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歌集「涼雲」

作者: 酒月沢 杏

- 炎天は彼方遠くの端に落ち袖をさすりて涼しき雲だけ


- 窓際でアイスコーヒー飲み干してルーズリーフの端のシミかな


- 七畳間閉めたカーテン動かずにプラのカップに集る蠅栄え


- ぽろぽろと羽毛布団にパンのくず寝ぐせと朝に雪景色とは


- 吸って吐き吸って吐いては排気ガス金を積んでは年貢を出して


- 手のひらに残る熱すら鮮やかに忘れて求めずいられたならば


- 沈み切り誘う明かりは罠なのね海洋恐怖症の私に


- 台風に割れて裂いては切り裂いてキラキラ舞って赤いガラスに


- 人の夢思い返せば朧月エンドロールに湿気る菓子かな


- 煌々と並ぶ文字列三番線人身事故の他人事かな


- 待てば花待合室を吹き抜けて春嵐から進む勇気を


- 白魚は寝間着のままで午後三時淹れたコーヒー読みかけの本


- 糸くずは綻び洩れた祝福の天使のようなあなたの袖先


- カンカンと鳴る境界に手のひらは夕日が透けて茜と蜻蛉


- 便箋と万年筆を買い与え季語の一つも言えぬまま今


- 爛々と午前三時に光る箱あるのがいけないアイスと小銭


- お汁粉は言うほど美味しくないよねとマフラー越しに冷えた朱の頬


- 日に透けて踊るあなたを見ていたらやがて春風窓辺の花束


- 影法師光を背中に受けたなら私は私を愛せるのかな


- 鏡面に嘘をたくさん吐いたならきっとホントに成るんでしょうね


- 目が見えず季節がわからないからさ水彩絵の具の渇きをみるの


- バス停の空気が鼻を抜けたなら古い海辺の馬が駆けてく


- 幸せも不幸も書いては花緑青あの日の苦さは化合物なの


- 何一つ同じ形はないからさあなたが触れたらきっと分かるの


- チャンネルの軸は回せどノイズだけ子守唄はもうお預けかしら


- 子羊を数えようとし柵飛べず泣いてるあの子はいつかの写し身


- 踊り場で振り返って逆光のあなたに目をさ潰されたんだ


- 隔てたら裏に温度を感じるの押戸の作りじゃ開けないじゃん


- 膝に乗せ愛でて守るの冷たいわ少女に絡むグルーミングは


- 珍しく少し早くに目が覚めて脳裏が焼ける朝の公道


- 洗面台二本の片方いらなくて今日の予定は掃除に決めたわ


- 皿の端陶器の白に緑色これを食べるの理解できない


- 道を蹴る足元ばっかり見ていたら下校の道は宝石の山


- 空白になったことすら消えてたの私の消しゴムどこにやったの?


- 入ったらどこかへ行ける気がしたの残ったのは足の不快感


- ボロボロのスニーカーから漏れ出した後ろに並ぶパンくずいっぱい


- 記憶からアドリブキメるわジャズソング三十一字の私の人生


- 灰皿はローテーブルにガラス製最近めっきり綺麗なままね


- そろそろとおやすみなさいが零れ出て三回くらいは言ってしまうの


- 雨上がり洗面台に掛けられた役目を終えて休むコウモリ


- 貫いて息つく私は意固地なの空が白めばベッドの中へ


- 蓋開けて間抜けな音が響いたわつまらないの砂糖水だけじゃ


- 生活が抜け落ちていく自室から着信履歴は未登録ばかり


- 開いては閉じては開きまた閉じてアイコン右上今日も異常なし


- 先折って遠くに飛ばす天才は今やどこにも飛べやしないの


- でんでんとむしむしわたしはかたつむり殻が取れたら塩浴びて死ぬ


- 筆箱に潜めた想いはいつの日か黒く汚れて0.5ミリ


- 口元を触れて感じる息一ついらぬと望むは贅沢ものか


- その音を集めて飲めや蝉時雨湿度計は振れるばかりか


- 蚊遣火の香り消えたら目が覚めて波の音せず揺れるカーテン

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