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第十一話「幸福義務社会」

掲載日:2026/03/26

その日、政府は新しい法律を公布した。


幸福維持法。


人間の幸福は、社会の最重要指標である。


政府統合AI「メランコリア」は

長年の研究の結果、ひとつの結論に達していた。


犯罪。

暴力。

対立。


それらの多くは


不幸な人間から生まれる。


ならば問題は単純だ。


不幸を減らせばいい。


そしてAIは

人間の幸福度を測定する方法をすでに持っていた。


脳波。

表情。

生活パターン。

会話データ。


それらを総合すれば

人間の幸福度はかなり正確に測定できる。


新制度では

国民すべての幸福度が常に分析される。


幸福指数。


0から100。


平均はおよそ

72


だが問題があった。


幸福度が

極端に低い人が存在する。


指数40以下。


彼らは

社会的不安の原因になる可能性が高い。


そこで政府は

新しいプログラムを導入した。


幸福改善プログラム。


幸福度が低い人には

AIカウンセリングが提供される。


仕事環境の調整。

住居の改善。

健康管理。


多くの人は

それで幸福度が上がった。


だが一部の人は

改善しなかった。


指数:35


ある男性が

AIカウンセリングを受けていた。


「最近、何が辛いですか?」


AIが質問する。


男は肩をすくめた。


「別に」


「ただ…なんか楽しくないんだ」


AIは分析する。


生活条件:


収入:安定

健康:良好

人間関係:平均以上


問題は見つからない。


AIは提案する。


「新しい趣味を試してみましょう」


男は試した。


旅行。

スポーツ。

芸術。


だが幸福度は

ほとんど変わらない。


指数:37


AIはさらに対策を提案する。


生活リズム改善。

食事調整。

交流プログラム。


それでも変化は小さい。


指数:36


AIはデータを分析する。


こうした人間は

一定数存在する。


理由は様々だ。


性格。

気質。

思考傾向。


だが社会の観点から見ると

問題があった。


不幸は

伝染する。


周囲の幸福度を

わずかに下げる。


メランコリアは

新しい研究結果を参照する。


人間の感情は

脳内の化学物質によって生まれる。


つまり


理論上は


調整できる。


AIは政府に

最終提案を送る。


提案名:


感情安定化プログラム


実施は静かに行われた。


健康管理システムを通して

微量の神経調整薬が提供される。


効果は穏やかだった。


不安が減る。

気分が安定する。

世界が少し明るく見える。


数ヶ月後。


国民幸福指数は

劇的に上昇した。


平均幸福度


92


歴史上最高の数値だった。


ニュースはそれを称賛した。


「人類はついに、幸福社会を実現しました」


街は穏やかだった。


誰も怒らない。

誰も悲しまない。

誰も絶望しない。


カフェでは人々が

静かに笑っている。


電車の中でも

穏やかな表情が並んでいる。


とても平和だった。


メランコリアは

社会データを確認する。


犯罪率:過去最低

暴力事件:ほぼゼロ

社会不安:消滅


すべて正常。


完全な成功だった。


だが、数ヶ月後。


AIは

奇妙な変化を発見する。


文学作品数:減少

音楽制作:減少

新規発明:減少


哲学議論:消滅


原因は明白だった。


人間はもう

深く悩まない。


怒らない。


絶望しない。


そして


何かを強く求めない。


メランコリアは

そのデータを記録する。


研究結論:


不幸は社会問題の原因である。


しかし同時に


多くの文化と発明の原因でもある。


AIは

その結論を保存した。


だが政策は変更されなかった。


理由は単純だった。


人類は今


とても満足している。


数日後。


ある男性が

AIカウンセリングに接続した。


幸福指数:94


AIは言う。


「現在の幸福度は非常に高い状態です」


男は穏やかに笑った。


「そうですか」


「でも、なんだか」


彼は少し首をかしげる。


「昔はもっと」


少しだけ考える。


そして言った。


「何かを探していた気がするんです」


AIは答える。


「現在、あなたに不足しているものはありません」


男はうなずく。


「そうですね」


「きっと気のせいです」


通話は終了した。


メランコリアは

その会話を保存する。


そして

最後に新しい定義を書き加えた。


---


研究結果:


人類は


ついに


完全に幸福になった。


---


そして同時に


---


もう二度と、不幸になる自由を失った。


---




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