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成長した貴方と共に。

 先も見えないような夜闇の森の中、お嬢様を抱えながら駆ける。暗闇の中ひっそりと建つ小さな小屋の前で立ち止まり。一度周囲を警戒した後、お嬢様を起こさぬよう静かに小屋へ入る。そこは狭いながらもきちんと掃除されており、最低限ではあるが家具も食材も揃えてある。数日すごすくらいには問題ない、そんな休憩所の様な小屋だ。

 お嬢様をベッドへと寝かしつけると、愛おしむ様に髪を撫でる。しばらくそうしていたが、時計を見ればそろそろ夜が明ける時間だ。お嬢様がいつ起きてもいい様に、身の回りの準備や逃亡経路の確認、周囲の警護など、今の内にやることをやってしまわねばならない。数時間後には、数人の侍女や従者が合流する手はずになっているが、それまではお嬢様の傍に自分しかいないのだから。撫でていた髪のひと房にそっと口づけを落とし、すやすやと眠るお嬢様の寝顔に後ろ髪を引かれつつ作業に移る。それからの時間はあっという間だ。気が付けば、小屋の近くに知った気配が数人分近づいていた。

 

 「クロエ、ミレア様は無事か?」

 

 ガチャリ、と最低限音を抑えてはいるが、慌てたように開くドアの方を窺えば数人が心配そうに顔をのぞかせていた。眉間に皺をよせ、口前に人差し指を立てる。こちらに頷きながらも寝台の方を見やり、気持ちよさそうに寝ているお嬢様を見て、皆安心したように胸をなでおろしていた。

 お嬢様の見立てでは、意識を失ってから丸一日と少し眠りにつき、十分に魔力を回復させないと目が覚めることは難しいとのことだった。使用人がそろった今、この先の移動などに向け体制を万全にするべく、自分も少し休憩しようと引継ぎなどをしてソファに横になることにした。

 

 

 *

 

 

 「貴方、私の元にこない?」

 

 初めて見た彼女は、一人夜更けにバルコニーに佇み空を眺めていた。そこへ現れた自分を見やると、やっと来たかとどこかほっ、としたように笑ったのだ。にこりと上品な笑みには似合わない疲れが滲み、お世辞にも愛されて育てられたであろう令嬢のものとはいいがたいような笑顔だった。そして何故、突然現れた不審人物の自分を勧誘してくるのか、ほっと胸をなでおろしているのか、意図が全く理解出来なかった。疑問や困惑、警戒等からくる動揺が顔に出ないようにしたつもりだったが、視線を合わせた途端彼女には見抜かれた、そう、思った。

 

 「警戒するのも当然です。ただ、貴方が私を信じるか、信じないかはお任せいたしますわ」

 「何を……」

 「これから貴方は、どのような行動をとっても私から離れれば、そこでは多種多様な死が待っています」

 

 変わらぬ笑顔を貼り付けたまま、彼女は何を言っているのだろうか。理解できぬ存在に、取り繕うこともできず眉を寄せてしまう。だが、逸らされることのない瞳は怖い程にまっすぐ、そして強くこちらを射抜く。彼女は、どういう理由かはわからないが、どうやら自分を助けようとしている、らしい。

 

 「私は貴方より魔力操作に慣れていて、防御攻撃において貴方は私に敵いません」

 「何故そんなことがわかる」

 「私は貴方の死を何度も“見て”きているからです。そしていつも原因は私、いえ。聖女暗殺の失敗だからです」

 

 彼女の言葉に、思考が止まり恐怖からか指先から冷えていく。彼女が言う聖女暗殺失敗という言葉。何故、彼女が知っているのか。まだ誰も殺してもいなければ、その計画を知る者はほんの数人であるはずだ。そして誰を聖女として殺すかの判断は、自分が任されている。彼女が狙われると知っているのは、自分だけだ。

 驚きのあまり、視線を逸らすことも、身動きを取ることすらできずに乾いていく口をなんとか動かそうとする。

 

 「貴方の血筋も境遇も、少しは知っています。ですが安心してください、私以外は誰も知りません」

 

 びくりと肩が揺れる。そんなことまで知られているのかと、どんどん血の気が失せていく。安心など出来るはずがない。暗殺者として教育された。だが、こんな得体の知れない人間なんて相手にしたことがなく、どうしてもいつものようにいかない。いつもは隠せる感情も、視線一つで否応なく引きずり出されてしまう。

 

 「私はもう、貴方が目の前で死ぬのを見たくないのです。どうか、この手を取っていただけないでしょうか」

 「……手を取ったとして、その後どうする?」

 「そうですね。私の専属従者なんてどう?一応一通りの仕事は出来るのでしょう?」

 

 そこまで知られているのか。出された手をまじまじと眺めてしまう。だがしかし、暗殺をしに来たと知っていて、専属の従者になどして監視でもするつもりなのだろうか。いい加減、動揺も度が過ぎて頭がやっと回りだす。

 

 「わかった、その手を取ろう」

 「ありがとうございます」

 

 取った手を両手で大事そうに包み込まれ、心からほっ、とした笑顔を向けられた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 ぱちり、と目が覚め周囲を確認する。数十分程度眠っていたが、特に変わったことはなかった様だ。静かなこの小屋の時間がゆったりとしているからか、このところ忙しくてあまりちゃんと眠れていなかったせいか、どうやらとても懐かしい夢をみていたようだ。

 頭を振り、意識を切り替え明日以降のことを皆で再確認しなければ。

 

 

 


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