表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

01 アイアンウンディーネ隊に救援要請を出せ!




「アイアンウンディーネ隊を当てにするな!」



 海原を漂う船の甲板。

 走り込みの訓練をしている隊員に上官が檄を飛ばす。



「たとえ魔女どもの蒼魔法が化け物に有効だとしても、最後に物を言うのは鍛え上げた筋肉だ!」



 応っ、と若々しい返事が響く。



「魂に刻み込め。深淵火山窟(アビセルケイブ)からどんな化け物が出現しても、我々海軍の手で撃退するのだ! アイアンウンディーネ隊の手は決して借りない――」



「――敵襲(インカミーン)!!」



 弁説は一人の部下の叫び声で中断される。

 叫んだ若者の顔面は蒼白で言葉を詰まらせていた。



「報告の続きはどうした!」



「じ、自分では判断がっ……これを見て下さい!」



 震えた手付きで差し出された双眼鏡を受け取る。



「しっかりしろ! こんなことでは彼女達に出し抜かれ――」



 双眼鏡の見口を覗き込んだ。



 摩天楼。

 視界に映り込んだのは、例えるならばビル群。



 雨のような水飛沫を上げ、巨大な触手が何本も突き出ている。



「――巨大蛸級(クラーケン)っ! アイアンウンディーネ隊に救援要請を出せ!」








 海上。

 揺れる水面(みなも)に直立している少女がいた。



「いまさら救援要請……遅すぎるわね」



 水着一枚だった。



 セパレート式のウェットスーツ。

 弾力のあるみずみずしい肌を露出している。



「アイアンウンディーネ隊は出動済み、とっくに臨戦態勢」



 そして水着の上に鋼鉄の塊を羽織っていた。

 上着と呼ぶにはあまりにもゴツく、巨大な真紅の装甲。



 外骨格だ。全身を覆う金属の骨組み。

 巨大なフレームを纏う姿はまるで二人羽織。



 角張った無骨な金属片と流線が滑らかなクリアパーツが組み合わさった鎧を着込んだ少女はため息を一つ。



「便乗して湧いた雑魚くらいは海軍が相手しなさいよね」



 海にこぼした愚痴。

 それを拾う者がいた。



「実に難題。石臼(いしうす)(はし)は刺せなんだ」



「ええっと、その心は?」



「適材適所。深藍獣(インディゴ)に通用するは我らが蒼魔法のみ。しからば(おの)が責務を果たさん。といったところかな、()()殿」



「なるほど……(かえで)の言葉は参考になる」



 プルと呼ばれた少女は隣に立つ楓に会釈。

 彼女もまた首のない鉄の巨人をその身に纏っていた。



 プルや楓だけではない。

 彩り鮮やかな外骨格を水に濡らし、幾人もの女性が水上に整列している。



 魔導型水陸両用外骨格(アイアンウンディーネ)

