⑪大魔女ヴィーデルの伝説
その日の夜、シャルロッテはベルンに会うのが怖くて、魔女協会に泊まることにした。
「ベルン…ごめんね…」
スマホの画面に映る、ベルンからの「大丈夫? 帰ってこないのか?」というメッセージに、彼女は返信することができなかった。彼女の心が、彼との間に見えない壁を作り始めていた。
翌朝、マダム・クレアに呼び出されたシャルロッテは、衝撃的な報告を受ける。
「どうやら、今回の歪みの原因は、『大魔女ヴィーデル』という存在らしい」
マダムは、古い文献に記された、伝説の魔女の物語を話し始めた。
「ヴィーデルは、愛する人を失った悲しみから、世界を繰り返す魔法をかけたと言われている。そして、彼女の作り出した世界は、次第に歪み、崩壊していったそうだ」
シャルロッテは、マダムの話を聞きながら、心臓が凍り付くような感覚を覚えた。それは、どこかで聞いたことがある物語だった。
「…ヴィーデルは、どうなったんですか?」
「それが、わからない。ただ、彼女の作り出した世界は、最終的に彼女自身を消し去ってしまったという伝説が残っている」
その話を聞いた瞬間、シャルロッテの頭の中で、ベルンの声が蘇った。
(…僕の知ってる魔女の中で、一番だ…)
そして、ヴィヴィアンの言葉も。
(…君か、もしくは…)
「…まさか」
シャルロッテは、全身の血の気が引くのを感じた。
「マダム、私…やっぱりベルンのそばにいます」
「そうか。それが一番だ」
マダムは優しく微笑んだ。
シャルロッテは、魔女協会を飛び出すようにして、ベルンの元へと急いだ。心の中で、何度も何度もベルンの名前を呼んだ。
(ベルン、お願い、無事でいて…!)
その時、彼女はまだ気づいていなかった。この世界の歪みの根源が、「大魔女ヴィーデル」という、自分自身であるということを。そして、ベルンの死という悲劇が、もうすぐ目の前に迫っているということを。




