなわなと、蛍光塗料で照らされた部屋の
奥を指差していた。
「サ、サ、サイクロプスです! 三体の巨人ってサイクロプスですよ!」
「なに!」
慌ててハンターも部屋の奥へと視線を移す。レッシュはすでに気がついていたらしく、
銃身を握る手がわずかに震えているのを、左手で一生懸命おさえていた。
確かに奥のほうで寝ている三体の巨大な物体は、目が一つしかなかった。筋骨隆々で灰
色の巨大な体に、腰みの一枚だけまとっている。手には武器らしいものは持っていないし
見当たらないが、そのパンチだけで十分な殺傷能力をはじき出せるだろう。
さらに間の悪いことに、ハンターの銃声とオシェイマスの悲鳴で三体とも目を覚まそう
としているのだ!
「くっ、いったん引くぞ!」
後ずさりしながらハンター。だが、扉の前ではすでにシェラが四苦八苦していた。
「扉が、扉が開かないの!」
「なんだと!」
その声でわれに返ったレッシュが、扉を簡単にチェックする。直後、思い切り扉を蹴飛
ばしていた。
「ちっ、ワンウェイドアだ!」
「ワンウェイドアって?」
「片方からは簡単に開くが、反対からはまったく開かない扉だ」
「じゃあ、わたしたち閉じ込められたってこと!?」
一同、顔を見合わせてからサイクロプスの編隊へと顔を向ける。
三体のサイクロプスは寝ぼけながらも、少しずつその体を起こしつつあった。
「わ、わたくしはこれにて!」
捨て台詞とともに、オシェイマスは自慢の羽をはばたかせて、飛び上がってしまった。
「ちょっと、なんで逃げるのよ!」
「怪我をしたら言ってください! 回復魔法を使いに向かいますから!」
「あんなのから攻撃食らったら、怪我どうこう以前に死んじゃうわよ!」
シェラの悲痛な叫びに反応することなく、オシェイマスは上空へと消えてしまった。
「ど、どうするのよハンター。あんなやつら相手にできるの?」
おびえきったシェラを前に、ハンターはデザートイーグルの銃身を強く握った。頼りに
なる相棒の存在を確認するかのように。
「一人一体だ。できるな?」
「ちょっと、なに言ってるの! あんなのに勝てるわけないでしょ!」
即刻否定するシェラの横で、レッシュが小さく頷く。
「やるしかないってことですね。隊長」
隊長と呼ばれたハンターは一瞬驚きつつも、自嘲気味に鼻を鳴らす。
「ポイントは三つ。まず巨人はその巨体のため動きが鈍い。うまく攻撃をかいくぐればチ
ャンスがうかがえるはずだ」
レッシュが無言で頷く。シェラは半泣きになりながらも声を上げるのだけは自重しているようだ。
「二つ目は一つ目だ。別にシャレじゃないが」
――だれも笑わなかった。ハンターは一度咳払いしてから、話を続ける。
「サイクロプスの弱点は一つしかない目だ。目を失えばサイクロプスはまともに行動でき
はしない。まず目を奪うことを考えろ」
今度は同時に二人が頷く。
「最後のポイントは、三人そろってマスカーレイドに帰ること。以上だ」
すでにサイクロプスは巨体を起こし、食事である三人を見下ろす段階まで来ていた。
ハンターとレッシュが素早く左右に散開し、それぞれがサイクロプスに銃弾を撃つ。サイクロプ
スの足に当たった銃弾は、わずかな鮮血を垂らすだけで大きなダメージを与えてはいない。
それでもサイクロプスは銃弾の主を最初のターゲットと確認したようだ。残りの一体はわずかに
震えているシェラを凝視している。
理想的な一対一の対決に持ち込んだハンター達。戦いの火蓋はきられたのだった。