だから「義妹ではない」と言っているのに
「 リリー・カサブランカ公爵令嬢!
今この時をもって、お前との婚約を破棄する!
そして!!
これからは、このサリー・カサブランカ公爵令嬢と婚約を結び直す!
お前は、俺がサリーと仲がいいのに嫉妬して、彼女に様々な嫌がらせをしたな!
お前のような悪女とは結婚できない!
俺はサリーと真実の愛を貫く!」
理想の王子様を、ちょっぴり残念にしたような金髪蒼眼のマイケル・トーミウォーカー王子18歳は、隣にいる小柄なピンク・ブロンドの肩を抱いてリリーを指差した。
場所は貴族学園の総合スペース。
今日は卒業記念パーティー。
突然、始まった断罪劇に出席者と、そのパートナーたちが固唾を飲んで見守っている。
「確認しますが、隣のピンク頭がサリー・カサブランカ公爵令嬢で間違いないですか?」
「お前はっ! そうやって! 血の繋がりがないからと、この期に及んで義妹を虐げるのか?!
他人呼ばわりするなど、どれほどサリーが傷つくかわからないか!」
「わかりませんけど?」
リリーは表情筋を使わず答える。
「なんてやつだ……」
これはマイケルの取巻き1、騎士団長の息子。
「酷すぎる、こんなのが義姉なんて」
こっちは取巻き2、宰相の息子。
「あなたはサリー・カサブランカ公爵令嬢なのですか?」
「一緒に住んでたのに、そんなこと言うなんて酷いわ!」
サリーがマイケルの胸に顔を埋めて、ワッと泣き真似する。
「泣かすな、悪魔!」
「質問に答えてください」
「そうだ。
彼女は、お前の義妹サリー・カサブランカ公爵令嬢だ!
お前の嫌がらせに堪えられず家を出てマクガレン男爵の養子になったが、本来はカサブランカ公爵の義娘だ。
お前のせいで彼女は、公爵令嬢から男爵令嬢へと身分を落としたのだ。
今すぐ正しい立場に戻せ!」
「私は彼女が自身を『カサブランカ公爵令嬢だ』と言ったのか、どうかを聞いてるのですが」
「だから事情は全て聞いていると言ってるだろう」
「そうですか。
まず3年前、私の父カサブランカ公爵と彼女の生みの母ミレネーが再婚した際、サリーとは養子縁組みしていません。
ですから彼女は単なる居候でした」
「酷いわ! あなたが意地悪して私を『籍に入れるな』と言ったのでしょう?!
連れ子を居候だなんて!」
「「そーだそーだ」」
と、取巻きーズ。
「今すぐ養子縁組しろ」
マイケルはサリーと結婚するのに、カサブランカ公爵家の身分と後ろ楯を欲しているので、何とか頷かせるつもりでいる。
「1つに、サリーをカサブランカ家の籍に入れないということは、我が家門の総意です。
2つ、すでに父はミレネーと離婚しているので、今さら養子縁組する理由がありません。
3つ、連れ子とは未成年を指すのです。
あなたは、とっくに成人して子供もいるのに、自立せず我が家に寄生したから追い出したまでです」
「「「えっ」」」
3バカが驚きの声をあげた。
「う、う、嘘よ嘘よ! 子供なんていないわ!
学生なんだから、母親と暮らすのは当たり前でしょう」
「学生って言っても30歳過ぎてるのに、母親の再婚先で暮らそうとするのはおかしいでしょう。
養育対象になる年齢を、とうに過ぎてます」
「30過ぎ?! 子供?! ど、どういうことだ? 何の話をしている?!」
「『どういうこと』?
王族なのだから結婚相手の素行調査は、していて当たり前です。
まさか身元も調べずに、婚約を宣言したのですか?」
「そ、それは……おい眼鏡(取巻き2)! どうなってる?!」
「殿下は『サリーに問題あるはずない』と仰って、調査書を読まずに捨てたのではありませんか」
「そ……だがっ」
「『経産婦は膣口に切開痕がある』と医者から聞きました。
殿下はサリーと肉体関係を持っているのに、気付かなかったのですか?」
「……っ?!」
不貞がそこまでバレていると予測してなかったマイケルは、目を白黒する。
「なるほど。これまでの閨係が皆、経産婦ばかりだったから、それが普通だと思い込んでたのですね」
「うぐぅっ」
「さて、ここからが重要です。
平民が貴族を騙った場合、極刑と決まっています。
我が家にサリーという人物はおりません。
従って、そこにいるピンク頭は死刑です。
衛兵! この女を拘束しなさい!」
リリーの声で、壁際に控えていた兵が一斉に動き出す。
「待ってくれ!」
取巻き2が制止する。
「彼女は平民ではない。男爵令嬢だ。
極刑は重すぎる。せいぜい謹慎だろう。
拘束などせずともよい!」
あんなショッキングな事実を知っても、まだサリーを庇うなんて。
「いいえ、平民ですよ。
ミレネーがサリーを14歳で産んだ時、父親が誰かわからなかったため、サリーの祖父母にあたる故マガレッタ元男爵夫妻の子として届出をしました。
ミレネーが将来どこかへ嫁ぐのにあたり、子持ちだと困るからです。
その後、故マガレッタ元男爵夫妻はミレネーが引き起こした事件の賠償金を支払うため借金を背負い、爵位と領地を売りました。
よって平民なのです」
「だが、その後マクガレン男爵の養子になったろう」
「マクガレン男爵とサリーは、愛人関係であって養子縁組はしていません。
そもそも2人は、同じ年なので養子縁組はできません。
マクガレン男爵は、サリーが自分の姓を名乗るのを止めずに野放しにしているだけです」
3バカが「信じられない」と言うように、ポカンと口を開けてサリーを見る。
「嘘嘘嘘嘘嘘! 私は自分で『公爵令嬢』とは言ってないし、自分が平民なのも知らなかった!
それにマイケル様は私が『どんな身分でも愛してる』と言ったわ!
今すぐ私と結婚して王子妃にしてちょうだい!
そうすれば刑を免れられるわ」
「んなっ……それは──」
「30過ぎで不特定多数の愛人がいる3人の子持ちの平民と王子の結婚だなんて、まさに真実の愛ですね!
これから殿下は廃嫡され、良くても男爵位でしょうから身分も釣り合いますね!
サリーが処刑されても、3人の子供は殿下が養子縁組して面倒をみてくれますよ!
良かった良かった!」
リリーの高笑いが響く中、サリーは連行されていった。
3バカも事情聴取を受けるだろう。
リリーは今日、いくつものことから卒業できて晴れやかな気分になった。
□完□