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【完結】愚鈍で無能な氷姫ですが、国取りを開始します 〜さっさと陛下と離婚したいので、隠してた「魔法の力」使いますね?〜  作者: 雨野 雫
第一章

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29.対峙


 後日、アイリスはローレンと共に王城にある応接室で、ある人物の来訪を待っていた。アイリスは部屋の中央にあるソファに、ローレンと隣り合って座っている。


 程なくして、扉を叩く音に続き、側近エドモントの声が聞こえてきた。 


「ローレン陛下、アイリス殿下。お客様をお連れいたしました」

「入れ」


 ローレンが短く命令すると、エドモントと共に背の高い女性が入室してきた。案内を終えたエドモントが退室した後、その女性が挨拶の口上を述べた。


「ルーズヴェルト公爵家長女、マーシャ・ルーズヴェルトでございます。本日はお招きいただき、恐悦至極にございます」


 長身の女性は、いつもの白衣姿とは打って変わって、美しいドレス姿で見事な一礼を見せた。そう、ある人物とは、研究員であり公爵令嬢のマーシャ・ルーズヴェルトだ。ルーズヴェルト公爵家は王族の遠縁にあたり、代々王家に仕える一族らしい。


「この度はご足労感謝する、マーシャ嬢。今回は非公式の場だ。そう畏まらなくて良い」

「承知いたしました。お心遣い感謝いたします」


 ローレンに促され、マーシャが向かいに着席する。


「アイリス。あとはお前の好きにしろ」

「ありがとうございます、陛下」


 ローレンは隣のアイリスを見遣り一言そう言うと、手元の書類に目を通し始めた。どうやらここで書類仕事を並行して進めるらしい。公務を抜け出して同席してくれたことに感謝しつつ、アイリスは向かいのマーシャに視線を向けた。


「お会いするのは婚姻の儀以来でしょうか、レディ・マーシャ。急にお呼びしてすみません」

「いえ、再びお会いできて光栄でございます。敬称は不要ですので、マーシャとお呼びください」

「では、マーシャさんと」


 入学面接の案内をしてくれた際は、どこか俯きがちな印象だったが、今はスッと背筋を伸ばし、美しい姿勢で座っている。これが公爵令嬢としての彼女の姿なのだろう。


「本日は、あなたの研究についてお伺いしたくてお呼びしました。実は、『仮面の魔法師』は私の友人なのですが、彼女があなたの論文を見て、素晴らしい魔法師がいると私に教えてくれたのです」

「ほ、本当ですか!?」


 アイリスの言葉を聞いた途端、先程まで無表情に近かったマーシャの瞳が輝き出した。


「ええ。論文のタイトルは『魔法の効率的解析手法と反転魔法の構築について』でしたね。詳しく伺っても?」

「も、もちろんです! 論文の内容は、簡単に言えば『魔法を無効化するための魔法』についての研究です」


 そして、マーシャは目を輝かせながら、生き生きと自分の研究について語り出した。


「魔法を解析し、それと真逆の性質をもつ魔法をぶつけると、力が打ち消し合われ、対象の魔法を無効化することができるのです」

「この研究は、マーシャさんお一人で?」


 アイリスがそう尋ねると、マーシャは嬉しそうに笑みを漏らしながら答える。


「はい。まだまだ実験段階ですが、これが実用化できれば、魔物討伐の際の被害も大幅に減らせるかもしれません」

「この論文を書くにあたって、実際に魔法の無効化を試されましたか? どういった魔法に対して行ったかも、ぜひ伺いたいです」


 アイリスの言葉に、マーシャは一瞬戸惑ったような反応を見せた。魔法について詳しくないアイリスが、なぜそのような具体的なことを聞くのかと思ったのだろう。


「は、はい。何度も実験を繰り返し、魔法が無効化できることを確認しております。現段階では、どうしても魔法の解析にある程度時間を要するので、結界や防御魔法といった長時間発現し続ける魔法でしか成功はしていません。攻撃魔法は解析し終える前に消えてしまうものがほとんどですので、そこをどうクリアするかが今後の課題です」


 アイリスの問いに戸惑いながらも、マーシャは澱みなくそう答えた。


 アイリスはここ数日、魔法師調査の一環で学校にある様々な文献を読み漁ったが、国内はもちろん他国でも魔法の無効化に関する研究例は見当たらなかった。魔族に魔法を教わったアイリス以外、マクラレンのようなギフトでも持たない限り、今の人族には魔法を無効化することは不可能だろう。


 魔族にしか扱えなかった技術を、たった一人で編み出したとすれば、彼女は間違いなく天才だ。


 マーシャの研究内容を確認し終えると、アイリスはとうとう本題に入ることにした。


「ありがとうございます。では、少し話題を変えます。実は、一ヶ月程前に、陛下の自室の結界が無効化される事件がありました。そして、半年前にも二度、同様の事件が起きています。何か、お心当たりはありませんか?」

「え……」


 アイリスの言葉を聞いたマーシャの顔から、みるみる血の気が引いていく。思い当たる節があったのだろう。


「あ……わ、私は……」


 マーシャは両手を口元に当て、体を小刻みに震わせている。


「そ、そんな……私は、なんてことを……」

「落ち着いてください、マーシャさん。あなたを責めたいわけではありません」


 顔面蒼白で過呼吸になりかけているマーシャを、アイリスは穏やかな声でなだめた。そして、彼女にこう尋ねる。


「誰かに、騙されたのではありませんか?」


 真っ青なマーシャは、何度か深呼吸をした後、ゆっくりとアイリスの問いかけに答え始めた。


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