7-5(103) 儚い人
いま僕は、ベーグルさんが泊まっていたホテルにいる。そして今日は…というかカフディに居る間は、ここに泊まることになった。クローバーの代わりに僕が来たせいか、受付の人に変な目で見られた…僕は貸宿で充分なんだけどなぁ…
「なんですかここ!絶対体壊しちゃいますよ!まるで牢屋か倉庫じゃないですか!」
「ある程度すると感覚麻痺して気にならなくなりますよ?まぁ感覚壊したくなければホテル使うべきでしょうね」
「当たり前です。だから艦長さんも私と寝ますよ!」
「えっ?僕は…」
「ダメです。それに勝手に離れないって約束したじゃないですか!もう破るんですか!?」
貸宿に泊まろうとしたら反論されて、そのまま押し切られました。この姉妹、強引なところはそっくりだな。妹にはまだ、こっそり仕込む狡猾さは備わっていないけれど、そのうちべシーさんみたくなるのだろうか。
しかし、艦の中で2人きりというのでもギリギリアウトなのに、ベーグルさんとクローバーが泊まっていたのを流用しているから、ホテルでは同室になっている。何日分払ったんですか?次べシーさんにあったら殴り倒されそうな気がする。手ぇ出す出さないじゃなくて、同室という事実なだけでマズイだろうし。
…べシーさんから逃げ続けるのとベーグルさんから逃げ出すのどっちが楽か一瞬考えてしまった。後者を選んだら前者もセットでついてくる上に、碌でもない最期を迎えそうなので、結局選択肢はない。
「…はぁ〜」
「どうしたんですか?ため息なんてついちゃったら幸せが逃げちゃいますよ?」
シャワー上がりで薄着のまま、隣のベッドに座るベーグルさんが首を傾げて言う。そういう格好もため息と葛藤の一因なんですよ…役得とか思えるほど精神図太くはないんで。
「…こっちの事です。気にしないでください。というか明日もシミュレータ使うんでしょう?休んでおいた方がいいですよ?」
「艦長さんは?」
「僕もシャワー浴びたら寝ますよ」
「…はぁい」
眠たげなベーグルさんの声を聞き、シャワーを浴びに行く。お湯に打たれ流れる水の音を聞くと、ついいろんなことを考えてしまう。
あれは依存なのか?依存相手が自分でいいのか?自分はそれほど信用に足るのか?自分は依存されることに依存しないか?
ぐるぐるぐるぐる、排水溝に吸い込まれる渦のように、纏まらない事を考える。
ぐるぐるぐる。纏まらない事も分からない事も沢山あるけれど、とりあえず思考を止める。結局なるようにしかならない。
服を着替えて、電気の落とされたベッドルームに入る。その途中、暗がりに浮かぶベーグルさんの目と視線があった。
「…まだ起きていたんですか?」
「艦長さんは…朧げで霞んでて儚げで…ふらっと消えちゃいそうな人です…だから…私が見てない…と…」
それだけ言って寝てしまった。僕は…そんななんだろうか?
読んでいただきありがとうございます。
誤字報告も感謝です。
2025/07/31 執筆完了
2025/08/18 投稿




