悪役令嬢に憧れて。
彼女、フランシス・エポワーズは今流行りの悪役令嬢に憧れていた。
それも心底憧れている。
今もその真っ最中だ。
「お~っほほほほっ……げふんげふん。……やはり、このような高笑いは現実的に無理があると思いますが、本当に皆さんなさっているのでしょうか? 喉の負担にならないかしらね」
彼女の努力は基本的に間違った方向へと進んでいる。
今日も今日とて、その努力と成果はなにも変わることはない。
それが証拠に――
「ご本にあったとおり、さっそく『ドアマット』なるものも購入いたしましたが、これはどう使うんですの?」
彼女はとりあえず、ドアマットの本来あるべき姿である、部屋の扉の前に敷いてみることにした。
それもご丁寧に二枚も。
「これでよしっと。あとは……コレですわね」
次なる行動は、こんにゃくの出番である。
「こんにゃく破棄というくらいなのですから、そのままゴミ箱に捨てればよろしいのかしらね? それとも千切って投げるべきかしら?」
彼女は袋からこんにゃくを取り出すと、さっそくとばかりにベッド横にあるごみ箱へと捨て去る。
千切っては投げ、千切っては投げ。
こんにゃくの端から手で千切る。
その姿は初めてながらに、もはや職人芸。
「それにしても、『こんにゃく破棄』とは随分と変わった風習ですわね。こんなものが流行っているだなんて……ほんと、どうかしてるわ」
少しの疑念は更なる混沌へと昇華する。
「クルクルクルぅ~♪ クルクルクルぅ~♪」
彼女はいまドライヤーと専用の器具を使い、自らの髪をツイン・ロール状にしている。
これも悪役令嬢ならではあるが、既にお察しの通り、彼女は髪よりも先に頭がクルクルパーだったのだ。
だがそれも致し方のないことである。
何故なら、彼女は『悪役令嬢』というモノを言葉のみ、単語のみでしか知らなかったからだ。
だから『托卵』が流行ってると聞けば、本物の鳥のカッコウを購入するが、用意したその場からカゴを開け逃がしてしまい、卵を産む前から未托卵。
企んでいる矢先から、もはや破綻している。
そうして最後に彼女が手にするものとは……
「木で作られたバッド? 金属で作られたバッド? この二つは泉でも落とせばいいのかしら?」
それはまさにバッドエンドであった。
彼女が本当の意味で『悪役令嬢』を知ることになるのは、もう少し先の話でした。




