6-4(86) カフディコロニー 工業区 鉱石精錬地区
さて今僕が歩いている工業区鉱石精錬地区であるが、その名の通り精錬工場がたくさんあった地区である。もっともここの工場たちはフヨクルフが本格始動し始めた際、殆どがそちらへ移り、今やただのゴーストタウンとなっている。土地の限られたコロニーに土地を遊ばせる余裕があるのかだが…まずこの地区は小惑星の表層付近であり、デブリや宇宙からの攻撃に弱いこと。次にカフディの黎明期に作られたため、汚染に無頓着で地面汚染があること。そして、ここを使うほど容積が逼迫していないことから、今の所再開発の予定はない。
ちなみに空気・圧力が抜けるとロビーや他の工業区に被害が及ぶので、点検修理はしっかり行われているそう。部品が旧型で足りない時は、エッジさんが取り寄せたり、彼主導で新型に置き換えているらしい。さすが。
まだ人の気配というか、人の名残がかろうじて存在したロビー区画とは違い、こちら側は本当に人気がない。右を見ても左を見ても、崩れかけたあるいは崩れた廃墟があるだけである。天井を支える支柱がやけに新しく、とても違和感を醸し出している。前来た時には無かったから、確かに整備されているらしい。
鉄道の駅前のロータリー広場までやってきた。そのロータリーの中央に、キラリと光を反射する機械がある。
それは採掘用アトラクターであった。
採掘艦使いならば見慣れた物。そしてその威力を身をもって知る物。かなりの重量の小惑星を引き寄せるから当然である。戦闘艦使いであればこれが何かはわからないだろうが、その照準レンズの磨かれ方と台座の精密さ、ある種無骨な外観、そしてそれらの放つ精密機械特有の殺気から、これが兵器か、それに準ずるものであることに気がつくだろう。というか僕も怖い。射線上に立ちたくない。ロータリーのど真ん中に置いてあるから、アレが回転するならばロータリーの全体は射角内だ。
ゴーストタウンとなった街で、これは確かに運用可能状態にある。そう断定できるほど、歯車もレンズも、しっかりと整備されている。レンズの汚れや傷は性能低下に直結するが、そういったものが全く見当たらない。
つまりこいつは今すぐでも、小惑星を引き寄せる牽引力を発揮できるということである。人間に照射しようものなら、加速で首が抜けるかもしれない…
ただこれ、充分なエネルギー供給を受けている前提の話である。火薬がなければ銃は撃てないように、エネルギーが無ければアトラクターも起動しない。でも外観からエネルギー供給の有無はわからないし、例え弾込めていなくても、銃口前に立ちたくはない。
読んでいただきありがとうございます。
誤字報告も感謝です。
2025/05/22 投稿