その11:脱出、忘却の遺跡
「さようならハンター君!」
オシェイマスが腕を振り下ろした、まさにその瞬間だった。
銃声がどこからともなくこだまし、ハンターの心臓の手前でオシェイマスの腕が止まる。
もちろんその隙をハンターが見逃すはずがない。懐にあったもう一丁の拳銃であるパイ
ソン4インチを抜くと、すばやくオシェイマスへと撃ち込んだ。眉間、首、心臓へと風穴を
開け、オシェイマスは背後へと吹っ飛んだ。
シェラはハンターのそばにがくりとひざを落とし、そのまま横たわった。シェラの首元
から、軽く血をぬぐう。
「バ、バカな……」
ハンターに撃たれてできた風穴からは、青い血が大量に流れ出している。だが、それら
の傷よりも、最初に撃たれていたわき腹を一生懸命押さえていた。
「どうして長話をしたか。どうしてシェラから手を放した隙に撃たなかったのか。どうし
て思いっきり遠くに拳銃を投げたか。わかるか?」
足音もなく人影が近づいてくる。それはデザートイーグルを構えたレッシュだった。
デザートイーグルの先からは、硝煙が立ち昇っている。
「すべてはレッシュを――敏腕盗賊の相棒に気づいてもらうためさ」
「盗賊って呼ぶな」
ポーズを決めていたハンターは、背後からレッシュに頭をはたかれてしまった。
「なぜだ、なぜ銀の弾を……」
ハンターに問うオシェイマス。ハンターが口を開く前にレッシュが代わりに答えた。
「王都直属の部隊は、常に銀の武器を使ってるのよ。残念だったわね」
「お前の言ったとおりさ、オシェイマス。おれの拳銃には銀の弾は入っていなかった。持
ってはいたが、こめなおす暇はなかったからな。シェラに手出しできないほどのダメージ
を与えるには、レッシュの一撃がほしかったんだ」
「バカな、わたしは……」
口から青い血を大量に吐き出したオシェイマスはシェイマスは地面と熱い口づけをかわし、そのままピクリとも動かなくなった。
「助かったぜレッシュ。よく気がついてくれたな」
「拳銃を落とす音はピンチの証。そう教えてくれたのはハンターだったでしょ?」
「覚えてなかったらどうしようかとひやひやしたぜ……」
額にかいていた汗をぬぐいながら、大きく息を吐き出す。
ようやく一息つけたハンターは、相棒の存在を思い出していた。
「投げた拳銃探してくるから、シェラのようすみててくれ」
「了解」
音のした近辺をくまなく探すと、難なく投げた拳銃を発見できた。少し傷がついている
ものの、作動に異常はないらしい。
早足でレッシュの元へと戻ると、血の出ていた傷口にレッシュが絆創膏を貼っていた。
「これで一件落着だな」
「ええ、ありがとうハンター。これが報酬よ」
荷物の中から百万バッツ入った封筒を、ハンターへと渡す。ずしりと重たく厚みのある
封筒を、ハンターは上着の内ポケットへとしまった。
「出口見つかったから、日が暮れないうちに帰りましょう」
ハンターが気を失ったままのシェラを背負い、レッシュの案内で出口へと向かう。着い
たところはただの壁だったが、レッシュが岩肌の一部を触ると壁が動いて出口が姿を現した。
「ん……あ?」
開いた扉から飛び込んできた日光で、ハンターの背中で眠っていたシェラが目を覚ます。
まだ寝ぼけているのか、目をこすりながらハンターに問いかけてきた。
「あれ? オシェイマスは?」
「オシェイマスは……」
説明しようとするレッシュの口をさえぎり、ハンターは小さな声で答えた。
「ユニコーンが見当たらなかったから、次の場所を探すってさ。シェラにもよくお礼を言
っといてくれって」
「そうなんだぁ。助かるといいね、天使の国」
そう呟くと、シェラはまたハンターの背中で寝息を立て始めていた。
「いいの?」
「人をすぐ信じるのは、シェラにとって短所ではあるが長所でもあるからな」
「わたしはまだ信じてもらってないみたいだけど……」
プクーッと頬を膨らませてふてくされるレッシュに、ハンターはフッと笑みを漏らす。
「そんなことないさ。一緒に旅して戦って、立派な仲間だろ?」
「それもそうね」
膨らませていた頬を戻し、スキップしながら先を進むレッシュ。
「これからどうするんだ?」
ハンターが問うと、レッシュは足を止めて振り返った。
「そうね。とりあえずマスカーレイドに泊まって、明日王都に帰ることにする」
「もう厄介ごと持ち込んでくるんじゃないぞ」
言いながらハンターは、最初の目的を思い出していた。
「そういえば、行方不明者の中に友人がいたって言ってなかったか?」
「はてさて、なんのことかしら?」
「ちょっと待て、おまえなあ!」
走って逃げるレッシュをみながら、ぼそりとつぶやく。
「やっぱり根っからの盗賊だよ、おまえは」
「盗賊って呼ぶなぁ!」
いつもどおりの反論をしてくるレッシュ。だが、その顔は笑顔に包まれていた。