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【完結】愚鈍で無能な氷姫ですが、国取りを開始します 〜さっさと陛下と離婚したいので、隠してた「魔法の力」使いますね?〜  作者: 雨野 雫
第三章

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72.恩人へのお礼


「でも、私を見守るって、どうやって? アトラス王国とあなたの領地は、だいぶ離れているけれど……。転移魔法を使うにしても、その距離だとかなりの魔力が必要になるわ」


 アイリスの素朴な疑問に、ライラは変わらず笑みを浮かべながら答える。


「距離という概念は、私にとってはさほど意味がないものなのよ。自然の水があるところなら、どこへだって行けるから。それに、自然の全てが私に情報を持ってきてくれるの。木々や動物たちが、いつもあなたのことを教えてくれたわ」


 『恵みのライラ』は、自然を操る魔法を得意とすると師匠から聞いたことがある。彼女が人族と共存関係を築けているのも、自然の恵みをもたらす力があるからなのだろう。


「すごいわね……流石は四大魔族……」

「うふふ。他に聞きたいことはある?」


 ライラにそう聞かれ、アイリスはグランヴィルについての情報を集めることにした。彼に関して、いろいろと気になっていたことがあったのだ。


「グランヴィルが『アトラス王国を滅ぼうとした時、魔族に邪魔された』って言ってたんだけど、それってあなた?」

「いいえ、私じゃないわ。それはオズウェルドね。あの二人、仲が悪いのよ」

「オズが!?」


 ライラの言葉に、アイリスは驚いて思わず声を上げた。


 オズウェルドとは幼い頃から七年もの間一緒に過ごしてきたが、アイリスは彼から一言もそんな話を聞いたことがなかった。彼も彼で、アイリスやアトラス王国を守ってくれていたのだ。その事実に、胸の奥が温かくなる。


 するとライラは、ふと思い出したようにこう言った。


「そういえば、オズウェルドはあなたの師匠だったわね」

「何でも知ってるのね……」

「あなたに関することは大抵ね」


 苦笑するアイリスに、ライラは可愛らしくウインクしながらそう言った。すべてを知られていることに若干の恥ずかしさを覚えつつ、アイリスは質問を続けた。


「あと、グランヴィルはどうして私がここにいるってわかったのかしら。それに、『仮面の魔法師』が私であることを知ってたみたいだった」

「ここ最近の事件に絡んでいる魔族が、グランヴィルに教えたのかもしれないわね」

「人間から情報を得たという可能性は?」

「グランヴィルが人間と手を組むことは絶対にないわ。それほどに人族を嫌っているから」


 そう答えるライラは、どこか複雑そうな顔をしていた。何かしらの誤解があるとはいえ、家族を人間に殺されたと思っているのであれば、彼が人族に対して憎悪の念を抱くのもやむを得ないだろう。


「でも、グランヴィルに私のことを教えた魔族って一体何者なのかしら……最近の事件に絡んでいる魔族のことも気になるし……」

「私の方でも調べを進めてみるわね。何かわかったら教えるわ」

「……ありがとう、ライラ!」


 ライラの言葉に、アイリスは言いようもない嬉しさを感じた。


 これまで事件の裏に魔族の存在があることはわかっていたが、どうにも調査の仕様がなかったのだ。四大魔族の協力を得られるなんて、これほど心強いものはない。

 それに、ライラと協力関係を築けたということは、魔族との共存にまた一歩近づいたのではないだろうか。そう思うと、早くローレンに伝えたくてたまらなくなった。


 そんなことを考えていると、ライラがアイリスの服にべったりと付いた血を見ながら、怒ったように口を開いた。


「それにしても、グランヴィルも容赦ないわね。こんな可愛い女の子を串刺しにするなんて」

「あ! そのことなんだけど!」


 ライラの言葉に、アイリスは思い出したように声を上げた。いろいろ新情報がありすぎてすっかり忘れていたが、グランヴィルとの戦闘において理解できないことがあったのだ。


「私が刺された時のことだけど、グランヴィルが剣を抜いた時、何が起きたかわからなかったの。私の防御魔法は破られてなかったし、彼の剣身だって私に届いてなかったわ。ライラ、なにかわかる?」

「ああ、宝剣エンヴィスね? あれは、必中必殺の奥義なのよ。だから、防御魔法を展開してようが何をしてようが、あの技を使われた時点で終わりなの」

「なにそれ……そんなの、防ぎようがないじゃない! どうすればよかったの!?」


 アイリスが困り果てたようにライラに詰め寄ると、彼女はなんてこと無いようにこう言ってのけたのだ。


「あら、簡単よ。彼に奥義を使わせる隙を与えなければいいのよ。あの技にはどうしても所定の動作が必要だから、休みなく攻撃を与え続ければ、彼もあの技を出すことはできないわ」

「そんな無茶な……」


 全く参考にならないライラの言葉に、アイリスはガクリと肩を落とした。グランヴィルに隙を与えないことができる人物など、他の四大魔族くらいではないだろうか。


 アイリスの反応に、ライラはクスクスと微笑んだ後、優しい眼差しをこちらに向けた。


「さて、そろそろ行くわね。お話しできて楽しかったわ、アイリス」

「待って! 命を救ってもらったんだもの、何かお礼をさせて」


 今にも帰ろうとするライラを、アイリスはとっさに呼び止めた。四大魔族に対してできる礼など無いかもしれないが、命の恩人に何も返さないわけにもいかない。


「あら、お礼をされるほどのことはしていないけれど……そうね……」


 アイリスの言葉にライラは少し考え込むと、とても良いことを思いついたようにニコリと笑った。


「じゃあ、あなたの魔力を頂戴するわ!」


 ライラはそう言うと、徐にアイリスに近づき唇を重ねた。アイリスはその瞬間、ズッ、と体中の魔力を吸われる感覚に襲われた。


(あ、やば……)


 ほぼ全ての魔力を吸われてしまったアイリスは、座っていることすらできず地面に倒れ込んだ。

 対するライラは、満面の笑みを浮かべながらペロリと唇を舐めている。


「エマには絶対にもらえなかったの! 『黒髪緋眼』の魔力はやっぱり別格ね、とても美味しかったわ。ご馳走様!」

「それは……なによりよ……でも、全部持ってかなくても……」

 

 満足そうなライラに、アイリスは苦笑しながらかろうじてそう答えた。


「ふふ。じゃあ本当にもう行くわね。あなたの騎士さんが来てくれたみたいだし。またね、アイリス」


 ライラはそう言い残すと、池の中にザブンと飛び込みそのまま消えてしまった。水を通してどこへでも行けるというのは本当らしい。


 アイリスはなんとか起き上がろうと試みたが、完全に魔力切れで指先ひとつ動かすことはできなかった。


(これは……しばらく動けなさそうね……)


 諦めたアイリスは、ただただ雲ひとつない秋空を眺めるのだった。


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