 彼女達の着込む装備の名にして部隊名。



「私達が守る防波堤(モール)が抜けると思ってるのかしら」



 背後には巨大な拠点がある。

 海上に建てられた防衛の要だ。



 迫りくるインディゴを阻止し、市民の平和を守ることが責務。



『ん~報告ぅ。まもなく蒼壁(バリア)内に深藍獣(インディゴ)が侵入。雑魚級(レモラ)が500ね。先走り隊かしら♪』



 無駄に艶に富んだ声は偵察(リーコン)からの通信。



「射撃準備!」



 遊撃隊のエースとしてプルは腹から声を出して周囲に指示。



 そして操縦桿を握ったまま両手を背中へ。

 プルの動きをトレースした重厚な両腕は、背面装甲のハードポイントから武器を取る。



 二丁の短機関銃。外骨格サイズに大型化され内部も改良済み。

 色も機体と同じく真紅だ。



 両腕を突き出し機関銃を前方へ。



 眼前。200メートル程先。

 蒼壁(バリア)の外縁がある。



 防波堤(モール)の発生装置から出力された半透明のドーム。

 あらゆる熱線や砲撃を防ぐが、深藍獣(インディゴ)の移動は拒めない。



蜂の巣よ(ビーハイヴ)……そこから少しでも入り込んだら、ね」



 雑魚級(レモラ)蒼壁(バリア)(くぐ)ろうとしている。



 一見すれば濃い紫色の鮫。

 しかし既存の生物のどれにも分類できない。



 鮫と似た姿ながら水面(すいめん)を泳ぐのがその証拠だ。

 泳法はむしろジェットスクーターに近い。



 そのまま猛スピードで蒼壁(バリア)内に侵入。



氷弾(ブリザド)、掃射ぁ!!」



 操縦桿を握るプルの人差し指が引かれ、外骨格の短機関銃を掃射。



 連続して響き渡る、ダという轟音。

 射撃の反動で赤みがかった髪が揺れる。



 アイアンウンディーネ隊による機銃掃射。

 雑魚級(レモラ)をぶち抜き駆除していく。



 ――()()()

 少女達が使う特殊な能力。



 その実態は【水を凍らせ(フロスト&)氷を解かす(デフロスト)】能力。



 蒼魔法により海水を凍らせて生成した魔力を帯びた氷弾(ブリザド)

 それが深藍獣(インディゴ)を倒し得る、アイアンウンディーネの攻撃手段だ。



「敵の陣形が乱れた! 遊撃手(アサルト)は散開っ。陽動しつつ各個敵を殲滅!」



 プルの指示に幾人もの水着の少女が応え、鋼の機体が海上に散らばる。



潜航形態(ダイブ)っ!」



 海中へと身を翻して跳躍。水飛沫を上げて宙を舞う。



 その一瞬の間に外骨格に変動が起きた。



 外骨格の変形だ。



 まずは背面の装甲が割れ、脚部方面へとスライド。

 クリアな肩パーツも、そこから飛び出た腕も収縮。



 次に無骨なフレームに挟まれた太ももに、上半身パーツが抱きつくように合致。



 そして畳まれていた肩部パーツが伸びて脚部全体を荒々しく補強。

 プルの足を優しく包み込むように腕部パーツが伸びる。



 最後に生身の足裏の更に先。金属の指の隙間からヒレを模したパーツがせり出てフィンガーパドルを形成、掌底が開きスクリューもせり出る。



 人魚を思わせる形態だ。



 海上(ホバー)形態から潜航(ダイブ)形態へ。

 アイアンウンディーネは可変機能を持つ。それも0.71秒の僅かな時間で。



「身体を濡らしたかったし、ちょうどいいわ」



 人魚のヒレとなった外骨格を纏いながらプルは潜水。

 腰から下を大きく揺らし、常人の域を超えた潜行速度で蒼壁(バリア)の外へ。



 見上げれば、弾幕に阻まれ停滞している雑魚級(レモラ)の腹がある。



 腰に移動したハードポイントから、生身でも扱える武器を取った。

 ブルパップ式の散弾銃。当然氷弾(ブリザド)を放つ仕様だ。



 雑魚級(レモラ)の合間を縫いつつ、太陽に向かって垂直ターン。

 陽の光を反射させながら人魚が浮上。



 プルは眼下、水上に(たむろ)している雑魚級(レモラ)に向かって引き金を絞る。



氷散弾(ブリザラ)!」



 落雷にも似た『バババ』という衝撃音。

 無数の氷柱が雑魚級(レモラ)らに降り注ぎその魚鱗の装甲を穿つ。



 海上に着水。動きは止めない。

 胸から下を海水に預けた半身浴状態で戦闘を継続。



 プルは散弾銃の持ち手(フォアエンド)を引き、生成した氷塊を銃身内部に送り続けて絶え間なく射撃。



 威力も精度も上がっている。

 海中に潜ったのだから当然だ。



 少女達は()()()()()()()()()強くなる。



 水を肌で感じれば。水への理解が高まれば。

 蒼魔法は強化されるのだ。



「よし、前線を上げるわよ!」



 蒼壁(バリア)内の味方に向かって雄々しく鼓舞。



 しかし、背後に気配を察知。

 視線だけで振り返る。



 蝦蟹級(ロブストス)。見上げるほどの巨大なハサミを持つ甲殻類似の深藍獣(インディゴ)

