④幸せな日常と小さな違和感(続き)
ベルンとの朝食は、シャルロッテにとって一日の始まりを告げる、何よりも大切な儀式だった。彼の淹れるハーブティーの香ばしい匂い、彼の焼くパンケーキの優しい甘さ。それらはすべて、彼女が魔法で作り出した、偽りの幸せではなかった。いや、少なくとも、彼女はそう信じていた。
「もう行っちゃうのか? せっかくだから、もう少しゆっくりしていけばいいのに」
ベルンは、彼女が立ち上がったのを見て、少しだけ寂しそうな顔をした。彼の言葉に、シャルロッテは胸がキュンとなった。
「ごめんね、ベルン。でも、今日は大事なテストの日なの。ヴィヴィアンに怒られちゃう」
「ヴィヴィアンか。相変わらずだな」
ベルンは苦笑しながら、洗い物をするためにシンクへと向かった。その背中を見つめながら、シャルロッテは心の中で、彼の幸せを願った。彼が人間であるために、彼女の魔法の世界から切り離されてしまうことが、彼女の心の奥底にある小さな不安だった。だからこそ、彼女は彼との時間を、誰よりも大切にしようとしていた。
「じゃあ、行ってくるね!」
シャルロッテは、彼の背中に向かって大きく手を振った。ベルンは振り返ることなく、ただ静かに頷いた。その小さな仕草に、彼女は少しだけ胸がざわついた。いつもなら、必ず笑顔で振り返ってくれるのに。
「どうしたんだろう…?」
不安を感じながらも、彼女はアパートの扉を開け、外へと飛び出した。