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さくっと読める執着・ヤンデレ系集めました

チャラい「兄」の激重執着から逃げられません

作者: こじまき
掲載日:2026/04/01

私ことクライブバートン子爵令嬢ルビーローズは、本来であれば片田舎の領地で育つはずだった。


けれど両親の「高度な教育を受けさせたい」という意向により、幼いころから本家のデヴォンポート公爵邸に預けられている。


そして本家の跡取りであるデヴォンポート公爵令息、セドリックお兄様と兄妹のように育ってきた。


四歳上のセドリックお兄様は容姿端麗で文武両道で、しかも優しくて、いつだって私の憧れで。


「ルビ、お兄しゃま好き!」

「…どうして?」

「お兄しゃまは木登り上手で、一緒に遊んだら一番楽しいんだもん!」

「…あは、そんな理由で僕のことを好きって言ってくれる子は初めてだ」


「ルビの一番は、ずっとずうっと、僕にしてね?」

「うん!じゃあルビ、大きくなったらセディお兄しゃまと結婚しゅゆ!お兄様が一番だもん!」

「…約束だよ?僕の一番も、ずっとルビだから」


そんな子どもの戯言を、今でも彼は覚えている。


「ねえ、ルビは僕と結婚するんだよね?」


「僕が一番、ルビを幸せにできるんだよね?」


「僕、子どもはたくさん欲しいな」


そう軽い口調で私をからかって、楽しそうに笑うのだ。


「セドリックお兄様ったら、その話はもう忘れてくださいませ」

「だーめ。大事な約束は絶対に忘れない。ルビも忘れちゃだめだからね?」


そうやってお兄様が美しく微笑むと、怒る気もなくなってしまう。情けないけれど、今でも私は相変わらず彼を愛していた。


いいえ、むしろ…


すっかり大人の男性になり、国王陛下や王太子殿下からの信頼も厚いお兄様への気持ちは、昔より大きくなっているかもしれない。


「愛してる。ルビは僕だけのお姫様で、僕はルビだけの王子様だよ?」


冗談めかしてそう言う彼に、胸が締め付けられる。


「私は彼のお姫様ではないし、彼は私の王子様ではない」と、痛いくらいにわかっているから。


だって、セドリックお兄様には、婚約者がいる。


アルスターレイク公爵家のご令嬢でいらっしゃる、ルナリリー様。


家格も血筋も、すべてがお兄様と釣り合う婚約者。片田舎の子爵家出身である私とはまるで違う、本物のお姫様。


お二人が手を取りあって踊る姿は、人の目を釘付けにして…私の心臓を何度も刺す。


…「愛している」という軽い彼の言葉は、本当に愛だとしても、妹に向ける家族愛に他ならない。


だったら私の気持ちも、「兄に対する尊敬の念」であるべきだ。


十八歳になった私は、「早く気持ちに整理をつけなくては」と焦り始めていた。



ーーー



けれどそんな私の気持ちをあざ笑うかのように、お兄様は態度を改めてはくれなかった。


「今度の舞踏会用のドレス、僕が仕立て屋にリクエストしたんだよ。ものすごーく念入りにね」


明るい水色に、金色の刺繍。お兄様の目と髪の色のドレス。


「これは…」


辛すぎる。


叶わない恋なのに諦めきれない、私の執着心を大声で宣言しているみたいだ。


「早く着てみて!絶対似合うから!」


お兄様に合図されたメイドが、いそいそとドレスを着せてくれる。


「お似合いでございます、ルビーローズお嬢様。サイズも直す必要がないくらいにぴったりですわ」


「うんうん。僕、ルビのことは何でも把握しちゃってるんだよね」と、お兄様は満足げに頷く。


「すっごく似合ってて可愛い。さすが僕のお姫様だ」


お兄様は私の頬に「ちゅ」という音と消えない感触を残して、大きな宝石ケースの中から、ドレスに合う宝石を物色し始める。


「これがいいかな?でもあんまり大きすぎると下品?」なんてぶつぶつ言いながら。


「あの…お兄様、これはさすがに…」


舞踏会にはお兄様の婚約者であるルナリリー様もお見えになる。


こんな色のドレスを着ている私を、どうお思いになるか。気分を害されるのでは。


「心配しなくても大丈夫だって。婚約者殿にもドレスは贈ってるし」


それなら大丈夫…かもしれない。ルナリリー様のドレスのほうが豪華なのであれば。


私はふっとため息をついた。


「ところで…エスコートはフェアフォード伯爵家のイライジャ様にお願いしようと思いますが、よろしいでしょうか」


お兄様が一瞬だけ笑みを消して、またふっと微笑んだ。


「他の男にエスコートなんてさせちゃだめだよぉ。僕がするんだから」

「けれどお兄様にはお相手が…」

「大丈夫。婚約者殿には説明してあるから」

「でも…」


お兄様は「黙って」というように手のひらを私に向けた。


「ルビーローズが他の男に手をとられるなんてだめなの。僕がその相手を殺しちゃうから」


くすっと笑う声は軽い。いつもの調子だ。


「物騒な冗談はおやめくださいませ」

「冗談じゃないって。前に僕が留守のとき、ルビがエスコートを頼んだ男がいたじゃない?サフィールド子爵家の息子だったか」

「ええ、エヴァン様のことは…残念でした」


サフィールド子爵エヴァン様は私のエスコートをしてくださった翌日に、馬車の事故で亡くなった。「昨日お会いしたばかりなのに」とショックを受けたのを覚えている。


「あれって本当は事故じゃなくて、彼は僕に殺されたんだよ。ルビを横取りしようとするから」


お兄様はそう言って、にこっと笑う。だけど目が笑っていないような気がして、ぞくりとする。


「お兄様、不謹慎ですわ」


冷たい本気を感じたのはきっと気のせい。あれは確かに…事故だったはず。


それにお兄様は、私のような居候の子爵令嬢にすら飄々と明るく接してくれる、冗談好きで優しい人なのだから。


そして私のことは「妹みたいな存在」として、いつまでも子ども扱いで可愛がってくださっているだけ。


ただ、それだけ。


「あれ、信じてない?本当なのに」

「もう!おやめくださいませ」


ーーー


お兄様が用意したドレスを着て参加した、舞踏会。


「そんなドレスを着てくるなんて、どういうつもり?」


セドリックお兄様が「ちょっと王子殿下に呼ばれちゃったから、待ってて」と離れたすきに、ルナリリー様の取り巻きのご令嬢方に取り囲まれた。


「しかもセドリック様に無理を言ってエスコートまでさせて」

「居候のくせに」

「身の程をわきまえなさい」

「ルナリリー様のお気持ちを考えなさいな」


取り巻きの肩越しに、ルナリリー様がこちらを見ている。


そのドレスは…赤。


どうして…水色と金色は?


