⑫夢と現実の境界
ベルンのもとへと急ぐシャルロッテの心は、恐怖と後悔でいっぱいだった。ベルンを危険に晒したくない一心で、彼を遠ざけていたことが、かえって彼を危険に陥れているのではないか。そんな不安が、彼女を襲う。
しかし、時すでに遅し。シャルロッテがアパートの扉を開けたとき、目にしたのは、床に倒れ伏しているベルンの姿だった。彼の顔は青ざめ、呼吸は浅い。彼のそばには、彼の持病である心臓病の薬が、空になった瓶のまま転がっていた。
「ベルン…! ベルン!」
シャルロッテは、悲痛な叫び声をあげ、彼の身体を抱き起こした。彼の身体は冷たかった。彼女の赤い瞳から、大粒の涙がとめどなく溢れ出す。
「いや…いやよ…ベルン…!」
その時、シャルロッテの頭の中に、今まで見ようとしてこなかった、ベルンの死の記憶がフラッシュバックした。
ベルンが病に倒れ、医師から余命を宣告されたこと。病床で、彼が彼女に伝えた「僕の知ってる魔女の中で、一番幸せになってほしい」という言葉。そして、彼女が彼の死を受け入れられず、無意識のうちに魔法を暴走させ、彼との幸せな時間を繰り返す夢の世界を作り出したこと。
すべての記憶が、濁流のように彼女の頭の中へと流れ込んできた。
「嘘…嘘よ…私が…私が、ベルンを…」
彼女は、自分が作り出した、残酷な真実を思い出し、絶望の淵に突き落とされた。




