⑩崩れゆく現実
その日以来、シャルロッテは街に出るのが少し怖くなった。
自分の心の中にある、ほんの些細な思考や感情が、まるで誰かの声となって聞こえてくるような気がした。魔女協会での任務中、彼女が「このビルの形、少し変じゃないかな?」と心の中で思った瞬間、隣を通り過ぎたOLが、「このビル、前はもっと尖った形だったわよね?」と呟いた。
「…シャルロッテ、どうかしたのか?」
隣を歩いていたヴィヴィアンが、彼女の異変に気づいた。彼は、彼女の心の声が他人に聞こえていることには気づいていない。ただ、彼女が日に日に不安定になっていくことに心を痛めていた。
「ヴィヴィアン、私…少し疲れたかもしれない」
「そうか。ベルンに会いたいか?」
ヴィヴィアンは、シャルロッテの心の奥底にある、ベルンへの想いを読み取ったように言った。しかし、その言葉は、シャルロッテの心をかき乱すだけだった。
(…ベルンに会いたい。でも、今のベルンは、本当にベルンなのかな…?)
そんな疑念が、彼女の心に巣食っていた。街に広がる「歪み」は、彼女自身の心の中にある歪みなのではないか。そんな考えが、彼女の頭を支配し始めていた。




