1-18.救出
重い鉄扉の奥。
シアンの手元からこぼれる魔導灯の青白い光が、冷たい石壁を淡く照らしていた。
「ここが……最深部か」
シアンが手を止めると、薄暗い空間の奥に――鉄格子に囲まれた小部屋。その中で、膝を抱えて座る少女の影があった。
セリナ。
レオンが名を呼ぶ前に、彼女がゆっくりと顔を上げる。
「……来てくれたのね」
その声はか細くも、不思議な響きを帯びていた。
目が合った瞬間、レオンの胸の奥で何かが大きく波打つ。
「君が――巫女、セリナ……?」
セリナは微かに微笑んだ。
「あなたの声が、聞こえていた。……怒りも、悲しみも。精霊は、あなたの心に寄り添っている」
レオンは一瞬、言葉を失う。
心の奥底に誰かが触れたような、温かな感覚。
それは、自分だけの痛みではなかった。
「シアン、鍵は――」
「こっちだ、待ってろ」
シアンが魔導工具を取り出し、格子の錠前に仕掛けを当てる。火花が散り、小さな破裂音とともに鍵が外れた。
レオンが扉を開け、手を差し伸べる。
「……立てるか?」
セリナはゆっくりと立ち上がり、レオンの手を取った。
その手は細く、けれど確かな力が宿っている。
「ありがとう。……私は、大丈夫」
その時だった。
廊下の奥から、甲高い警報の音と兵士たちの足音が響いた。
「急げ!」
シアンの声に導かれ、三人は闇の中を駆け出す。
階段を駆け上がる途中、背後で怒号と魔弾の閃光が交錯した。
(逃げなきゃ……でも、このままじゃ……)
レオンの中で、再びあの熱が渦巻く。
恐怖と決意、そしてセリナの祈りのような小さな声――
(“この子を……守りたい”)
瞬間、レオンの体から淡い光が立ちのぼった。
吹き荒れる風が廊下を駆け抜け、視界が白く霞む。
追っ手の兵士たちが、一斉に立ち止まる。
異様な現象に、誰もが躊躇した。
「今だ!」
シアンが先導し、裏手の搬出口へ。
レオンはセリナの手をしっかりと握り、闇の中を駆け抜けた。
外の空気は冷たかった。
夜明け前の空に、淡い光が滲みはじめていた。
* * *
丘の上、遠くに収容塔の影を眺めながら、三人は焚き火を囲んでいた。
セリナは静かに口を開く。
「私はずっと、祈っていた。
精霊の声が絶える日が来ないように――と。
でも、あなたたちの中に、まだ“歌”が残っている。
きっと、精霊も……それを望んでいる」
レオンは、しばらく言葉を探した。
「……俺は、まだ自分が何者なのかわからない。けど……誰かを守りたい、その思いだけは……嘘じゃない」
セリナが微笑んだ。
「それで十分です。あなたは、きっと……大切な問いかけを持つ人だから」
三人の新しい旅が、ここから始まる。
夜明けの光は、静かに地平線を照らし始めていた。




