1-16.囚われの巫女
レオンたちは、霧の濃い丘陵地帯に足を踏み入れていた。
リズナの街を発って数日、帝国の追跡を避けながら辿り着いたのは、古都アヴィル――かつて精霊信仰が盛んだったとされる都市の廃墟だった。
「ここが……沈黙の聖堂?」
レオンが見上げた先には、石造りの大聖堂がそびえていた。
外壁は苔と蔦に覆われ、かつての神聖さはすでに失われている。
だが、不気味な静寂と空気に混じる微かな“気配”が、この場所がただの遺構ではないことを物語っていた。
「この下に、囚われてるらしい。精霊と話せる“巫女”がな」
シアンが小声で言う。
彼の手には、帝国軍技術部の旧図面――本来なら処分されたはずの地下構造図が握られていた。
「帝国は外部には伏せてるけどな。俺の元同僚が、“あの娘”を見たって言ってた。
……沈黙のまま、何年も、ひとことも発せずに座ってたって」
「じゃあ、なぜ今?」
レオンが問いかけると、シアンは少しだけ表情を曇らせた。
「最近、“共鳴”の報告が相次いでるそうだ。お前のも含めてな。
帝国は、過去に巫女の血筋と共鳴者が何か関係あるんじゃないかって、再調査を始めてる。……巫女は、“処分予定”だ」
言葉の奥に、シアン自身の過去の罪への苦みが滲む。
レオンは眉をひそめ、聖堂の奥へ視線を向けた。
シアンの語りが静かに終わった。
焚き火の炎が、吹き込む風にかすかに揺れる。
「――巫女は、もう助からないかもしれない。帝国は“処分”って言葉を使うとき、本気だ」
「本来なら、今この場にいないはずの存在だからな。記録も、存在も、消すつもりだろう」
レオンは黙っていた。
だがその拳は、膝の上で強く握りしめられていた。
「……巫女ってのは、精霊と人とをつなぐ存在なんだろう?」
「そうだ。セリナは、あの血筋の“最後”だと聞いた」
「なら――」
レオンは静かに立ち上がった。
目に宿った光は、かつてアーヴィンを見送ったときと同じものだった。
「……あんたの話を信じるなら、その巫女は、きっと俺と同じだ。精霊に“関わってしまった”人間なんだ」
「俺が何者なのかなんて、まだ自分でもわからない。でも……」
「見て見ぬふりはできない。あんたの言う“処分”を、黙って受け入れるなんて、まっぴらだ」
そして一歩、前に出た。
「……案内してくれ。間に合うなら、行くしかないだろ」




