盟約の小箱
勢いに任せて初めて書いてみました。よろしくお願いいたします。
「アウレリ・フォンタナ、貴様との婚約を今日この場で破棄する❗」
煌びやかな夜会の中央で、大きな声を張り上げる、金髪碧眼の眉目秀麗な青年。
その傍らには腕にすがり付いている、ピンクゴールドの髪のいかにも庇護欲を掻き立てる小柄な女性。
大勢の貴族の注目集まる中、ご指名に否応なしに出ていかざるを得ない…私!?
そう、アウレリア・フォンタナ公爵令嬢である私を、ご指名したのは、この世に産まれ出た瞬間から婚約者に決まっていた、この王国の第一王子であるシュリオ・ランギロアである。
産まれ出た瞬間とは、まさにそのままの意味で、今上の国王夫妻と、幼馴染みであり共に王国を担う礎である公爵家の当主である私の両親との、「お互いの子供が産まれたら婚約者にしちゃう?」的なノリばかりではなかったが、家柄も釣り合い、魔力の馴染みにも問題無かろうとの事から、半年先に産まれた王子に合わせたように産まれた女子=私が、その瞬間に婚約者に決まったのだった。
この婚約に私達赤子の意志は1ミリも反映されておらず、成長するにつれ常々王子は不満を私にぶつけていた。
「なぜ、この王国1素晴らしい俺様がお前のような出来損ないと結婚せねばならないのだ。」と。
金髪碧眼で衆目美麗な美男子であり、剣の腕前、魔力の総量、魔法の使いこなし、勉学に置いても一度見たり聞いた事は全て覚えると言うパーフェクト王子であるのに比べ、私は老婆のような白髪に、薄いグリーンの小さな眼、背は高くもなく小さくもなく、見た目もパッとせず、また魔力の総量も少なく、勉学においでは学園で中~下の位置にいる。
出来損ない公女、貴族世界の中でそう呼ばれ、常に陰口を叩かれている。
こんな出来損ないの私であるが、家族である父母、そして兄には深く愛されており、「いつか真実がわかる日がくる」と慰めてくれている。
私は家族の愛を受けて育ち、また心から仕えてくれる使用人達に支えられ、世間の悪評からは隠されて大きくなったため、のんびりとおおらかに育ったと思う。
しかし、学園に入ると途端に様々な悪意にさらされたが、心許せる友達に守られ、なんとか三年間を過ごせた。
卒業後は王家に入り、王太子妃になるため学ぶ予定であった。
それが、卒業パーティー序盤での婚約者からのこの発言だ。
学園生活三年間、王子は学園のトップとして華々しい活躍をしていた。
私の事など片隅のゴミであるような扱いは、三年間全く変わらずであった。
そんな状態がずっと続いており、こんな状態で王子の事を愛せる程私も思いはない、こちらとしても寄らず触らずの三年間であった。
途中からあの腕にすがり付く、元平民であるという男爵令嬢が現れ、王子の気持ちがあちらに向かっていったのが端からよく見えたが、そこに干渉したいと思う気持ちは私にはなかった。
どちらかと言うと、早く婚約解消してほしいと願う学生生活であった。
なので、今回の件は私にも、我が公爵家にとっても渡りに船であった。
両親は王子の私に対する態度に、何度も王家に対し苦言をしていたが、国王夫妻の心からの謝罪と、王家に入ったら手厚く対応すると言う言葉に、我慢を重ねていた。
私としては婚約解消を心から希望していたが、王家からの勅命には1公爵家としては逆らえない。
だが、今回卒業パーティーで貴族の面々の前での王子の発言、まさかこんなところで!!とは思うものの、待ちかねていた婚約解消なるかもと期待を胸に歩みでた。
王子は相変わらずゴミを見るような眼差しで、私を睨み付けているが、一切構わず「婚約解消承ります。」と述べた。
「婚約解消ではなく破棄だ!お前のその老婆のような醜さ、頭の悪さでは理解出来ないのだろうが、俺様はお前と婚約破棄をして、この美しく可憐で聡明なリーゼを新たな婚約者とする!」
この発言に静まり返っていた貴族の面々がざわつき始める。
あの出来損ない公女であれば仕方ないかと言う声が、聞こえてくる。
優しい両親や兄の事を思うと、申し訳無い気持ちになってくる。こんな出来損ないを愛して慈しんでくれた家族に迷惑がかからないように、修道院にでも入るべきか考え込んでいると、「聞いているのか?婚約破棄だ!!お前がすがろうとも俺様の愛はリーゼ一人のものだ!早く婚約破棄の同意書にサインしろ!」と、叫ばれた。
なので「婚約破棄に同意致しますが、我が公爵家は何も咎のなきようお願いいたします。」と伝えた。
「破棄してお前は公爵家及び王国から追放だ!我が愛しのリーゼに嫌がらせ等されたらたまらない」
等と言って、傍らの女性を抱き締めた。
…こんな所ではしたないと思ったが、我が公爵家に害が及ばないなら、私一人どうとでもなるはずだ。と心に決め、同意書にサインをした。
そして、「殿下、婚約を破棄を致しましたので盟約の小箱も破棄をお願いいたします」と伝えた。