それにどこからどう見ても、私のドレスのほうがお金がかかっている。


なぜこんな…


「あなたはセドリック様に付きまといすぎですわ」

「それに我が儘すぎます」

「私は…そんなつもりは…っ!」

「自覚がないのが一番厄介ね」

「知ってます?生まれながらの非常識は、死なないと治らないのですって」

「も、申し訳…」


謝罪の言葉を遮られる。


「万が一ルナリリー様とセドリック様の婚約が破棄された場合、デヴォンポート公爵家にどれだけの損失が出るか、ご存じなの?」

「それは…」

「あなたのせいで婚約が破棄されたとして、償えるような損失ではなくってよ」


何も反論できない。


手を震わせて俯き「理解しております」と答えたとき、「ルビーローズ、お待たせ」という明るい声がした。


「おやおやご令嬢方がお揃いで、ルビを虐めておられたのですか?」

「虐めてなんて…!」

「常識を教えて差し上げただけですわ!」

「へえ…僕の婚約者殿の指図で?」


お兄様はルナリリー様に目を向ける。


「贈ったドレスを着てくださったのですね。似合ってますよ」


ルナリリー様は鋭い目で、セドリック様に近づく。


「一曲いかがですか、セドリック様」

「ぜひ、と言いたいところですが…」


お兄様の目が私に向く。


「ルビの顔色が悪いので、失礼しますよ」


「大丈夫?歩ける?」と甘い声で聞かれてしっかり頷いたのに、お兄様は私を抱き上げた。


「…お兄様!あ、歩けますから!」


ルナリリー様の灰色の目が、ぎりぎりと私を睨んでいる。生きた心地がしなかった。


「大丈夫?怖かったよね?僕が離れたのが悪かったんだ、ごめん」


「やり返してあげるからね」という小さな声は、私には聞こえなかった。



ーーー



その日、私は悟った。


早急にお兄様から離れなくてはいけない、と。


「婚約者より優先される妹になんて、なりたくない」


万が一お兄様の過剰な「妹愛」が原因で婚約が破棄されたら、公爵家は損失を被るはず。


ちょうどその直後、育ての親であるデヴォンポート公爵から、ひとつの縁談を勧められた。


大きな領地をもつヒッカム伯爵家。条件は悪くないどころか、相当に恵まれている。迷う理由はなかった。


「謹んでお受けいたします」


するとお兄様が部屋に飛び込んできた。


「ねえルビ、結婚するって聞いたんだけど本当?」


セドリックお兄様は息を整えて顔を上げると、いつもの笑顔でそう言った。


「ヒッカム伯爵家に嫁ぐなんて、冗談だよね?」

「…冗談ではありません、お兄様」


声が震えないように、できるだけ静かに低い声で答える。


その瞬間、空気が変わった。


笑っていたはずの彼の目が、すうっと冷えていく。


「僕と結婚するって言ったよね」

「子どもの頃の話です」

「でも確かに約束したでしょ」


一歩、距離が詰まる。


「そんなの…そんなの…っ!いくら望んでも現実的に無理ではないですか!」


私たちはもう子どもじゃない。


あなたは名門公爵家の跡取りで、身分の高い婚約者がいて、私は居候の子爵令嬢に過ぎないのだから。


涙がこぼれそうになる。


私がどれだけあなたのことを好きでも、無理なの。


「無理じゃない」

「でもお兄様には婚約者がいて…」


「ああ、そういうこと?」と軽い声が返ってくる。


「あの子、名前何だっけ?ルナリリーだっけ、ルナマリーだっけ?」


婚約者の名前すら憶えていないお兄様は、くす、と笑う。


「結婚してから殺すつもりだったけど、ルビが気にするなら今すぐでもいいよ」

「そんなこと、できるわけ…」

「できるよ。いくらでも方法はあるし」

「でも損失が…」

「婚約を進めたいのはうちじゃなくてあっち。あの子がいなくなってもデヴォンポートは痛くも痒くもないの」

「そんな…」

「むしろルビの元気がなくなって、僕が気を揉むほうが損失っていうか?」


