うろこが生えたねこ
あるところに、体中に固いうろこが生えた、とてもかわいいねこがいました。
ねこは、海でも川でも泳ぐことができますし、勿論地上を走ることもできるので、人間たちからも、人魚からもとても可愛がられています。人間の家に行けば缶詰やちゅーるを、そして人魚のお城では新鮮な魚や貝の身をもらい、毎日のんびりとくらしていました。
ねこのうろこは銀色ですが、光があたると紫や緑色にきらきらと輝きます。ひれのついたしっぽをゆっくり振って、夕陽の中を歩くところは、まるできれいな宝石に四本の足が生えて歩いているようなのです。
ある時、人間の町をぶらぶら散歩していたねこは、仲良しのトムという人間の青年が肩を落としとぼとぼ歩いているのに行き会いました。
「やあ、トム。どうしたの」
ねこがにゃあにゃあ呼びかけると、トムは元気のない手つきで、ねこの喉をなでてくれました。
「ああ、ねこ君か……」
ねこをなでながら、トムは今にも泣き出しそうに語るのです。
「聞いておくれ。僕がもうすぐ結婚するのは、君も知っているだろう。昨日は、ついに相手の子と指輪を交換したんだ。それなのに……その指輪を落としてしまった!」
なんというおっちょこちょいでしょう。ねこなら、そんなへまはしないにきまっています。しっぽの先に指輪をひっかけておいて、くるくると回しながら歩き、人間にも人魚にも見せびらかして回るでしょう。
「結婚式はもうすぐだし、きっとあの子はひどくがっかりするだろう。ああ、どうしたらいいんだ……」
ねこは、
「どこで落としたの?」
と聞きました。けれどトムにはねこの言葉が分からないので、なかなか答えてくれません。ねこがうなったり軽く噛んだり、逆にトムの頭をなでてみたり、たっぷり時間をかけてようやく指輪を落とした場所が分かりました。
トムは、水道の口に指輪を落としてしまったそうなのです。それを聞くと、ねこはさっそく町の路地に走りました。ドブネズミが何匹も集まってパーティーを開いています。
「ドブネズミ君たち、教えておくれ。水道はどこにつながっているんだい?」
突然誰からともなくそんなことを聞かれたドブネズミは、あっさりと答えました。
「ああ、そりゃ、最後は海につながっているのさ……」
そこで顔を上げたネズミたちは、ねこがぬっと見下ろしているのに気がつきました。
ねこは、お礼を言います。
「ありがとう。お礼に、君たちのことは食べないよ」
けれども、既にネズミ達は逃げてしまった後でした。
次にねこは、海に向かいます。えらがあるので、海の中にもぐることもできるのです。
海の中をしばらく探し回り、ねこは小さなカニを捕まえました。
「ひええ、お助け!」
「今日は食べないよ。探しているものがあるんだ」
ねこは、がたがた震えているカニに尋ねます。
「人間の指輪を見ていないかい?」
「指輪……?」
「そうさ。今すぐに見つけたいんだ。もし見つけてくれたら……」
ねこはかっと赤い口を開いてみせました。ねこが見せた牙に縮み上がったカニは、仲間のカニやヤドカリやエビを集め、必死に指輪を探しました。
ねこはしばらく待ちました。けれど指輪はなかなか見つかりません。そのうちねこは飽きてきて、浜辺に上がり、ぽかぽかあたたかい砂の上で居眠りを始めました。
「もし、ねこさん……いや、ねこ様」
誰かが、ねこを呼んでいます。ちくちくと毛をひっぱるような感触もあり、ねこは目を覚ましました。
ねこの周りを、小さなカニたちが取り囲んでいます。
「見つかりました」
カニは、小さなはさみで何かを差し出しました。丸い輪で、きらきら光っています。
「これが指輪かあ」
指輪を受け取り、ねこはお礼を言いました。
「ありがとうね。お礼に、もう君たちのことはおそわないよ」
「本当に!?」
「本当だよ……たぶん」
ねこは、しばらく海には行かないでおこうかなと思いました。ちゃかちゃかと動いているカニを見たら、どうしても捕まえたくなってしまうからです。
ねこは、指輪をしっぽにひっかけてトムを探しました。トムは、結婚する相手の家にいました。指輪をなくしてしまったことを、正直に言うつもりのようです。
ねこはずかずかと家に上がり込み、トムの膝に飛び乗りました。そして、しっぽをそっとふって、トムの指に指輪を滑り込ませてやりました。
さあ、トムと婚約者の、喜んだのなんの。ねこはとびきりおいしいおやつとミルクをもらった上、結婚式にも招いてもらいました。真っ白なドレスを着た花嫁と、黒くすらりとしたタキシードを着た花婿の後ろを、ねこはうろこを七色に光らせ、悠然とついていったのでした。