この国では婚約をするに辺り、お互いに盟約の小箱と言うものを贈り合い、身に付けることになっている。
神殿でお互いの魔力を込めで作り合うものだが、そういえば私はこれをいつ作ったのだろうか…
全く覚えにないが、婚約破棄した以上お互いに必要の無いものだ。
本来ならば神殿に行って、破棄をお願いするものだが、私はこれから国外追放になるやも知れない身。
庶民等はその場で破棄するとも聞くので、大丈夫だろう。目にするのも嫌な元婚約者の物など、身に付けたくはないだろうし。
「おお、そうであった。お前のような醜い物の魔力を、帯びたものを身に付けるなどもうごめんだ!」と言うなり、首に下げていた鎖を引っ張り、小箱を引き出して…そのまま床に投げ捨て足で踏み潰した。
18年に及ぶ婚約者だったとは思えぬ程、憎々しげに潰れた小箱を睨み付け、「お前も早く破棄しろ!」と叫ばれた。
私も首に下げてあった鎖を引き出し、小箱を手にする。
18年、何の感慨もないが、王子のように足で踏み潰ぶせる程の憎しみはない。
手のひらに置いて、その青い箱を眺めていると
「未練がましいわよ!」と、鈴を転がすような声と手のひらから小箱が払われ、ピンクのヒールで踏み潰ぶされたーーーーー「小箱の破棄してはならんーーー!!」
と、大声と共に会場の扉が開け放たれたが、もう青い小箱は踏み潰されたあとだった。
その、瞬間目映い光が王子の足元と私の足元から立ち上がり、私の意識は遠くなった。
気がつくと見慣れないベッドの上で、廻りには家族や友人達が心配そうに私を見ていた。
私の眼が覚めるのがわかると、みんな一斉に笑顔になり、家族には抱き締められた。
なんだろう、今まで身体も頭もぼんやりとしたレースのカーテンに遮られていたような感じがしていたのに、眼が覚めた途端、全てがクリアになったような気がする。
ふと、肩に掛かる髪の毛が見えたが、以前の艶の無い白髪のような髪の毛ではなく、艶々の銀色の髪の毛になってる。
私専属のメイドのエミリーが、満面の笑みで手鏡を差し出してきた。
そこには…艶の銀髪の濃いエメラルドグリーンのパッチリした瞳の美女が写っていた。
「なんで?どうしたのこれ?」ちょっとパニックになってしまう。手鏡の美人も私と同じように慌てている。
お兄様が笑いながら「それが本来のリアの姿だよ。」と優しく言ってくれるが、18年間毎日見ていた顔とあまりに違いすぎる。ポカーンとしたままの私に、今度はお父様が詳しく説明してくれた。
18年前、私の半年前に産まれた王子には、通常の貴族の半分以下の魔力しかなく、それにより身体も虚弱なため、成人できるかどうかと診断されたそうだ。
王妃様は王子を産んだ時の出血が多く、二人目以降は難しいとされ、王家の血筋を守るため、魔力の多い女子を婚約者とし、盟約の小箱にお互いの魔力を分け与えると言う魔方陣を施し、お互いに身に付ける事で、王子の命をつなぐという方法を考えたそうだ。
そして産まれた瞬間から膨大な魔力を持った私が選ばれた。
両親は私にそんな重荷を、背負わせることに反対したが、王家存続の為、また親友夫妻の為にと苦渋の決断をされたそうだ。
産まれた時の私の可愛らしさ、魔力の多さは家族が一番わかっていたから、将来成長した時に王子の魔力が成長すれば、私からの魔力の贈与は無くなり、私も元に戻れるとずっと願っていたそうだ。
しかし、王子の魔力は成長せず、逆に少なくなり続け、私の魔力をどんどん奪っていった。
盟約の小箱を破棄すれば、私は元に戻るが王子の生命を脅かす事になりかねず、両親もお兄様も解決のために色々調べてくれていたそうだ。
しかし今回の破棄騒動で事態は一気に動いてしまった。
私が元通りになったとすると、王子はどうなったのだろうか…
あの時慌てて扉を開けて現れたのは、国王夫妻だったそうだ。遅れてパーティーに到着したら、侍従がことの次第を知らせ、小箱を破棄されては!!!と慌てていらっしゃったが、小箱は破棄された後だった。
王子はというと、私同様倒れて、未だ目覚めていないそうだ。魔力の枯渇している状態だそうで、私にもう一度婚約を結び直すよう何度も使者がきている。
しかし、神殿で返納したならともかく、盟約の小箱を踏み潰したせいで、二度と私との婚約は結べないそうだ。
国王様も王妃様も理解はされているが、一人息子の為諦められないらしい。
私の両親は呆れてこの国を見限り、お母様の母国へ移住する事になったそうだ。
一人息子だと大事にしすぎて、甘やかした結果、この事態を引き起こしたのだと。
私は未だ見慣れない自分の容姿に慣れるため、また新たな知識を得るため、一足先にお母様の母国である隣国へ留学することなった。
新しい生活を始めて、覚えたい事や、やりたい事が沢山ある。もう後ろは振り返らない。