あっさりと、彼は言った。


「ちょうどお仕置きはしなきゃって思ってたんだよね。舞踏会でルビを虐めてたから」

「でもルナリリー様たちは間違ったことは言ってな…」

「正しいとか間違ってるとか、関係ないよ」


もう一歩、さらに近づく。


「そんなことで、僕たちの愛を邪魔するほうが悪いんだから」


どうしてそんな、こともなげに言うの。何をどう言っていいのか、わからない。


「うーん…また馬車の事故にしようかな」


また?


馬車の事故?


身体から血が抜けていくような感覚に襲われる。


「まさか、エヴァン様…も…」

「言ったじゃん、僕が殺したって。信じてなかったの?」


お兄様は私の耳に口を寄せる。


「僕、ルビに嘘をついたことなんて、一回もないんだよ?」


その瞬間、ようやく理解した。


「お姫様だよ」と笑ったときも。「殺しちゃう」と言ったときも。全部、本気で本当だったのだ。


そして今も…


「逃げなきゃ」と思っても、脚がすくんで動かない。


「ねえルビ」


顎を掴まれて、上を向かされる。


彼はいつも通り笑っているけれど、水色の瞳には狂気が宿っている。


「ルビを他の男に渡すなんてできない。わかるよね?」

「どうして…私を…」


身分も低くて地味な私を…


「あは」と笑いが漏れる。


「公爵令息とか関係なく僕を”一番”って言ってくれたのは…僕を僕として見てくれたのはルビだけじゃない。だからルビも永遠に僕の一番なの。そう約束したでしょ?」


怖い。


だけどどこか、嬉しいと思ってしまう。


彼は妹としてではなく、女として私を愛してくれていたんだ。


彼はおかしいけど、嬉しいと思ってしまう私も、きっとどこかおかしい。


「なのにルビがどうしても他の男と結婚するって言うなら…そいつも殺さないとね?」


ぞくり、と背筋が粟立つ。


本気だとわかるから。


「ああ、でも縁談って次から次に湧いてくるからなぁ…どうしよっか?悩むね?」


お兄様はどことなく楽しそうに、考えを巡らせる。


「父上に病気かなんかで引退してもらって、僕が公爵になっちゃおうか?」


ぽんと嬉しそうに手を叩く。


「そしたらルビの縁談を全部潰せるし、ルビと結婚するのも自分で決められるしね。すっごくいいアイデアじゃない?ルビはどう思う?」


何も言えない私に、お兄様はくすっと笑う。


「ごめん、ルビにはちょっと刺激が強かったかな?でもわかってもらえたよね?僕が君に本気だって」


こくこくと頷くしかない。


「わかったうえでどうしても僕から離れるっていうんなら…」


深く深くキスされる。頭が痺れる。


「ルビのことも壊しちゃうよ?」


そう言って笑う彼の顔は、いつもと何も変わらない。軽くて、優しくて、いかにも「冗談だよ」というような。


だけど彼は、一度も冗談なんて言っていなかった。


最初から、ずっと彼は壊れていて、ずっと本気だったんだ。


逃げられない。



ーーー



数日後、アルスターレイク公爵令嬢ルナリリー様が馬車の事故で半身不随になったというニュースが、公爵邸内を駆け巡った。そして当然、セドリック様との婚約は取り消された。


ルナリリー様の取り巻き令嬢たちの家は不正やスキャンダルが発覚して次々に没落し、デヴォンポート公爵は急病に倒れた。


公爵邸の執務室で、セドリック様は満足げに笑う。


「結婚契約書、でーきた。これで僕らはずっと一緒だよ、ルビ」


私は頷く。


「でも僕、ちょっとやりすぎちゃった?僕のこと、怖い?」


今度は首を振る。


他人を踏みにじりながらセドリックお兄様の隣に立っているのに、罪悪感以上に「嬉しい」という感情が大きいのだから。


そう思ってしまう私に、逃げる理由なんてない。


もう逃げたいとも思っていない、と認めざるを得なかった。

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