 人魚を砕かんとその大きな刃を振りかざしていた。



 だが凶刃は届かない。



 飛び込んできた外骨格が有無を言わさずに蝦蟹級(ロブストス)を沈めたのだ。



「…………油断、ダメだよ」



 水着兼用のスポブラを着用した女性が(たし)めてくる。

 小麦色の肌は引き締まり、程よく筋肉が浮かび上がっていた。



「あなたが来るのわかってたから油断じゃないわよ、()()()



 パドマの外骨格は鮮やかな鼈甲(べっこう)色でとにかく装甲が分厚い。

 武器も蒼魔法の威力に自重を加えた巨大な斧槍型の氷刃(ひょうじん)だ。



「時に河童も川に流るる。(いまし)めねば」



 断続的に足場を凍らせ、新たな外骨格が滑るように接近。

 作戦開始時、横にいた楓だ。



「……その心は?」



「油断大敵、いかな達人であれど笑えぬ(つまず)きもある。(ゆえ)に気を引き締めん。といったところだよ、プル殿」



 彼女は極限に薄い装甲の外骨格を着込んでいた。

 あまりに軽さに、はためく装甲は花弁を思わせる美しさだ。



「相まみえる蝦蟹級(ロブストス)の群れは白兵戦に覚えあり。なれば一手、先陣を承る。いざや結ばん、氷刃(ひょうじん)よ」



 楓は腰に携えた柄だけの刀を抜刀。

 鮮麗にして尖鋭な氷の刃が形成させる。



 氷刃(ひょうじん)

 氷弾(ブリザド)と同じアイアンウンディーネの兵装の一つだ。



「駆け抜ける、吶喊(とっかん)!」



 氷刃(ひょうじん)を構えた仲間を連れて、楓は深藍獣(インディゴ)の群れに切り込んでいく。



「あの勢いに乗るわよ、パドマ。重装(ヘビー)部隊は前線維持と構築(フロントライン)をお願い」



「…………りょ」



 小さく頷き、重厚な外骨格の腕から耐衝撃シールドを展開させるパドマ。

 外周は氷、円内は水で構成されている重装(ヘビー)仕様の外骨格の専用装備。



 氷の盾を構えつつ、パドマも部隊を引き連れて邁進。



「私は巨大蛸級に、ちょっかい出しつつ隙を狙う。()()、援護射撃よろしく」



『はいは~い、イタズラなら任せて♪』



 姿が見えないほどの遠距離で狙撃をしている偵察(リーコン)の了承を得て。

 プルは飛び上がりながら海中へと潜水。



「海はあんた達のものじゃない。()()()()()()()()()()、私達は戦える!」



 鉄の巨人。海の人魚。

 二つの形態を持つ鋼鉄の鎧、アイアンウンディーネ。



 水着の上に外骨格を装備した、水も滴る魔女。

 海水湛えた戦場を彩るように彼女達は躍り出る。








「す、すごい。巨大蛸級(クラーケン)を相手に引けを取らない。これがアイアンウンディーネ隊の総力……」



 遠くで魔女達の戦い振を観て愕然とする部下に対し、双眼鏡を覗き込みつつ上官は首を振る。



「総力ではない。まだとんでもない機体がいたはずだ」



「戦力を温存していると?」



「分からん。久しくその姿を見ていないからな。出し渋っているのか、あるいは――」



 双眼鏡から目を外す。



「――機体の後継者が見つからないのか」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