⑨ヴィヴィアンとの深い絆(続き)
「シャル、無理はするな。もし何かあったら、すぐに僕を呼べ」
ヴィヴィアンの言葉に、シャルロッテは少しだけ胸が温かくなった。彼は、いつもぶっきらぼうだが、誰よりも彼女のことを心配してくれている。それは、彼女がベルンを愛するのと同じくらい、彼も彼女を大切に想ってくれているからだと、シャルロッテは知っていた。
「大丈夫だよ、ヴィヴィアン。私、魔女協会の期待の新人なんだから」
シャルロッテは、無理に明るく振る舞った。しかし、彼女の心は、すでに恐怖に支配され始めていた。
「…行くぞ」
ヴィヴィアンは、それ以上何も言わなかった。ただ、彼の銀色の瞳が、彼女の嘘を見抜いているかのように、まっすぐに彼女を見つめていた。
二人は、歪みが特に顕著な場所を調査しに、渋谷の繁華街へと向かった。
街には、楽しそうに行き交う人々、賑やかなカフェ、輝くネオンサインがあった。しかし、シャルロッテの目には、その輝きがどこか不自然に映る。まるで、色褪せた絵画を、無理やり鮮やかに塗り直したかのように。
「なあ、シャルロッテ」
ヴィヴィアンが、真剣な表情で彼女を呼び止めた。
「君、最近、何か変わったことはなかったか?…ベルンと、何かあったとか」
「え? ベルンと? 何もないよ。今日も朝、一緒にご飯食べたし」
「そうか…」
ヴィヴィアンは、何かを言いたそうに口ごもった。彼は、シャルロッテがベルンを想うあまり、無意識のうちに魔法を暴走させているのではないかと疑い始めていた。だが、親友の口から、愛する人への疑念を告げることは、彼にはあまりにも酷に思えた。
その時、シャルロッテの心の中に、ふとベルンの言葉が蘇った。
「僕の知ってる魔女の中で、一番だ」
その言葉を思い出すたびに、彼女の心に温かい感情が広がる。しかし、同時に、彼女の心の声が、勝手に頭の中で響き始めた。
(…一番、ってことは、二番目の魔女もいるってこと? 誰だろう、まさかベルンに、私以外にも好きな人が…?)
心の中の、ほんの小さな嫉妬心。その瞬間、シャルロッテの隣を通り過ぎた男性が、ぼそっと呟いた。
「…二番目の魔女って、誰だろうな…」
「っ!?」
シャルロッテはハッと息を飲んだ。ヴィヴィアンが、心配そうに彼女の肩に触れる。
「どうした、シャルロッテ? 顔色が悪いぞ」
シャルロッテは、男性の背中を、ただ茫然と見つめていた。心の中の小さな声が、なぜか他人の口から発せられた。それは、単なる偶然なのだろうか? それとも…。
彼女の心に、言いようのない恐怖が、じわじわと広がり始めていた。