その4:出発のとき
翌朝、まだ日が昇る前に三人はオートエーガンの前に集まっていた。
冷え切った地面から上る冷気と、木々を揺るがす風が寒さをいやおうなく体感させる。
ハンターとレッシュは昨日と同様の服装の上に、毛皮のコートを羽織っていた。レッシ
ュだけは武器とは別に、背中に背負えるナップサックを背負っている。
三人は寒そうに体を震わせながら、ニオの保存食の完成を待っていた。
シェラはもちろんバイト中のエプロン姿ではなく、銀でできた胸当てと地面すれすれまで
伸びるツーハンテッドソードを腰に着けていた。手には厚手の手袋。上着は身に着け
ていないが、胸当ての下のトレーナーは生地が厚く暖かそうだ。
「ごめんごめん、おまたせ!」
開店前のオートエーガンから、ニオが慌てて姿を現した。外で待っていた三人とは反対
に、薄着でありながらも少し汗をかいている。
「そんな格好で寒くないの?」
震えながら尋ねるレッシュに、ニオは力こぶを作ってみせる。
「調理場は暑いぐらいだからね」
「若さもあるからな、レッシュにはない若さが」
横から茶々を入れたハンターは、言うまでもなく反抗のこぶしを食らっていた。
「それじゃあニオ、行ってくるね」
シェラはニオから包みを受け取ると、三人は遺跡に向かって威勢良く出発した。
――が、ニオから肩を叩かれ、ハンターが足を止める。
振り返ると、ニオは満面の笑みで両手を差し出していた。
「九千バッツになります!」
「やっぱり金とるの?」
「商売ですから!」
いったん間をおいてから、おずおずとハンターが話を切り出す。
「おれたちはこの近辺の安全のために……」
「商売ですから!」
「ちょっとぐらい安くならないか?」
「商売ですから!」
まったく笑顔を絶やさず言ってのけるニオに、どうやら交渉など無駄なようだ。
「……わかった。報酬をもらったら払うからツケにしといて」
「毎度ありがとうございます!」
支払いの確約を得て、ようやくニオは手を振りながら三人を見送る体制に移る。
「またのご来店をお待ちしてまーす! いってらっしゃいませ!」
マスカーレイドを出る三人の背後で、元気なニオの声があたりに響き渡っていた。