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その6:オシェイマスの目的

「天使だぁ?」

「はあっ?」

「天使ですって!」

 三者三様の声が響く。ハンターとレッシュに共通しているのはオシェイマスを見る疑い

の目だ。シェラは反対に目を輝かせ、まじまじとオシェイマスを見つめている。

「あっ、信じてませんね! わたしは天使の国を代表してここに来たんです。嘘だと思う

なら問い合わせてもらってもかまいませんよ!」

「問い合わせるって言ってもねえ。天使の国なんて聞いたこともないし」

「アクサ医院に問い合わせるっていう手はあるがな。正気かどうか確かめるのに」

 シシシシといじわるそうに笑うハンターに、レッシュが深々と同意する。

「疑われるとは遺憾です。どっからどう見ても天使ではありませんか!」

「そうよ! 疑ったらかわいそうだわ!」

シェラがかばうように、ハンターとオシェイマスの間へと割って入った。ハンターがレ

ッシュに目をやると、レッシュはうつむいて首を振っている。

「んじゃ、あんたが天使だと仮定して」

「どうして仮定なんですか。断定してください!」

「……仮定してだ。こんなところでなにをしている?」

 質問を受けるとオシェイマスは、いままでとはうってかわって笑顔で答えだした。

「よくぞ聞いてくださいました!」

 眼をランランと輝かせているオシェイマスに聞こえないよう、ポツリとハンターがつぶ

やく。

「聞かなきゃよかったな……」

「なにか言いましたか?」

「いや、続けてくれ」

 手を差し出したハンターに、オシェイマスは大きく頷いた。

「わたしの国が今大変な事態に巻き込まれているのです! 度重なる疫病で病死するもの

が続出、天使はいまや絶滅の危機にみまわれているのです!」

 こぶしを高々と突き上げて、オシェイマスが力説する。ハンターのそばまで来たレッシ

ュが深いため息をついたのも知らずに。

「我々天使の一族を救う手段はただ一つ! 万病に効くと言われるユニコーンの角を持ち

帰ること! ユニコーンの角のためならたとえ火の中水の中!」

「ユニコーンの角? この辺にそんなものがあるなんて聞いたことないけど」

 レッシュが首をかしげながら、オシェイマスの力説に水をさす。

 するとオシェイマスは人差し指を左右に振りながら、チッチと舌を鳴らした。

「これは確かな情報なのです! 大昔から天使の国に伝わる由緒正しい書物に、ここがユ

ニコーンの住む洞窟だと明確に書かれておりました!」

「ユニコーンが住むって……ユニコーンを殺して角を取ろうとしてるわけ?」

「ユニコーンを殺すわけではなく、ユニコーンを普通の馬にするわけです。この薬で」

 懐からオシェイマスが取り出したのは、細い試験管の中に入った青い液体だった。

「これをユニコーンに飲ませれば、あーら不思議。ユニコーンはたちまち普通の馬になり

角だけが取れてしまうというわけです。天使の国に伝わる秘薬ですね」

 秘薬を懐に直し、オシェイマスはフンと胸を張った。

 ハンターはシェラとレッシュの肩をポンと叩くと、親指で洞窟の入り口を指差した。

「天使の国って言葉が多々出てきて怪しさ満点だが、だいたい分かった。後は好きにして

くれ」

 オシェイマスに背を向けて洞窟の入り口へと足を進める三人に、慌ててオシェイマスは

回りこんだ。

「待ってください! よければわたくしも連れて行ってはもらえないでしょうか!」

「言ったろ? 後は好きにしてくれ。じゃあな」

 回りこんだオシェイマスを避けて、再び洞窟へと向かうハンター。逃がさぬようにオシ

ェイマスはもう一度道をふさいだ。

「わたくし知識は豊富なのですが、実戦となるとからっきしダメでして。ユニコーンがい

る奥の部屋までの間にモンスターにでも襲われたら……」

「達者でな」

 三度避けようとするハンターを止めたのは、オシェイマスではなくシェラだった。

「ハンター。一緒に連れて行ってあげましょうよ。天使の国の一大事だって言ってるんだ

し、人助けならぬ天使助けだと思ってさ」

「シェラ、さっきの話を信じてんのか?」

「もちろんよ。背中に生えてる羽も本物っぽいし、天使以外にこんな羽が生えてる人間な

んていないでしょ?」

 顔を見合わせるハンターとレッシュに、シェラは純粋な目をぱちくりとさせながら首を

かしげていた。

 ひそひそと内緒話をハンターとレッシュが交わす。それからハンターはオシェイマスに

問いただした。

「で、お前さんなにか役に立つのか?」

「回復魔法が得意です! 怪我をしたときにはいつでも言ってください!」

「ほら、回復魔法をつかえるなんてすごいじゃない。わたしの言ったとおり連れて行って

あげたほうがよかったでしょ?」

 無邪気に鼻歌を歌いだしたシェラに、やれやれと二人が息をついた。

 入り口から覗いた洞窟内は、真っ暗でなにも見えない。ときおり落ちる水滴の音だけが

かろうじてレッシュの耳に届く。

「レッシュ、ランタン出してくれ」

 言われてハンターの手にレッシュが乗せたのは、ランタンとは似ても似つかない一本の

棒だった。

「なんだよ、これ」

「たいまつしかないの。ランタンは高いし」

「………」

 もはや口論する気にもなれず、ハンターは受け取ったたいまつに黙って火をつけた。

 ボウッと燃えだしたたいまつの先が、周囲をを明るく照らし出す。

 ごつごつとした床がまっすぐと伸びているが、十字路はまだ見当たらない――もしくは

たいまつの明かりが届かないようだ。ところどころ天井からの水滴で水たまりができてい

るものの、無理をしなくてもまたげるような小さなものばかりだ。

「んじゃ行くか。先頭はレッシュとシェラ。真ん中がオシェイマス。しんがりがおれだ」

「レッシュと隣か……」

 不満げにつぶやいたのをハンターやレッシュが聞き逃すはずはなかった。

「シェラ、洞窟を探検したことはあるか?」

「商人の護衛とかが多かったからね。街と街の行き来をすることはあっても洞窟に入った

ことはないわ」

「だったらなおさらレッシュの隣にいないとダメだ。生きて帰れないぞ」

 ちらりとレッシュを見ると、レッシュはにこやかに手を振っていた。

「……なんか、ばかにしてない?」

「してないしてない、したこともない」

「どうだか……」

こうして奇妙な連れを抱えた三人は、洞窟の中へと進んでいった。

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