4-6(62) 現状は不穏
ベーグルさんはエッジさんの正面に座り、エッジさんからの質問に答えている。エッジさんはそれを元に、書類にペンを走らせている。
「暇だ…」
それほど時間がかかるわけでもないだろうから離れられないし、かといって作業中に話しかけるのもどうかと思う。エッジさんが余計なことを聞くわけないから会話を見張る必要もないし、近くに居られるのは圧がかかりそうだし…
などと考えているとドアが開く音がして、サナさんが入って来た。
「いま大丈夫かしら?」
「えぇ。あちらはもう少しかかりそうですし」
隣に来たサナさんに返事をする。
「輸送はどうだった?」
「襲撃などのトラブルもなく。ベイスヘで若干渋滞に巻き込まれましたが…」
「そう」
サナさんは少し考え込んでいる様子。
「所属不明艦による襲撃ですか?」
「…えぇ。あなたが救難した艦隊の他も幾つかね。霧と共に移動しているみたいで、全く対策できていないのが現状よ」
「被害は?」
「甚大。信号に駆け付けても脱出ポッドしか残っていないわ。あなたが対応した艦隊を除いてね」
「厄介ですね、それで船団護衛ですか」
カフディはだいぶ治安がいい部類の宙域だ。傭兵も戦闘艦もあまり多くはない。少ない護衛などあってないようなものだから、船団を組んでいるのだろう。
「通商破壊が目的なら、かなり手際がいいですね。帝国海軍はなんと?いちおう領内でしょう?」
「共和国艦だと断定できないから静観、って言ってたわ。物流止めてもいいかしら?」
仮にも重工業コロニーの宙域で、しかも実害も出ているのに静観とは…あとサナさんがマジの顔していらっしゃる。
「落ち着きましょ?我が海軍も主戦線が忙しいのでしょう。きっと」
「…そうね。熱くなりすぎたわ」
落ち着いてくれて何より。物流が止まるとこちらとしても困る。しかし非効率な状態が続くのはなんとも…
「救難信号拾ったら気をつけるとします」
「そうしてちょうだい。ついでに鹵獲してくれると助かるわ」
「それは無理です…あ、向こうも終わったみたいですね」
書類を揃える音に目を向けてみれば、エッジさんとベーグルさんが席を立つのが見えた。
「終わりましたよ。おや?サナがいますね。彼に用事ですか?」
「もう終わったところよ」
「ベーグルさんの登録は終わりましたか?」
「えぇ。住民証の方も数分でできるでしょう。データ上もさっと登録するので、5分もすれば正式にカフディ地区の住民ですよ」
なんでもないことのようにエッジさんは言うが、普通の職員なら5分で発行などしない。やはり優秀なのである。




