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04 ふざけるなぁぁ! その外骨格を返せぇぇ!




「――本当に助けが来るのかな?」 



 海上。仰向けで陽の光を浴びるユウに不安が(よぎ)る。



自動氷結(オートフリーズ)を除きスリープします。ネレイス機関の救援が来るまで動かずにいて下さい]



 と言ったきり、外骨格は物言わぬ鎧と化した。



 寝返りも打てず、救助を待ち続ける。



 そんな中でユウが思い出す。

 外骨格を起動させたときの声。



「何だったんだろう、あのお姉ちゃんの声」



 一瞬だけ聞こえた姉の声は間違いなく外骨格が発していた。



 直後に淡々とした電子音声に戻ったが、あれが幻聴だとも思えない。



「きっと、お姉ちゃんがこの外骨格を装備してたんだ」



 右の掌を上空に掲げた。リンクしている外骨格の腕も太陽へ。



 乳白色の角張った装甲に、流動滑らかなクリアパーツは澄んだ青。



「お気に入りの色だもん……」



 似たような配色の外骨格は他にもあるだろう。



 しかし、



「直感でわかるもんっ。それにほらっ、潮の香りに紛れて微かにお姉ちゃんのバスタオルと同じ甘い香りが――はっ!?」



 眼前に動かした腕部を嗅ぐ途中で正気に戻る。



 深呼吸。

 息を整えて落ち着き、冷静に考える。



「後継者に認定するって言ってたけど、またお姉ちゃんの声聞けるかな」



 この外骨格もネレイス機関のものだ。

 今後も装着するには機関に所属する必要があるだろう。



 果たして一度落ちたネレイス機関に入れるのか。

 ヤエのいた魔導型水陸両用外骨格(アイアンウンディーネ)隊に入れるのか。



 そんな時だ――。 



 ユウと太陽の間。

 真紅の人魚が飛び跳ねた。



「後継者を発見っ!」



 人魚のヒレが空中で分割。

 潜航形態から海上形態へと変形した外骨格はズシンと海上へ着地。



 セパレート式ウェットスーツを着た少女が姿勢を低くし、視線を合わせる。



魔導型水陸両用外骨格(アイアンウンディーネ)隊のプルよ。よろしく」



 ユウよりも二、三歳上だろうか。

 若いながらも凛とした表情を崩さない綺麗な顔立ち。



「通信を聞いたときは耳を疑ったわ。まさかヤエさんの機体の後継者が民間人だなんて――」



「――やっぱりこれ、お姉ちゃんの外骨格なんですね!」



 食い気味に聞き返すユウ。

 プルは勢いに押され怪訝な顔をする。



「何者? 名乗りなさい」



「水流ユウですっ!」



 名乗るとプルの切れ目が驚愕に見開かれる。



「ヤエさんの()……!? そうか、それなら選ばれてもおかしくないわ」



「ふむ。灯台下暗しとはこのこと」



 気配を感じないまま近づいていた女性にユウは驚愕してしまう。

 プル同様に外骨格を纏っているが、はためいている程に装甲が薄く優雅だ。



「…………報告しとく」



 今度は大きな足音を立て外骨格がやってくる。厚手の装甲が折り重なった鈍重で堅固な鎧だ。装着者本人の口調は物静かだが。



「あら~可愛い()さんね♪」



 無数の腕を生やした蛸のような異形の外骨格が最後に合流。装着者もほぼ紐で形成された奇抜な水着で、ユウはあまり露出の多さに目を背ける。



 寝たまま動けない姿を女性達にジロジロと見られ照れを感じるユウ。



「まずはおめでとう、ユウ。ヤエさんの外骨格『ガラテイア』の後継者となった以上、明日からでも魔導型水陸両用外骨格(アイアンウンディーネ)隊の一員として働いてもらうわ」



「い、いいんですか? ボク、ネレイス機関にの書類選考に落ちてて……。それに蒼魔法も使えないし泳げないんだ」



「些細な問題よ。水流ヤエの外骨格を受け継いだのだからもっと堂々としていなさい」



「は、はい!」



(またお姉ちゃんの外骨格で戦えるんだ……!)



 起き上がることもままならないが、心躍るユウ。



 さて、とプルがユウの正面に立つ。



「起こすわね。じっとしてなさいよ」



 ゆっくりと言うの上半身が持ち上げられる。



 救助作業を見守る女性の一人がユウに声を掛けてきた。

 シルクを纏っているような薄い外骨格の女性だ。



「使えぬ蒼魔法とカナヅチ。前門の虎、後門の狼かな。精進されよ()君」



「あ、あの~、皆さん()()()されていませんか――」



 女性陣に対して()()を解くよりも早く。

 ユウの体を見たプルが怒鳴る。



「あなた全身擦り傷だらけじゃない! 止血するから一旦脱がすわよ! 一番傷が多い下半身からね」



「えっ、待って、スカートは――」



「ここには女性しかいないから平気でしょ?」



 そう言って彼女はユウのスカートを下ろした。



「海上の傷はすぐ消毒しないと――って、何これ?」



 勢いよくスカート下ろした結果、下着も一緒に脱がされる。



 顕わになるユウの下半身。

 その場にいる全員の視線がゆっくりと降下する。



「なんと前門の虎、こうもんの象……(いな)蚯蚓(ミミズ)か」



「あら♪ 可愛いソーセージ♪ 」



「…………プル。今、通信が……その子、()じゃなくて――」



「――ボ、ボク……お、男です……」



 女性陣にマジマジと股間部を凝視され。

 顔面を真っ赤にしつつユウが打ち明ける。



「だ、だってあんた、その格好……」



「スカートの気分の日もあるんです……。顔とかお姉ちゃんそっくりだし……」



「ふ、ふふ、ふ――」



 ほぼ零距離でユウのむき出しの股間部と対面した真紅の外骨格。

 プルプルと肩を震わせるプル。



「ふざけるなぁぁ! ヤエさんの外骨格を返せぇぇ!」






 こうして。

 女性しかいない魔導型水陸両用外骨格(アイアンウンディーネ)隊に一人の()()()が入隊した。


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